異世界にインターネット魔法革命 ~魔王、身バレす~
「クックック、我輩は冷酷なる最強の魔王……。はらわたを喰らい尽くされたいのなら──かかってくるがいいわァッ! 脆弱なる人間よぉォォオオ!」
魔王城、玉座の間。
この剣と魔法の世界で、ある意味最終地点として設定されやすい場所である。
だが居るのは魔王と配下だけ、人間の冒険者なんてものは影も形も無い。
「魔王様、今日もキレッキレっすね」
「そうだろう、そうだろう! 日々の練習を欠かさず、我輩の風格を維持しておるのだ! ガッハッハ!」
いつものソロ練習風景。
魔王はビシッと魔法の大鎧とマントを着込み、普段からジムで鍛えている異様に肩幅の広いボディを見せびらかす。
紅眼が6個、6本腕、身長も6メートルほどあるため、相手への威圧感は抜群だ。
「あ、それで魔王様。お話があるっすけど」
「何だ、スライムよ」
部下である粘液生物の中性的な声に耳を傾ける。
軽口を許しているのは、古くからの戦友であるためだ。
「最近、インターネット魔法というものが流行ってるっすよ」
「ほう、世事には疎いから知らなかったな。どんなものだ?」
「そうっすね……ここの所、支配下のダンジョンがすごい速度で攻略されてるじゃないっすか」
「うむ、勇者でも現れたのではないかと楽しみだぞ」
スライムは、何かの板を二枚取り出した。
「これ、魔導具の死プレイと言います。これを木ボードで叩くと──」
「おぉ、画面が」
凹凸のある木製の木ボードを叩くと、死プレイという板に画像が映し出される。
そこには、この世界では見ないようなカラフルな色彩。
「なになに……『冒険者になろう』だと?」
「冒険者がこの彩都というものに書き込んで、うちのダンジョンが攻略されちゃってるっす」
「ど、どういうことだ!? さっぱりわからんぞ!?」
「ええと、この彩都は距離が離れてても、全員が共有できる魔法の掲示板みたいなものっす。一人が攻略法を見つけちゃうと冒険者全員に、お手軽に知られちゃうんすよ」
マジか……と頭を抱える魔王。
「ちなみに魔王様の過去も知られてしまいました」
「なんだと!?」
見せられた画面。
そこには、魔界学校での和やかな卒業写真から文集、年上だが見た目幼女の冥界学ヘル先生に告白して玉砕したエピソードまでずらっと並んでいた。
「あああああああああああああ゛!!」
「落ち着いてください、魔王様。ちなみに最近の動画もあります」
日々、一人で発声訓練、ジムで見せ筋作り、背が高すぎてドア上部に頭をぶつける、仕事以外で話せるのがクラスメイトだったスライムのみ。
それに冒険者からのコメントがおもしろおかしく付けられていた。
「ぶっ殺す、この魔法を構築した奴をぶっ殺す」
「ええと、運営者は人間の魔女っすね」
「今すぐ、全魔王軍を準備しろ……」
「あ~、ただこの人間の魔女は、魔王様より『総合累計強さランキング』が30万位くらい上っすね」
何だそれは、と魔王は首をかしげる。
「どういう基準で集計してるのか知らないっすけど、戦ったら誰が勝つかの予想みたいな~。その名の通りの強さの順位みたいっすね」
「つまり、そんな人間の女より我輩が弱いと? ありえん!」
「でもっすね……これを見てくださいっす」
次に見せられた画面。
そこには──。
「なぬ、『ヌルヌルフェチの長身微乳女戦士と猫耳ロリ姫と男の娘が、私を離してくれないのだが ~やれやれスライム無双!~ 第1250話:ライバルは触手!?』だと?」
「あ、それは私が投稿したものでした」
ユーザーページと書いてあった。
「我輩、他人の性癖には口を出さないが、お前の欲望ダダ漏れだな」
マイペースなスライムは気にせず次を映し出した。
「本当は、この書き込みっす」
「なになに……『あの呪われし魔女は異世界でドラゴンを倒した事があるらしい』だと……。だだだだ大丈夫だ、我輩も頑張ればドラゴンくらい──」
「後はこれっすね」
「ふむ……『十数年前、主天使ドミニオン複数をワンパンしてたと友達の友達に聞いた事がある』とな……。うむ、相手はたかが人間だったな。我輩は寛大な心で許す。超許す」
主天使といえば、堕天した恐怖の大悪魔王バラム等が魔界では有名だ。
魔王は魔導書で見たのを思い出して大きな身体を、冷水を浴びた仔犬のようにガクブル震わせた。
武者震いっすね、とスライムはフォローを入れる。
「だが、さっきの我輩の映像を流出させた奴は許さん! あんな間近で撮れるということは、内部の犯行に違いないぞ!」
「あ、私っす。ごめんっす」
「……許す」
一人しかいない友達を怒ることが出来ず、やり場の無い悲しみに浸る魔王であった。
ちなみにスライムは、強さランキングは自分の方が高い事を黙っていた。