出会い
風呂を上がった俺は、しばらく後に迎えに来たメイドさんに案内されて、とある部屋の前に来ていた。
その部屋のドアは俺の部屋のものよりの一回り大きく、一番の違いとして見るからに頑丈そうな鍵がかかっていった。
…何がいるんだ、この部屋。
「いらっしゃっていましたか、カズマ殿」
背後からの声に後ろを振り向くと、そこには国王様がいた。
「国王様。俺はなぜここに呼ばれたんですか?」
「先ほども言いましたが、ここに会っていただきたいものがいるのです。」
「俺に会ってもらいたい人、ですか」
「実際に見ていただいたほうが早いでしょう。開けますよ」
メイドが鍵を開け、ドアを開く。
部屋自体は大きいが、内装は俺の部屋と大して変わりはない。しかしベッドの上には奇妙な女の子が座っていた。
綺麗に輝く、燃えるような赤髪。しかしその頭には触り心地の良さそうな、可愛らしいネコ耳が生えていたのだった。
「ネコ耳来たぁぁ!!」
俺が思わず大声を上げると、女の子はビクッとしてシーツをかぶってしまった。隣の国王様含め、メイドさん達も皆驚いた顔で俺のことを見ていた。
「あ。すみません、つい。…彼女が?」
「そうです。あの子はルーンアイラ・デ・クリストフ・アラキア。私の弟の娘、つまり姪にあたります」
「ということは、国王様の弟さんのお相手は…」
「ええ、お察しの通り獣人でした。弟夫婦は早くに亡くなってしまったので、ルーンアイラのみが残されたのです」
「なるほど…」
両親を小さい頃に亡くしたのか。この子も大変だったんだな。
「この子も今年で15歳になります。ですのでもともと、この子と共に旅をしてくれる腕が立つものを探していたのです」
「それで、なぜ俺なんです?」
「今回の件でカズマ殿の強さは証明されましたので、腕の立つものという条件は満たしています。もう一つの理由としては、あなたを信じたくなったのです」
「会って一週間も経たず、さっき初めて話した俺をなぜ?」
「…個人的な事情を持ち込んでしまいますが、カズマ殿の性格は似ているのです。私の弟に。
弟は正義感こそあまり強くありませんでしたが、周りの人から愛され、偏見を持たない男でした。直感的に私は、君が弟に似ていると感じました。実際には、それが任せたいと思っている大きな理由なのですよ」
俺は、その言葉に胸を打たれている自分がいるのを感じる。ただ、一つ疑問が残る。
「彼女がこの頑丈な部屋にいるのはなぜなんですか?少し物騒にも思えてしまったので」
「カズマ殿の疑問も当然です。しかし、ルーンアイラを守るためだったのですよ」
「というと…?」
「現在、獣人は数を減らしています。その為、攫われる事が多いのです」
国王様は、シーツに隠れてこちらを覗いている彼女に目を向けながら言葉を続けた。
「彼女はああ見えて好奇心が強いので、目を放すとすぐに居なくなってしまうんですよ。城の中とはいえ、確実に安全な訳ではありませんから」
「そういう理由があったんですね」
「彼女はいつも外を見たがっていてね。こちらも心苦しかったんだ。…それで、受けてくれるか?」
「俺に任せて、後悔はしないんですね?」
「もちろん。ぜひ、お願いしたい。」
俺は一つ深呼吸をし、答える。
「わかりました。お話をお受けします。俺も外に出たいとは思っていたので、俺としてもありがたいです」
「そうか、ありがとう。聞いていたかい、ルーンアイラ?」
国王様は、少しの不安と大きな好奇心を表情に出しているルーンアイラに問いかける。
「…外に出られるの?出てもいいの?」
「まあ、俺も一緒なんだけどな。俺はカズマ。そのままカズマって呼んでくれ」
既に目が輝いている彼女に苦笑を漏らしつつ、そう伝える。
「…カズマ?」
「そうだ。それで国王様、外にはいつ行けば…」
「…今から行こう?カズマ!」
気が付くとベッドの上にいたはずのルーンアイラは俺の横におり、俺の手を引っ張ろうとしていた。
早いっ!?目で追えなかった…?
「今からではダメだよ、ルーンアイラ。準備が必要だからね」
「…ダメなの?」
「明後日には準備ができると思うから、明日はカズマ殿と二人で過ごすといいよ。他の勇者様達にも伝えておきますね」
「あ、はい、わかりました」
なんと言うか、手際良すぎないか?最初から俺が受けるとわかってたみたいな…考えすぎか。
「それでは、今日の所はこれぐらいにしましょうか。私もまだ公務があるので、失礼します。おやすみなさい」
「わかりました。ルーンアイラもまた明日な」
「…うん。おやすみなさい、カズマ」
くっ、想像を絶する破壊力…!
可愛すぎる。反則だろ。