決闘
ルーもいることだし、あまり目立ちたくはなかったんだよ、俺。
確かにネット小説への憧れはあるから何回か盛大にやらかしたいけれどもさ。王様とも約束しちゃったし、出来る限り目立たずに世界を見て回りたいわけよ。
愚痴は置いておいて、お嬢様たちが立ち去った後、とりあえず宿をとろうということになった。しかし、探すにしても俺もルーも土地勘など全くない。だから、ギルド員さんに聞きました。
「ありがとうございます」
「ええ、良いですよ。でも、災難でしたね」
「あの人、有名なんですか?」
「そうですよ。セレスティーナ様は、ここの支部を支援してくださる貴族、バミノール家のご令嬢なんですよ」
「はぁ」
「気を付けてくださいね。彼女、Aランク冒険者なので」
ギルド員さんと一通り話して俺たちが向かった宿は、他の宿に比べてサービスがよく、飯もおいしいらしい。まあ、少し割高にはなるが。宿のチェックインの時も同じ部屋にするかで少しもめたりしたが、今は二人とも宿の食堂で昼食をとっていた。ちなみに部屋は同じになった。
「…お腹いっぱい食べないとね、カズマ」
「あぁ、そうだな〜」
「…カズマめんどくさそう」
「そりゃそうだよ。勝手に決闘を決められたうえでギルドの除名とルーを天秤にかけられてんだぞ!?出来るだけトラブルは避けて安全な旅がしたかったんだがなぁ」
「…ふぁいほー」
「へいへい。こうなったら腹くくるしかねぇもんな」
ルーが口いっぱいにスパゲッティに似たものを入れて、返事をしてくる。
確かにここまで追い込まれたら、お嬢様との決闘に勝って後腐れをなくしたほうがいいもんな。少しばかり頑張りますか。
でも、戦闘経験自体少ないんだよな。騎士団の人達と訓練はしたし、スキルはあるけど気を抜かねえようにしないと。お嬢様のほうはすごい自信があるみたいだったし。
ちなみに、俺が食べた肉料理もうまかった。他の客の料理を見てたけど、野菜は地球に似てるのかも。
昼食を食べ終わり、少し宿の周りを散策しているうちに、時間が近づいてきてしまった。何のかは言わずもがな。面倒だけど、ギルドに向かいますか。
「来ましたわね」
俺が指定された訓練所に行くと、そこにはお嬢様と女騎士、一人のギルド職員がいた。
「時間に遅れてはいないので、除名の件は無しですわね」
「あー、わかったわかった。やるなら早く始めないか?」
「貴様ぁ…何度言ったらわかる!」
「あんたも一々うるさいね、女騎士。そこのお嬢様も下がれっていうんじゃないのか?」
「黙れ!貴様が私に指図するな!」
「完全に乗せられていますわよ、ヴァーミル。交渉においてあなたの短気は致命的ですわ」
「…っ、申し訳ございません」
女騎士はお嬢様の後ろへと下がっていった。
「それでは始めませんこと?」
「そうだな。それでルールは?」
「模擬剣など、ここの訓練所に置いてあるものと魔法の使用は可。そこにいる職員を審判として、審判のジャッジで終了…でいかがかしら」
「りょーかい。それじゃ俺は、これを使わせてもらう。お嬢様は魔法だけか?」
「そうですわ。剣だけで私の魔法を捌くことが出来まして?」
俺は十本ほどある模擬剣の中から一本を手に取る。魔法剣を使うし、実際どれでもいい。
「双方、用意はよろしいですか?」
「大丈夫ですわ」
「こっちもだ」
「…カズマ、かんばれ~」
客席から聞こえるルーの応援。俺は、負けるわけにはいかない!
「それでは……始め!!」
♯♯♯
「『氷よ、貫きなさい』!アイスクラッシュ!」
先制で魔法を打ったのは私。詠唱破棄のスキルのおかげで、初級魔法を少しの詠唱だけで発動。
あんな見るからに弱そうな男など、先制の初級魔法で十分ですわ。
私の放った氷のつぶてが男の方へと飛んでいく。男は反応すらできていない様子。
ふっ、簡単でしたわね。これで獣人の女性は私のもの…っ!?
決まったと思われた一撃は、男が模擬剣を振り上げたことによって砕け、霧散した。
思わず目を疑うが、驚きながらも次の魔法を放つ。
「『清らかなる水、我が呼に従え!』ウォーターウィップ!」
氷を砕いた男がこちらへ肉薄しようとするが、その前に次の魔法を発動。この中級魔法ならどうかしら!
目の前に現れた水の鞭は、私が考えるままに猛威を振るう。訓練所の床を少しずつだが抉っている事で、その威力は見て取れるだろう。
しかし、鞭は地面を叩くのみで一切の攻撃が当たらない。
…なんで当たらないのよ!?
男は鞭を上下左右に動きながら躱し、こちらへと迫ってきた。後ろへ飛んで距離を取る。
「っ、何なんですのあなたは!私ギルドではAランカーですのよ!?」
「これでAランクか。もっと強いもんだと思ってたけど」
ブチッ
「私が…この私が、弱い…?」
「へ?あ、やべ」
「あんたは全力で叩き潰す!『氷よ、貫け』20連アイスクラッシュ!!」
怒りに身を任せ、自分の出来得る限りの20連をあいつに叩き込む。
やはり、剣で捌きながら近づいてきている。こうなったら…
「『凍てつく氷よ、我が呼に応じて、零度を満たせ』!アイシングフィールドォ!!!」
魔法の発動で私を中心に気温が急激に下がり始め、空気中に氷の結晶をも生成し始めた。
変化が起こると同時、大量の魔力使用で足元がふらつくが、どうにかその場で留まる。
流石は上級魔法の一つ。魔力消費が尋常ではない。
そんなことを考えながら私は勝利を確信して笑みを浮かべる。
この寒さの中で動けるはずがないのだから。
しかし、直後首の後ろに鈍い衝撃。
そのまま前に倒れそうになった私は、誰かに抱き留められるのを感じて意識を失った。




