冒険者
アラキア王国の王都、バラノル。
石畳の道が城から放射線状に遠くまで広がり、その道に沿って石壁?やレンガで作られた建物が並んでいる。
所々に屋台などの出店も見え、活気が良い街として人気が高い。
「おぉ!!」
俺は今、バラノルの持つ熱気に圧倒されていた。
少し街を歩く。
隣にいるルーはというと、口を緩ませて目を輝かせながら辺りを見回している。頭のネコ耳はずっとピコピコ動いていた。
思わず和む。
「すごいな、ルー」
「...うん。初めて外に出る。楽しい」
ルーはこれまで、一度も城から出してもらったことがないという。王族の娘、それも珍しい獣人とのハーフであるルーは、人攫いなどの格好の獲物だ。
そのため、15歳で成人をしたら出てもいいと王様は考えていたらしい。身を守るため、一通りの武器の使い方も教えこまれているという。
全く地理を知らない俺より、この世界に詳しい冒険者もいたんじゃないか?と思ったが、全員信用することが出来なかったそうだ。国お抱えの冒険者の一人でもいないのかと思ったが、いないらしい。何でも、冒険者は迷宮のある国に集まっているため人手不足なんだそうだ。
俺が何で知っているのかは、夕食後に文献を読みこんだからだ。思考加速と並列思考を併用しながら。こっちに来てからの一週間で一通りの地理と情勢は学んでいたので、それに加えて役立つものをサネルに選んでもらったのだ。
ステータスが高いとはいえ、大容量の記憶は負担にはなるので、早くレベル上げをしていきたいところだ。
「…それでカズマ、まずは何するの?」
「そうだなぁ。身分が証明できるものと資金は一応貰ったけど、金は稼がなきゃいけないしな。冒険者登録しようか」
「…冒険者。聞いたことある」
「ギルドの位置は確か…あぁ、あの建物だな」
俺が指をさしたのは、長い間使われていることが一目でわかる大きな建物だった。
「…すごく、おっきい」
「…その言い方禁止な?ダメな気がした」
「…何で?」
「まあ、とにかく入ろうぜ?」
「…むぅ、わかった」
「うわぉ」
「…おぉ」
ギルドに足を踏み入れる。
大理石の床。白く、しっかりとした柱。
入り口正面にはカウンターがあり、ロビーの二階は酒場になっているようだ。人手不足とは言っても、凄い賑わいを見せていた。
「…登録はあそこ?」
「そうみたいだな。行ってみよう」
俺達が向かったのは、新規登録窓口という看板のあったカウンター。近づいて行くと男の係員が話しかけてきた。
「冒険者ギルド、バラノル支部へようこそ!登録でよろしいですか?」
「あ、はい」
「では、コチラに必要事項を記入してください」
と渡された紙に目を通すと、ネーム、登録者名、年齢、性別という欄があった。ネームってなんぞ?
「あの、このネームと言うのは?」
「ネームというのは、冒険者としての活動を行う時の名前です。名前は書かなくても良いですが、ネームは必須になっていますので」
「ありがとうございます」
ネームねぇ。普通にカズマでいいか。それでルーは?
「どう書いたんだ?」
「…ネーム、ルーでいいかな?」
「いいんじゃないか?俺も呼び慣れてきたところだしな」
「…わかった。そうする」
二人で情報を書き入れていき、窓口で待ってくれていた係員さんに手渡す。
「えーと、カズマ様にルー様ですね。歓迎致します。冒険者についての説明は必要ですか?」
「お願いします」
係員のお兄さんによると、
・冒険者には誰でもなることが出来る。
・冒険者の証明書(冒険者カード)は身分の証明にもなる。
・冒険者ランクというものがあり、E、D、C、B、A、S、SSの6つがある。スタートはE。上がるほど難度が高く、報酬の良い依頼を受けられるようになる。
・依頼は掲示板に貼られているものを剥がしてから受ける。受ける前に窓口に持っていく必要あり。
主だったものはこれくらいみたいだ。破ると罰金、ひどくなると降格、除名処分もあるらしい。組織なだけあって規則がしっかりしてるな。
「何か質問はありますか?」
「俺は大丈夫です。ルーは?」
「…私も平気」
「それでは冒険者カードを作成致しましたので、こちらをどうぞ」
俺たち二人が受け取ったカードには、さっき紙に書いた情報が書かれていた。左上にあるEの記号が書かれた魔法陣が印象的だ。
「ぜひ高ランカーを目指してくださいね。多くの依頼をこなすことでランクは上がりますから」
「ありがとうございます」
カウンターから離れて、ルーと相談をする。
「登録は出来たけど、どうしようか、ルー?」
「…町を見て回ってみたい」
「そうだな。何か食べながらでも歩いてみようか」
軽く相談した俺たちは一緒にドアから外に出ようとする。
「おいおい、新人はひよっこかよ」
「君かわいいねぇ。こんな男やめて俺たちと遊ぼうぜ?」
「…?」
面倒臭そうなのとエンカウントしちまったみたいだな、これは…。