足下の怪異
ここは、とある学校のとある教室。教室というか部室。でも、今は使われていない。使っていた部活が廃部になったから。そんな所で私、安佐伊 詩恵は何をしているのかと言うと、とある生徒に相談をしている。何の相談かと言うとそれは一週間前に遡る。
私は特に秀でた所もない。可もなく不可もない人間だった。親も同じく。母は専業主婦で、父は工事現場の現場監督をしていた。父は来週、私の家の近くの空き地に大きなビルを建てる為、とても張り切っていた。そんな平和な日常。でも、それは突然起こった。
ある晩、私はぐっすり寝ていた。でも、フッと目が覚めると声が聞こえる。
「私の住処が無くなってしまう・・・」
という、恨めしそうな声がずっと聞こえる。私は怖くて眠れずに結局その日はそのまま朝まで眠れず、しかし、そんな事を言って親に心配をかけたくなかった。だから私は黙っていつも通り過ごした。でも、その日も同じように
「私の住処が無くなってしまう・・・」
声が聞こえる。
それから毎晩聞こえる。そして、父の工事に対して何も反応しなかった地域の人達が急に反対しだして、工事が出来なくなった。私は一週間まともに寝てないせいでかなり参っていた。そんな時私は見た。ビルを。そこにあるはずのないビルを。工事が出来なくなった空き地に、ビルが建っているのを。私は耐えられなくなって友達に相談した。声の事も、ビルの事も。そしたら、この学校のとある部室跡でそういう摩訶不思議な事を解決してくれる人が居ると教えて貰った。そして私は今その生徒と対面しているわけだけれども。制服を着崩し、髪の毛はオールバック。巻野 怪。私は取り敢えず挨拶からしようと思う。
「えっと・・・こんにちは。貴方が巻野くんで良いんだよね?」
私の問に対して巻野くんは笑顔で、
「そうぜよ。わしが巻野 怪。あぁ、友人の土佐弁が中途半端に移ってしまったきこんな喋り方じゃけんど気にせんでえいき」
巻野くんは笑いながらそう言う。
「えっと、心霊体験を解決してくれるって聞いたんだけど・・・」
私は彼の事を警戒しながら聞く。すると、
「あ〜、わしはそんなことせんぜよ」
そう彼は言った。
「え?」
私はその場で固まった。
「おまんが言っちゅうんは怪異の事ぜよ。怪異は人間が解決出来ることの方が少ないき」
「じゃ、じゃあ何で私の友達は解決してくれるなんて言ってたの?」
「別に何もせんわけじゃなか、専門家としてアドバイス位はするぜよ」
「じゃ、じゃあ!私、助かるんですか!?」
「・・・・・・勘違いしちゃあいかんぜよ。怪異っちゅうもんは自分から関らなきゃ何の害も起こさんぜよ」
「えっ・・・?」
巻野くんは大きなため息を吐くと、
「まぁ、とりあえず話聴かせてくれ」
「あ、うん」
私は最近あった出来事をできるだけ細かく伝えた。話終えるとそれまで黙って聞いていた巻野くんはまた、ため息を吐いた。
「はー・・・なるほどにゃ・・・」
「にゃって・・・ふざけてるの?」
私がむっとしながら聞くと
「ああ、ごめんごめん。土佐弁でねの事をにゃって言うき」
「え、じゃあ解ったの?」
「ああ、こりゃあ『足下の怪異』ぜよ。」
「足下の・・・怪異?」
聞いたことが無い。私はオカルトとかは好きでよく妖怪とか調べるけど聞いたことが無い。
「ああ、足下の怪異っちゅうんは、現代でもよく見られる怪異の一つぜよ。
昔、ある庄屋が荒神松という塚を畑にしようとした。でも、その庄屋の息子がその日、夢で声を聞いた。『私の住処が無くなってしまう・・・』と。」
「えっ!?それって・・・」
私が今困ってるのと同じ?
「話は最後まで聞くぜよ。で、その次の日に隣家から金銀を持った人を殺して埋めたと責め立てられた。濡れ衣を晴らすために庄屋はその塚を掘り返したらそこには、棺と骸骨が埋まっていたそうぜよ。その骸骨は石川 年足という、高貴の人だと解り、石碑が立てられ、そこは畑にはならなかったらしい。これが昔の足下の怪異ぜよ。最近では、何も無い空き地にビルが建っていて驚かせる怪異になって、ほとんど無害になったはずじゃけんど・・・」
巻野くんは頭を掻きながらそう教えてくれた。
「えっと・・・私はどうすればいいの?」
「そう焦っちゃあいかんぜよ安佐伊ちゃん。この怪異はそんなに危険な物じゃないがよ。これは埋まっちゅう亡霊が自己主張してるだけやき。まぁその空き地を掘ってみれば何かでてくるかも 。」
「・・・・・・」
「さてと。・・・今日はもう下校時間ぜよ。帰ろう。」
「うん・・・」
私はその日、家に帰った後両親に今までの事、そして今日の事を話した。そうしたら父が明日、その空き地を掘ってみると言ってくれた。
次の日。
今日は休日だから父の現場に立ち会わさてもらった。大きなショベルカーで掘っていると、突然、棺桶が出てきた。現場の人達は直ぐに警察を呼んだ。ちょっとした騒ぎになったが、その棺桶は警察が引き取った。その日は声が聞こえなかった。
私は翌日、あの部室跡に足を向けた。部室跡に着き、ドアを開けると、昨日と同じ格好の男の子、巻野 怪がそこにいた。巻野くんは私が入ってくるや否や、
「おーおー、安佐伊ちゃん。」
そう言った。
「一昨日の事、解決したから報告しようかなって・・・」
「おお!それは良かったぜよ。」
「本当に巻野くんに何てお礼を言ったらいいのか」
「あー、安佐伊ちゃん、それはちょっと違うぜよ」
「え?」
「言っただろ?怪異っちゅうもんは基本的に自分から関わらにゃあとそうそう出会うもんじゃない。まぁ、今回は安佐伊ちゃんのお父さんが工事しようとしたき子供の安佐伊ちゃんに声が聞こえちまった。つまりはそうゆうことぜよ。」
「そっか・・・でも良かった。これでお父さんも工事再開できるって喜んでたよ」
「・・・・・・なぁ、安佐伊ちゃん。そこに建物建てるが?」
「う、うん。大きなビルを」
すると、巻野くんは天を仰ぎ、顔に手を当てた。
「おいおい、それはマズイぜよ。」
「え?」
「安佐伊ちゃん、今すぐ帰ってお父さんに伝えな、ビル建てるんなら一緒に石碑も建てろって。じゃなきゃもっと大変な事になる」
「えっ!?何が起こるの!?」
「・・・・・・さぁねぇ。そんなものはわしにも解らんぜよ。怪異は関わりかた次第で無害にも有害にもなりうる。やき、ちゃんとした対応をしにゃあと、場合によっちゃ、もっと酷い怪異に出逢っちまうかも知れんっちゅう話ぜよ。ちゃんと石碑建てれば大丈夫やき。さぁ、早く帰んな。」
巻野くんは頭を掻きながら面倒そうにそう言った。私は言われた通り、家に帰り、父にその旨を伝えたら石碑を建ててもらえることになった。
次の日、私はまた部室跡に来た。昨日と同じようにドアを開けると昨日と同じように巻野くんがいた。
「やぁやぁ安佐伊ちゃん。」
「えっと・・・一応石碑も建ててもらえる事になったからその報告を」
「おーおーそりゃあ良かった。まぁ、ちゃんと供養の気持ちを持てば平気ぜよ。」
「あと、これ・・・」
私は封筒を巻野くんに渡す。
「ん?なんぜよこりゃ?」
「あの・・・今回のお礼を・・・少ないけど」
「ああ、お金?なら要らんぜよ。」
「え?だって助けて・・・」
「別にわしは安佐伊ちゃんを助けたつもりは無いぜよ。わしは何もしてない、安佐伊ちゃんが自分で解決しただけ。」
「で、でも!」
「いいからいいから、わしは別にお金に困ってないき。」
「じゃ、じゃあ何か私が巻野くんにしてあげられることって無い?」
巻野くんは頭を掻きながらしばらくの間唸っていたが、
「解った。安佐伊ちゃんが何かしたいってんならぴったりなお願いがあるぜよ。」
「な、なに?私、何でもするよ!」
「わしの友達になってくれ」
えっ?
「いやね、わしこんな性格やき、友達って居ないき。やき、安佐伊ちゃんがわしの友達になってくれ。それがわしの願い。」
「わ、私で良ければ・・・」
私がそう言うと巻野くんはバンザイをしながら、
「ワーイ、生まれて初めてのお友達が女の子なんてわしは幸福ぜよ。アハハ、アハハハハ」
と、言った。
「ほ、本当にそれだけでいいの?」
「それだけでいいぜよ。まぁ偶に遊びに来てくれればそれだけで。」
「・・・・・・うん、解った」
こうして私の初めての怪異遭遇は終わった。巻野くんのおかげで。明日から毎日遊びに来ることを私は心に決めた。