アンテナ
僕はいる
君は気が付いてくれた
僕のメッセージ
受け取ってくれた
早く
早く
二つの思いが重なる時、アンテナは確かにその心を受け止めていた。
「明日、遊びにいくんだ!」
「そう、よかったわね。今日はゆっくりなさい」
母親がシーツを被せてくれる。確かに眠い、僕は携帯電話を窓の外に向けて送信ボタンを押す。
『今日も届くかな』
僕はアドレスが空っぽのまま、空に僕のメッセージを送ったのだった。
「教授、今日はもうやめましょう」
「はぁ、最近の若いもんは」
「その口癖やめましょ?偏見ですよ」
ハッハッハッと笑いながら、教授は部屋を移動してコーヒーブレイクをとるらしい。
『今のうちかな』
俺はアンテナの位置を1度程ずらす。そして手に握っている携帯電話を近づける。
『ヴィー、ヴィー』
『キタっ!』
今日で成功したのは3度目である。先月偶然ぶつかったはずみでずれたアンテナがとある電波を受信したのだ。それがこのメールである。
『無題
明日、2月1日はお昼に公園にいます。サクラがとてもきれいです。明日、君と遊べたらいいな
ゆうと』
と、不思議なメールを受信する。ついに明日である。そして情報は3つ。
『一つ、2月1日は明日である』
『一つ、お昼の時間帯に公園に現れる』
『一つ、桜が既に開花している場所』
過去の二つのメールを確認すると、友達が欲しいという内容の物が最初である。
俺は返信機能を利用して送るも送信は成功せず。
不思議なメールだと思い、何度か試みたところ一度だけメールの送信に成功。
『君の友達になるよ。何て名前なのかな?』
と、短いメールをやりとりした数か月後、再びメールの受信に成功する。
『無題
はじめまして。初めての友達にきんちょうします。いつか、いっしょに遊びたいです。楽しみにしています。
ゆうと』
と、いうのが二通目。
『遊びに行くよ。俺も楽しみにしてる』
と短い文章を書き、送信する。エラー。
数日後に実に50回以上は試みてやっと送信に成功した2通目。
そして3通目の送信、は失敗。
「君も飲むかね」
「いえ、結構です」
俺はそっとアンテナの位置を元に戻し、作業に戻る。
「そういえば教授、明日って勉強会ありましたっけ」
「明日はゴルフ行くから休み、次は明後日でいいよ」
『よしっ』
聞いてみるものである、明日はフリー。そして『ゆうと』と会える。
メールアドレスが無い、何故アンテナが拾ったのか訳が分からないメール。
その正体をやっと掴むことができる。
俺は研究室で勉強会という名の教授の手伝いを黙々と続けた。
「ゆうと、大丈夫?」
「うん、平気だよ。行ってくるね」
僕は駆けた。廊下を駆け、階段を滑るように駆け抜け、ついに大きな扉を開いた。
『わぁぁ』
心の中で声をあげてしまう。何て綺麗な桜なんだと、何て気持ちのいい日差しなのだと。
「公園行くぞぉ」
一人で公園に行くのは初めてである、声にだして自分の気持ちを奮い立たせる。
過去に一度だけ、母親達と一緒に公園に行ったことがあるのだ、大丈夫である。
歩いて5分もしたら、僕は公園へと辿り着いていた。
「やっとついたー、ブランコは……よし、滑り台にしよう」
僕は心が弾んでいた。滑り台のハシゴによじ登り、荒い息のまま頂上に上り詰める。
「はぁ、、はぁ、、」
僕の鼓動は落ち着くことなく、滑り台から滑り降りないまま休憩に入った。
『桜が咲いているのは、こことここだな』
俺は2か所の候補に×をつける。運が良かった。アンテナの方角と地域別で調べたところ、今桜が咲いてる場所はたったの2か所である。
『ガタンゴトン』
電車に揺られながら俺は移動をしている。東京まで移動するはめになるとは思わなかったが、しょうがない。
「ここか」
最初の目的地。時刻はまだ11時である。
公園に咲く桜は綺麗に咲いており、子供は遊び母親達は雑談をしているようだった。
『ここ、じゃないかな……』
俺は10分程聞き込みと待機してみるも、『ゆうと』という人物には出会えなかった。
母親や子供たちに聞き込みをしてみたものの不審者のような目でみられ、これ以上とどまる
ことは得策ではなかった事もあり、次の目的地へと移動をする。
『ガタンゴトン』
再び電車に揺られ、移動先は
『***病院前』
俺は電車を降り、***病院の近くにある公園へと足を運ぶ。
そこに
「はぁ、、、はぁ、、、」
息を荒げ、滑り台の上でうずくまっている少年が視界に映る。
「大丈夫か!?」
俺は駆けた、明らかに苦しんでいるのが目にとれる。
滑り台をのぼり、少年と対峙する。
「う、うん、、、大丈夫、だよ」
顔色が悪い、救急車を呼ばなくては。
「大丈夫、だよ。それよりも、あそ、ぼ?」
息切れしたまま俺にそう問いかける。
「君は、もしかして『ゆうと』君かな?」
その名前をいったとたん、少年は顔をあげまっすぐに俺の顔をみつめる。
「お兄ちゃん、だったんだね。僕のお友達は!」
声が明るくなる、が明らかに無理をしている。
「大丈夫か?」
俺は尋ねる。
「うん、僕は大丈夫。それよりも遊びたいな」
俺は迷う、迷うがその瞳は間違いなく一緒に遊びたいと強く願った意志を感じ取れた。
「わかった、けどこうだぞっ!」
俺は『ゆうと』を膝にのせ、一緒に滑り台を滑り落ちた。
「わぁぁぁ、、、はははは」
ゆうとが驚き、そして爆笑をはじめる。
「滑り台って、面白いね!」
「だな、俺もよく昔は滑ったよ」
おねだりされるまま、その後俺はゆうとを抱え3度程滑り台を堪能する。
「はぁ、、はぁ、、、お兄ちゃん。そろそろ時間なんだ」
「そっか、そういえば携帯電話もってるの?」
俺は核心部分を尋ねる、何故空のアドレスからメールを送っていたのか。
「うん、お母さんがくれたんだ」
そういって『ゆうと』は携帯電話を俺にみせてくれる。
携帯電話は旧式で、何故俺の研究室のアンテナが電波を拾ったのかは不明である。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「いいや、俺こそ久々に滑り台滑れて楽しかったよ」
と、ゆうと少年が向かう先を確認する。
***病院。
それから数か月経過するも、再びメールを受信することはなく、送信が成功することもなかった。
「教授、明日って休みでしたよね」
「うん、ゴルフいくから」
教授とのやり取りを終え、翌日再び俺は電車に揺られていた。
『***病院前』
俺は電車を降り、***病院へと向かう。
「すいません、ここに8歳くらいの男の子で『ゆうと』君って子供はいませんか?」
「面会ですか?」
「はい、友達なんです」
「ちょっと待ってください」
1分もかからずに、電話を繋いでくれる。
「今回は特別ですよ」
「え、あ、はい」
俺は電話を受け取ると、聞きなれない女性の声が聞こえた。
「どちら様でしょうか?」
緊張するが、ここまで来たのだ。尋ねてみよう。
「あの、先日ゆうと君と遊ばせてもらった者です。ゆうと君は元気してますでしょうか?」
「っ。。。」
電話の向こう側から息をのむ声が聞こえた。
「あなた、がゆうとのお友達さん、なんですね」
「は、はい」
「ありがとうござい、ます」
「……?」
涙声で紡がれる言葉
「ゆうとの、最後の願きいてくれて本当にありがとうございます」
夜中、俺はベランダから空を見上げる。
『ガンッ』
「いでで」
ベランダに備え付けられたアンテナに肘をぶつけてしまう。
それにしても、ゆうとという少年。
友達がいないのではない、あの病院の部屋からでる事が許されなかった少年。
必死に願った思いが電波にのり偶然、いや奇跡てきにだろう、俺の元へと届いた。
そして俺たちは出会う事が出来た。
『ピピピ』
携帯が鳴る、この着信音は。
俺は携帯を開き、ニッと笑顔を無理やり作るのであった。