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推理短偵

作者: 堀熊雪

初作品、初投稿なので緊張しております。堀熊というものです。


この作品は自分でも結構気に入ってるので楽しんでいただければ幸いです。

プロローグ


「2000文字以内で推理小説ですか!?」

俺はその担当の言葉を疑った。

喫茶店には他に客はおらず、聞こえるのはコーヒーサイフォンと天井のファンの音だけ。よって、俺の声はよく響いた。


俺は、雑誌で短編の小説を連載している新人作家だ。普段は日常の一コマや、恋愛を描いた作品を主として書いている。最近連載のウケが良いらしく、感謝の気持ちも込めて読者アンケートで小説のジャンルを決めようという話になった。その結果がこれだ。


「無理ですよ!ただでさえ書いた事の無いジャンルなのに。2000文字って、小学生の読書感想文じゃないんですから!」

「あなたは仕事を選べる身分だと、ご自分でお思いになっているのですか。」

彼女は自分のココアをかき混ぜながら答えた。

返す言葉が見つからない。この担当、味覚は甘口な割に帰ってくる言葉はいつも辛口である。そして痛いところをついてくる。

「書いてみないと分からないじゃないですか。以外と新しい才能が見つかるかもしれませんよ。」

「そんな適当な…。仮にそうだとしてもあまりにも短すぎですよ!それに今回連載ページいつもより少なくないですか!?」

「今回1番人気の大物作家の山堂建先生の連載ページが多くなってしまいまして、誰かのページ数を削ろうという事になりまして、一番新人であるあなたの名前が上がったんですよ。」

ドラマ化と映画化もした“チームパチスタシリーズ”の山堂先生の連載ページか延びたからなんて…反論できないじゃないか。

「理不尽な…せめて、他に票数の多かったジャンルにしましょうよ。推理小説はあまりにも無謀過ぎます。」

「我が儘が多い人ですね。分かりました。では、二番目に多かった医療物に変更させていただきましょう。では資料として医療関係の本をそちらに送らせていただきますので一通り目を通してくださいね。では手始めにこちらの本と…」

「やっぱり私が今書くべきなのは推理小説だと思います。」

俺は担当の言葉を遮って答えた。なぜ突然やる気を出したのかというと、辞書のような分厚い本を3冊、彼女が鞄から出してきたからだ。

おそらく俺が文句を言うのを彼女は察していたのだろう。そうでなければ編集の人間が、中学レベルで理数系が終わっている俺にこんな本を持ってくるはずかない。


それにしてもこのアンケート、書いた読者は本当に俺の小説を普段から読んでいるのだろうか。そうだとしたら俺に期待を持ちすぎているのか。それともただの嫌がらせか。


俺は、これから書き始める小説に絶望を感じながら冷めたコーヒーをすすった。

「苦いな…」

「甘いですよ」

彼女はココアの最後の一口を飲みほした。



推理短偵


「キャー!!」

若い女性の叫び声が船の中に響いた。僕らはすぐさま、叫び声が聞こえた娯楽室に駆けつける。そこには、顔面蒼白の女性とマスクにサングラスの男。そして男性の死体が横たわっていた。


突然ですまないが、ここで自己紹介と現状説明をしておこう。僕は探偵をしている者だ。横にいる助手の少年は俺の甥だ。名前は、ただでさえ時間が無いので割愛させていただこう。

俺たちは、犬探しを依頼した顧客からお礼として、2泊3日のクルーズの招待券をもらった。個人的には現金が欲しかったのだが。


今日はその最終日、安全に終わる予定であったのだが探偵という職業は事件を呼んでしまうものである。

「おじさん、早くしてくださいよ。このままじゃ事件解決しませんよ。」

「ああ、悪い。俺たちは短偵なのだから急がなければな。」

ちなみに短偵とは短時間で事件を解決するプロのことである。

「まず現状を整理しよう。この傷からして彼はおそらく何か鈍器のような物で後ろから殴られたのであろう。」

「おじさん、ここに血まみれのトロフィーが。」

「じゃあ、とりま凶器はそれで間違いないだろう。」

「おじさん。いきなり若者言葉使わないで下さい。」

僕は助手の冷たい視線を感じたが気にせずに推理を続けた。

「次は死体が誰かだな。」

「おじさん、懐に免許証が。」

「よし。身元は確認できた。名前は別に書く必要はないだろう。」

「もう死んでますしね。」

「部屋にカギは?」

「付いていないようですね。」

「密室でも無いと。」


次はいよいよ犯人探しである。容疑者は、部屋にいた発見者だというこの2人だろう。探偵の感がそう言っている。

「では、部屋にいたお二人にアリバイを話していただきましょう。」

まず女性の方に聞いてみる事にした。

「私は、自分の部屋でずっと本を読んでいました。ここに来たのは、何か飲み物を買いたいと思ったからです。ここ自販機があるでしょう?ただ、1人だったので…証明は出来ません。」

次は、不審者警戒ポスターに描かれていそうな明らかに怪しい風貌の男に聞いた。

「ぼ、僕は何もし、して無いよ!!僕はずっと部屋にこもってア、アニメを見ていたからな!!ここに来たのは、娯楽室に見ていたアニメの原作があ、あったからだよ!」

おそらく彼も1人でいたのだろう。勝手なイメージだが、こんなやつに連れがいるとは思えない。


ここまでの話だと明らかに怪しいのは男の方だと、読者の方なら思うかもしれない。探偵と助手である彼には、もう犯人が分かっていた。

「分かりましたよ。僕には犯人が。犯人はあなたですね。」

打ち合わせもしていないのに、僕は助手と共に指を指した。1人の女性へと向かって。

「ちょっと、なんで私なのよ!!アリバイが無いのはそこの男も同じじゃ無い!?」

「あなたは推理小説のルールを知らないのですか?明らかに犯人っぽい風貌のやつは大抵犯人じゃないんだよ!」

「そうですよ!あんなマスクにサングラスで息が荒い怪しい男が犯人な訳ないじゃないですか!!」

「あ、あとついでにあなたの部屋の側にも自販機があるのにわざわざそこよりも遠い娯楽室に来たのは違和感があったからです。」

「なんなのよその理由!まだついでに足した理由の方が謎解きっぽいじゃ無いの!それに、彼を殺す動機が私には無いじゃない。そこはどう説明するのよ?」

「動機なら僕が説明しますよ。」

彼女の携帯を指差しながら助手は話した。

「先ほどあなたの携帯の待ち受け画面が見えました。そこには亡くなっている男性とあなたのツーショット写真が写っていました。そうですよね?」

「なるほど。では動機は、大方彼から別れを切り出されて納得いかないあなたが、勢いで頭を殴ってしまったといったところかな。さあ、早く自白したまえ。もう文字数がやばいんだよ。」


「くっ…こんな適当なやつらにバレるなんて…そうですよ。私がやりましたよ。動機もその通りです。わたしは彼を本当に愛していた。それなのにか…」

「よし解決だな。」「そうですね。」

「えっちょっと…。」

「あなたの細かい動機なんてどうでもいいんですよ。事件が解決すれば。」

「それにしてもこんなに適当で大丈夫でしょうか…一応商業誌ですし。」

「こらこらメタ発言をするんじゃ無いよ。なあに、気にすることは無い。どうせ読者もこんな新人の小説なんて読み飛ばして終わりだろう。」

「先生も人のこと言えないじゃないですか。まあ、それもそうですね。では警察に連絡して私たちは残りのクルーズを楽しみましょう。おじさん。」

「そうだな、ランチでも食べに行こうか。ここの魚は美味いと評判らしいぞ。」


2人の探偵、いや短偵は軽やかな足取りでその場を後にした。

「なんなのあの人達…。」

彼女と不審者ポスター野郎は、警察が来るまでただ呆然と立ち尽くすことしか出来無かった。



エピローグ


「…なんですかこれ。」

彼女はココアを飲みながら苦い顔で言った。

「お店の人に失礼ですよ。」

「違いますよ。ココアではなくこの小説の話ですよ。ココアはいつも通り甘くて美味しいです。」

「何って、前に言われていた短編の推理小説ですよ。なんとか2000文字で収めることが出来ました。いやー、良かった良かった。」


俺は半ば無理やりテンションを上げて言い放った。

場所はいつもの喫茶店。いつも通り彼女はココアを、俺はコーヒーを飲みながらこの前の小説を担当に見せている。

「いや、頑張ってなんとか2000文字にまとめたのはすごいと思いますが。」

「でしょう?そこの根性は褒めてくださいよ。」

「しかし、これは推理小説と言いながらも推理もへったくれもないじゃ無いですか。」

彼女は俺の声が聞こえ無かったのか、激励の言葉も一切なく批判を始めた。

「こんなに読みながら考えることもなく、ただただ流れるように事件が解決する推理小説初めてですよ…。後、探偵のキャラにインパクトが足りません。まあ、短いですからそんなにキャラも出来ていませんが。短編なんだからそこを生かしてもっとインパクトの強いキャラを出して欲しかったですね。」


耳が痛い。 彼女の言っていることは正論だ。なぜなら書いた張本人である俺もそう思っている。

この小説が推理小説という枠組みに入れるレベルに達していないのは俺が最もわかっている。俺だって推理小説に近づくために努力はした。

しかし、どうしても読者を悩ますような推理を盛り込もうとすると、余裕で10000文字は超えてしまうのだ。


「さすがに、2000文字で推理小説を書こうとなるとこのクオリティになってしまうのはしょうがないですよ。確かに、後半の無理やり感は否め無いですが…。」

「推理の部分は百歩譲ってしょうがないとしましょう。しかし、キャラに関してはもう少し考えることが出来たでしょう。」

「うっ…それは…。」

「先生の作るキャラクターはいつもありきたりすぎです。読者からのファンレターでもよくそのことが書かれていますよ。」

それはファンレターと言えるのだろうか。前回も書いたが、俺の小説の読者は本当は俺の小説が嫌いなのかもしれない。


「大体、いつも詰めが甘いんですよ。キャラのこともそうですし、打ち合わせでよく矛盾点見つかりますし、今回の小説は矛盾点が出てくる程の長さじゃないですからそこの心配は無いですけどね。いつも全力で書いてますか?」

「そこまで言わなくてもいいじゃないですか。小説を書いたことの無いあなたには分からないかもしれませんが、こんなものでも真面目に書いてるんですよ。」

俺は拳を握りしめた。


ここまで言われるとさすがに俺もカチンとくる。確かに俺の文章は、まだまだ上手いといえるものでは無いし、キャラ作りが苦手なのも分かっている。矛盾点のところだって否定しない。しかし俺は小説を書くのが大好きだ。いつも全力で書いている。今回のだって何回書き直したのか分からないくらい書いている。それを何も知らないのに疑われるのは、さすがの普段ヘタレな俺でも堪忍袋の尾が切れるってもんだ。

「私は確かに小説を書いたことはありません。しかし、わたしは編集としての仕事をまっとうにこなしているだけです。」

「批判していることに怒っているんじゃないんですよ。全力で書いていないと言ったことを謝罪して欲しいだけです。俺だってこんなんでもプロなんです。いつも全力で仕事やってるんですよ。」

「分かりましたそこは謝罪しましょう。すいませんでした。」

彼女は立ち上がり、頭を下げた。こんなに素直に謝るなんて意外だった。明日は槍でも降るのだろうか。


「しかし、全力で書いていることが感じられる文章を書くのもプロの仕事。あなたの事情なんて読者からしたら、知らねぇよって話ですよ。」

前言撤回。 やはり彼女は通常運転だ。明日はきっと雲一つない快晴だろう。


それから、通常運転の彼女にコーヒーが冷めるま、延々と小説の、痛いところをつかれ続け、大の大人が半泣き状態になったのは忘れたい思い出だ。


ちなみに小説のその後についてだが、彼女とあの後日が落ちるまで話し合いが続けられた。

その結果、苦肉の策で出た「キャラの個性を出すために、探偵の喋り方を博多弁にする」という何とも訳のわからない案が採用されてしまった。お互い、あの時は疲れていたのだと今になっては思う。

しかし、そんな作品にも関わらず、案外評判が良かったようで、なかなかのアンケート結果だったと知らされた。


人気の出る作品とは分からないものである。


誤字、脱字に気づいたら気軽に教えてください。


編集の子のセリフを考えるのが1番楽しかったです笑


今後もゆっくりながら短編を上げていきたいと思っていますので、よければ目を通してやってください。

これからもよろしくお願いします!!

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