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武器屋

翌日。

朝の9時過ぎに目をさました俺達二人は、着替えをし、宿の食堂で朝食を取ったあとに武器屋に向かっていた。


ルーにはどうにか自分で服を着させた。俺も少しは手伝ったし、まだ時間がかかってしまうが、確実な進歩と言えるだろう。

昨日から思っていたが、ルーには羞恥心がないのだろうか?着替えをしようと言ったとき、すぐに服を脱ごうとする。

信頼されていると思えば悪い気はしないが、これでは他所で危険なこともあるかもしれない。それについてもちゃんと教えておかないと。


街を歩いていると、道の脇に並ぶ屋台から様々な美味しそうな匂いがする。ぼんやりとした顔のルーは、その匂いにつられてあっちこっちにフラフラする。結局、彼女は朝食を食べたばかりなのに串焼きを3本、タコ焼き(?)を6個平らげた。


金を、稼がないと、食費がぁぁっ  



「こんにちは〜」


そんなこんなで、盾と、交差する剣の看板を下げる武具店を発見、ドアを開けて中に入る。


「…むぅ」


しかし俺は、その時にルーが顔をしかめていた事に気が付かなかった。


「おう、いらっしゃい!」


カウンターから迎えてくれたのは、強気そうなお姉さん。彼女は少し驚いたような顔をしつつ、研いでいた剣を置いて立ち上がった。

店の中は明るくて、思ったよりも広い。両側のテーブルには様々な武器が綺麗に並べられ、防具は木製のハンガーで壁に吊るされていた。


「見ない顔だねぇ。新人の冒険者かい?」

「そうなんです。昨日登録したばかりで…。あの、初心者向けのオススメってあります?」

「使う得物はなんだい?あ、あと素の口調でいいぞ。アタシの性格は見ての通りだからな!」


ガッハッハッと、快活に笑うお姉さん。腕を組むときに隆起する筋肉は、その力強さを物語る。


「あ、そう?んじゃ遠慮なく。俺は剣を使う。ルーはどうする?」


訪ねながら後ろを振り向くと、ルーは真剣な表情で展示されている武器を手に取っていた。しかし、ネコ耳が動いているのはご愛嬌。

見たことのない表情のルーに少し驚く。すると、ルーは二本の短剣を持ったままお姉さんに話しかけた。


「…これ打ったの、あなた?」

「おう!よくわかったな、嬢ちゃん」

「…うん、匂いがおんなじ。さっきはちょっと、びっくりしたけど」


お姉さんは、少し驚いた表情をする。


「嬢ちゃんは、魔力の匂いがわかるのか?」

「…わかんないけど、なんとなく」

「そりゃは凄いな…。嬢ちゃんは、その二本にするのか?」

「…うん、この匂い、好き」

「へぇ、獣人には何度か会ったことあるが、匂いが好きって言われたのは初めてだな…。よし!ちょっと待ってな!」


お姉さんはそう言って奥に入っていき、二つの箱を両脇に抱えて戻ってきた。


「待たせたな。兄ちゃんにはこれ、嬢ちゃんにはこれを勧めるぞ。開けてみてくれ」


俺達は、カウンターの上でそれぞれの前に置かれた木箱を開けた。そこには、刃渡りが1メートル程ある片手剣。鞘には納まっておらず、藁でしっかりと梱包されていた。

柄を手に取り、顔の高さまで持ち上げる。見た目以上の重さに驚くが、そのフィット感に思わず口元がニヤける。


「おっ!二人とも気に入ってくれたみたいだな」


隣のルーを見ると、目が輝き、頭にある二つのネコ耳がみょんみょんと動いていた。その手元にあったのは、先程のような西洋風の短剣ではなく、ニ振りの小刀。ルーが手を傾けると、反射する光が刃の切先へと流れるが、その光り方には全くブレがない。素人の俺でも一目でわかる程の業物だった。

食い入るように小刀を見つめるルーに聞く。


「それも、同じ匂いがするのか?」

「…うん。カズマのもおんなじ」

「嬢ちゃんはやっぱり魔力がわかるのかもな。どっちもあたしが打ったもんだよ」


ルーが答え、お姉さんがその推察を述べた。ということは、お姉さんは鍛冶師なんだな。ただ、筋肉のつき方がそれだけじゃない気がする。


「そういえば、自己紹介してなかったな。あたしはこの店の店主、ネクセルだ。さん付けはしなくて良い。よろしくな」

「俺はカズマだ」

「…ルー」


自己紹介も終わったので、さっき疑問に思ったことを聞いてみよう。


「ところで、ネクセルは鍛冶師なんだよな?元々は何してたんだ?」

「今は親父の跡継いで武器屋やってるが、もとは騎士をやってたんだよ」

「道理で綺麗な筋肉のつき方な訳だ」

「お、わかってくれるか?自慢の筋肉だが、維持すんの大変なんだわ」


ネクセルはニカッと笑い、力こぶを作ってみせた。日本にいたときに聞いた話だが、女性は男性に比べて筋肉が減りやすいらしい。それだけ日々、厳しくトレーニングに取り組んでいるのだろう。


「さて、後はプレートだな。壁にかかっているので気に入ったのはあるか?値段は気にしなくていい」

「いや、俺達そこまで手持ちがないぞ?武器の分だけでも払えるかどうかわからないし」

「若ぇのに細かいこと気にすんな!足りない分はツケといてやるから、これからもご贔屓にしてくれよ」


正直言って、早いうちに良い装備を揃えられるのはとてもありがたい。


「お言葉に甘えるよ。それじゃあ、一つ試したいことがあるんだけど、いいか?」

「うん?危なくなきゃいいけど、なにすんだ?」


召喚された当日、俺は「偽装」を鑑定し、スキルは魔力にのせて周囲に広げることを知った。そこで考えたのが、「鑑定」も同様に、魔力にのせて範囲を広げることが出来るのではないかということだ。「鑑定」は通常、一つのものに対しての働きかけしかできないが、「並列思考」を予め発動しておくことで複数の物の鑑定が可能になると思う。


魔力を操作し、武器屋の中に留まるように薄く広げていく。

「並列思考」発動、「鑑定」!


壁にかかっている防具を対象に「鑑定」を発動すると、複数のアイテムの情報が同時に流れ込んできた。その中の一つが目に止まる。


=====================

アルマジロプレート ★×4

胸当て、肘当て、膝当てがセットの防具。魔物、クァッパーアルマジロの甲羅を利用して作られている。硬度は高く、温度変化にも強い。加工は少し困難。

特筆すべきは魔力の親和性が高い点で、魔力を流すことで硬度を増す。クァッパーアルマジロは保有魔力量も多く、老成した個体では甲羅の表面に傷をつけるのに上級魔法が必要になる場合もある。

=====================


「なぁネクセル、これってメチャクチャ高いよな?」

「…へぇ、どうしてそう思う?」


アルマジロプレートの前に立ってネクセルに聞くと、意地の悪い顔をして聞き返してきた。俺が何をしたのかがわかっていないから、その情報を聞き出すためだろう。試させてもらったんだし、教えるけど。


「ここにある防具を、全部同時に鑑定したんだよ」

「…鑑定って、複数同時に出来るのか!?」

「あぁ、並列思考を使った上で辺りに魔力を広げれば、その範囲内の物を同時に鑑定できるみたいだな」


驚くネクセルに仕組みを教える。「鑑定」のレベルを5まで上げる人なんてほとんど居ないだろうし、上げていても既に使い方がわかっているスキルの鑑定をすることなどないのだろう。スキルの効果範囲を広げることはあまり知られていないようだ。


「へえ、よく知ってんな、そんなこと」

「まあな。俺はこれにするよ。ルーは決めたか?」

「…うん、これにする」


ルーが指差していたのは、赤をモチーフにしたもの。赤髪のルーは、髪色と同じ赤が好きなのかもしれない。イメージカラーは赤で定着しそうだ。


「よし、わかった!ここで装備してくか?装備室貸すぞ」

「借りてくわ。ネクセルはルーの方を手伝ってもらっていいか?俺は出来るから」


小部屋に入って装備をし終えた俺は、無意識に鏡を探していた。しかし、城にあった鏡でも小さく、かつ曇っていたことを思い出す。魔法が発達している世界だから、科学が発達していないというのはこういう点にも影響が出るんだな。


部屋を出ると、既に装備を終えたルーが、また陳列棚の装備を眺めていた。


「お待たせ」

「…カズマ、似合う?」


両手をそれぞれ斜め下に広げてルーがくるりとこちらを振り向いた。浮き上がった真紅の髪が、心なしか輝いているように見えた。


「あぁ。すごく似合ってるよ」

「…そっか、よかった」


かすかにだが、確かに微笑むルーが可愛らしくて、思わず手を伸ばして頭を撫でてしまう。

ビクッと身を縮ませるルーだが、気持ちが良くなってきたのか、段々と目を細めていった。


「お熱いねぇ、お二人さん。どんな関係なのかよくわからないけど」

「あはは…。それで、今はいくら払えばいいですか?」

「総額はオマケして7万キラ。3万キラ払えるか?」


ニヤニヤと笑いながら話しかけてくるネクセル。苦笑しながら手を離して値段を聞き、「収納」の中の財布を取り出す。もともと貰っていたのが、小金貨1枚、大銀貨5枚、小銀貨10枚の計16万キラだったので、まとめてでも払うことはできる。だが、何にお金がかかるかわからないので、甘えさせてもらおう。


「今4万キラまでなら払えるから、それだけ払うよ」

「そうか。わかったよ」

「でも、本当にいいのか?俺達初対面なのに」


当然の疑問だろう。ツケを許すということは、今日、それもさっき初めて会った人間に、数万の金を貸すことと同じだ。何故そこまでしてくれるのか、正直わからない。


「まぁ、死なれちゃこっちとしても気分が悪いからな。それに、あたしは信用できるやつにしか武器は売らない。パクられたら、あたしの人を見る目が無かったってだけさ」


肩をすくめながらそう言うネクセル。自分の腕、目を完全に信じている発言だ。

これが、プロのプライドなのかもしれない。


「そっか。出来るだけ早く、残りも払いに来るよ」

「おう!待ってるぞ」

「…ばいばい」


そうして、俺達はネクセルの武器屋を立ち去った。

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