始まり
二話目!ここから本編です!
「あぁ…、ねーむーいー」
俺は机に突っ伏しながら気の抜けた声を出す。
俺は五十嵐和馬15歳!地元の高校に通う、ただのしがない高校一年生だ!(キリッ)
…うん、やめとこう。闇を増やすことになる気がする。
え?既ににいくつか闇を抱えてるのかって? 知らない知らない…。
「朝から何て声を出しているの、あなたは?」
この、俺に呆れた声をかけてくるのは大月沙那。クラス女子の中心人物だ。とりあえず学級委員。
沙那と俺は幼馴染み。母親同士の仲がよく、小さい頃は頻繁に遊んだりもした。あの頃は素直で可愛かったんだけどな。「かずまくん、だーいすき!」って言いながら摘み取ったシロツメクサを渡してくれたことを今でも忘れない。あの笑顔は人類の宝だったと俺は本気で信じている。
それなのに今となっては…うん。悲しくなるからやめておこう。
「何?なんでそんな目で見るのよ」
「いんや、なんでもなーい」
少し話は変わるが、俺は小さい頃から対人格闘技を習っており、腕には多少の自信がある。その道場が沙那の実家なのだ。
実戦経験なんてもんは、この平和な世の中ではまず無いとわかるだろう。
「夏休みが終わってそろそろ二週間たつのに、まだ生活リズム戻ってないの?どうせ夜遅くまでアニメでも見てたんでしょ?」
そう、俺はアニメや漫画が好きだ。それも深夜帯の。
フィギュアやポスターには手を出していないが、好きなラノベやアニメのクリアファイル、ストラップには、どうしても手を出してしまう。お陰で、部屋には使ってないグッズがいっぱい溜まっている。まぁ観賞用だ。
最近はラノベより、スマホで読めるネット小説を中心に読んでいる。異世界系を好んで読むのだが、出版されているものに比べればとても数が多いのも理由の一つだ。主人公が因縁の相手に復讐する流れは少し苦手だが、召喚や転生ものは大好きだ。
主人公最強? 大好物ですありがとうございます!
「ああ。今期良いの多いんだよ」
「ふーん。アニメを否定はしないけど、どこが面白いのかさっぱりわからないわね」
「な! お前、アニメの面白さを理解できないって言ったか!?」
「そうだぞ大月! アニメは絵が綺麗なもの、心に訴えかけてくるものも多いんだ! 何も知らないなら少しでも知ってから語りたまえよ」
さらっと会話に入ってきたこの男。日村秋人といって、俺の親友だ。随一のオタク仲間でもあり、俺を二次元に引き込んだ一番の原因がこいつであったりする。
「はいはい、わかったわよ」
「なんだよそのなげやりな感じ!」←俺
「そうだ!アニメに対する冒涜だ!」←秋人
「貴方達、普段から騒がしいけどこういう話題になると余計に面倒くさいわね」
「さーなーちゃん!何のお話?」
一人の女子が後ろから沙那に飛び付く。クラスのムードメーカー、熱海真夏。その明るさから多くの人に好意を向けられる(多分小動物的な意味で)。
本人曰く、150㎝無い低身長をコンプレックスにしているらしい。
知り合いの道場の先輩も、身長がないことを悔やんでいた。ちなみにその先輩は男子で現在高三。秋に差し掛かっているこの時期に160cm程しかない。もう一度言うが男の先輩だ。クラスメイトからは男女問わず可愛がられているらしいが。しかしその人気は高三に留まらず、学校中に先輩のファンがいるらしいと沙那に聞いた。
やっぱり身長って大事なのか。
「ちょっ、やめてよ真夏」
「よぉ熱海。朝から元気そうだな」
「ホントだな。その小さな体のどこに元気が詰まってるんだ?」
「今小さいって言った! 気にしてるんだよぉ! うぅ…背が高い沙那ちゃんが羨ましいよ」
熱海の言うとおり、沙那のやつは結構背が高いと思う。ほとんど170cmくらいだし、正直俺と大差ない。その点、秋人は1人抜きん出ている。こいつ、勉強はできないけど運動神経は運動部並みにいいのだ。ついでに言うと、俺も秋人も部活には入っていない。いや、正しくは『いかに楽しい放課後を送るか』という崇高な理念のもと活動する帰宅部である。
「で、アニメの話だったな、秋人」
「おう、そうだぜ和馬!」
「何々、どんな話してたの?」
「何かしらこの怒濤の話題転換…というか、私も少しぐらいなら見るんだから」
熱海の出現で少しずれていた話題を元に戻す。直後に沙那が重要なことをもらした。これは追求する必要がありそうだ。
「ほう、例えばどんなジャンルを?」
「な、何よ。言わなきゃいけないの?」
「もちのろんでございますよ。気になるからな」
俺が沙那にした質問に秋人が興味津々といった様子で乗ってきた。
「さあ、キリキリ吐いちまいな沙那ちゃん。そうすればラクになれるぜい?」
「真夏のその口調は何なのよ…」
熱海も沙那に絡んでいる。熱海がアニメとかの話をしているのは聞いたことがない気がするが、やはり気になるものなのだろうか。
すると沙那は俺たちの押しに負け、観念したかのように口を開いた。
「魔法や異能を使った頭脳バトル系が一番ね。日常系も好みよ。50作は見てると思うわ」
「…大月、もうそれ結構立派なアニオタじゃね?」
俺もそれに同意するぞ、秋人。想像以上で思わず一瞬固まったわ。
それにしても予想外だった。まさか沙那がこちら側へ既に足を踏み入れていたとは。その上言ってる姿も恥ずかしそうではあるものの、心なしか楽しげである。
さっき言ってたのは照れ隠しだったのか?
「というか意外だな。いつから、というか何で見始めたんだ?」
「それは…もう! 何でもいいじゃない! …この鈍感」
「おぉ!? ねえ沙那ちゃん、今の一言はどういうことなのかな? 私気になっちゃうな!」
沙那は自分の席へ戻っていってしまった。騒ぐ熱海を連れて。沙那が最後に何か一言つぶやいた気がするんだが、気のせいか。
「なんだったんだ、あいつ」
「ったく、お前はどこの難聴系主人公だよ。大月が少しかわいそうに思えてきたぞ」
「は? 何言ってんだ?」
「何でしょうかねぇ。それはともかくだ。和馬、見たか昨日のあのシーン!」
「主人公がヒロイン助けに敵軍に突っ込む所か?見た見た!マジで神だったわ!」
そんな会話を交わしながら俺たちの普通の朝は過ぎていく。さっきからこっちをチラチラ見ている沙那は…まあ、置いておこう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「───朝の連絡は以上です。」
「起立、気をつけ、礼!」
「「「「ありがとうございました」」」」
先生からは特に変わった連絡もなく朝のホームルームが終わり、各々が授業の用意をしたり、友達と話をし始める。
「よし、俺も授業の用意するかな」
「今、和馬が授業の用意って言ったか? あの授業を寝ることしかしない問題児の和馬が…!?」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ。じゃあ、その寝てる俺にテストで勝てないお前はなんなんだよ」
俺の独り言に突っ込みを入れてきた秋人に、冷たい目を向けて言い返す。それに俺は毎回寝ているわけではない。まあ実際寝ている時点で何も言うことはできないが。
「うっ、痛いところ付いてくれるなよ。というか、お前はいつ勉強してるんだ?親父さんも居なくて、家事はほとんどお前がやるんだろ?」
勘違いはしないでほしいが、別に俺の父さんは死んでるわけではない。単身赴任中なのだ。月に一回帰ってくるか来ないか。
母さんも遅くまで仕事をしているので、家事は必然的に俺がやることになる。しかしお陰で料理もできるようになったし、いまや料理は趣味の一つと言ってもいい。
「聞きたいか?」
「ああ。どうあがいても勉強できないからな、俺は」
「胸を張りながら言うことじゃないだろ…。まぁいい。実は最近、アニメを見ながら無意識下で勉強ができるようになったのさ! 暗記系も計算系もばっちりだ」
「いやいや嘘だぁ!! どうやるんだよ!? あり得るとしても逆だろ!?」
「とはいっても、現に成績は悪くないしな」
冗談のように聞こえるかもしれないが本当だ。やっぱり忙しくて勉強時間の確保が難しい。かといってアニメを見るのはやめたくない。なら、アニメを見ながら勉強すればいいじゃない! というわけだ。
でも、最近になって急に暗記力が上がった気がするんだよな…。しばらく教科書のページを眺めてるだけでちゃんと頭の中に入ってるし。別段特別なことはしてないんだけれども。
「ちくしょう…否定できないが、流石に真似できんわ…。あ、榎本! お前はどうやって勉強してるんだ?」
秋人が声をかけたのは榎本翔。このクラスのリーダー的存在で、うちのクラスの学級委員長をやっている男だ。そのコミュ力も目を見張るものがあり、初対面の外国人とも笑いながら話してみせる。成績良し、顔も性格も良し。おまけに運動もできる。改めて考えると凄いなー。小説の中の人間みたいだけど、よくある『猪突猛進、ご都合主義』なイケメンとは格が違うのだよ、格が!
「勉強? いいけど何で?」
「和馬に勉強方法聞いたんだけど、参考にならなくてさ」
「は? 素晴らしく参考になるだろうが」
「いやいや、無意識に勉強できるとか、もはや人間じゃないだろ」
まあ、無意識は言い過ぎたけど、一度参考書見たらほとんど忘れないもんな。確かに結構なバケモンかもしれない…? 俺はいつから人間やめたってんだ…!?
「はは、でも五十嵐ならあり得そうだね」
「いやひどくないか、お前ら」
「それはいいとして、どうなんだ榎本?」
「僕の場合は放課後に教室で勉強してるよ。うちの学校携帯持ってこられないから、誘惑がないし。たまに先生も見に来るから、直ぐに質問できるよ」
「なるほど、放課後か」
「うん、今度一緒に残ってやる?」
「お、マジか! 助かるぜ」
二人が俺の机の横で話している間に授業の準備を終わらせる。時計を見ると、いつの間にか授業開始まであと一分程度の時間しか残っていなかった。
「あのー、お二人さん? 盛り上がってるところ悪いけど、そろそろ岡田さんの授業始まるぞ?」
「げっ、もうそんな時間か。あの先生怒ると長くて苦手なんだよな」
「そうかな? いい先生だと思うけど」
「まあ、他の教科の先生よりは断然分かりやすいんだけどさ」
二人は席へ戻っていく。
さて、どうやって寝ればバレないかな? 怒り始めると面倒くさいからな、あの先生。
ん? 授業中に寝るのをやめろって? ふっ…善処しよう。
しかし、床に淡く青に光る大きな模様が唐突に浮かび上がった。
なんだこれ?こんな模様どこかで見たような気がするけど…って、今はそうじゃない!!
「うわ、なんだこの模様」
「なにこれ!?」
あちらこちらで驚愕の声が上がり、クラス中が騒然となる。当たり前だ。これまで遭遇したことがない怪奇現象に遭遇しているのだから。
「皆、教室の外に出るんだ!」
そんな中、榎本と思われる声が響く。しかし既に遅く、扉と窓は閉まっていた。扉と窓、それぞれの近くに座っていた数人が開けようとしているが、まったく開く様子はない。窓の鍵は開いているのに、だ。
呆然とするクラスメイトたち。俺はなぜか少し冷静で、秋人と顔を見合わせていた。
これって…いや、まさか。
次の瞬間、教室が光に塗りつぶされた。咄嗟に目を瞑ったが、俺はそのまま意識が遠退くのを感じた。
────異世界への干渉を確認
第一封印を解除を開始……成功しました────
ビバ冬休み!
でも、多分更新速度落ちます...
----------------------------
2017/12/8
編集しました。長らくご無沙汰になっていてごめんなさい!他の話も随時編集します!