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第一章 3(後)

 再び大通りに戻ると、自警団が奥行きの長い銃(マスケット銃)を持ち、ダークドラゴンと戦う準備を進めていた。


「いったいどうなってるんだ?」

 自警団員の一人が怪しがって声を上げる。


 ダークドラゴンは四階建ての町庁舎の上に前足と後ろ足を乗せ、長い首と、ぎょろぎょろとした炯眼を動かしている。

 自警団は銃を構え、ダークドラゴンに照準をあわせていた。

 ドラゴンが変なマネをしたら、即座にぶっ放されそうだった。

 しかし、がちがちに銃の先が震えている団員も多く、些細なことで誰かが発砲しそうな様子である。


 それをキルシェは訝しげな顔で見る。

「まずいわね」

「何が?」

「魔物に限らず、動物が攻撃するのは決まって相手が敵意を持っていると判断したとき」


 つまり、一発でも撃ったらダークドラゴンは、本格的に攻撃をしかねない。


「キルシェ、ダークドラゴンはどんな攻撃をするの?」

「黒霧と蒼い炎を同時に吐くわ、黒霧は視界を奪い、蒼い炎に巻かれれば数秒で消し炭になる」


 そんな相手なのか。でも僕のようなタイピストがいれば、あんなダークドラゴンの一匹や二匹なんて。


「棟一郎」

 僕の顔がにやにやしているのに気づかれたのか、キルシェがただならぬ形相になる。僕は両手で口元を隠して、曲がった唇を真一文字に戻した。


「劣等感は弱気を生み出し、自信は勇気になるけれど、過信は蛮勇となり身を滅ぼすわ」

「わかってる、過信はしないつもりだよ」

「それならいいわ」


 まずはどうするべきか、キルシェには策があるのだろうか。

「棟一郎、この数十人の勢と会話をするのは限界があるから、あなたのほうから話してくれる?」


 僕はひとつだけ頷き、団員たちのほうへと歩み寄る。


「皆さん、落ち着いてください」

「落ち着いてられ……」


 団員の一人が僕を見て、口をぱくぱくさせた。


「カベー、カベ、カベー、トイチ!」

 無意味な言葉を発する団員。

「僕はカベでもなければ、トイチでもないよ。僕は壁井棟一郎かべい とういちろう

「お前のことは覚えているぞ、カベー、トイチ! 酷な目に遭わされたのを忘れられるわけないだろ」

「内乱を企てたのは君たちだよね?」


 自警団の中には、かつて内乱を起こした人間も属していた。今は物資が豊かなので、内乱する理由はない。牢獄から釈放されて、代わりに自警団として働くことで罪の償いをしている。




 ここに飛ばされてきたあの日、僕はキルシェと出会った。

 内乱を起こした集団に取り囲まれながら、治安を守るために駆り出されたキルシェ。

 彼女はタイプライターで戦っていた。タイプライターから火の玉やら、電撃やらが発射されるところを目撃して理解できた。

 そのとき僕は彼女を守ろうと思い、男たちの前に立ちはだかる。でも状況的に見て、立ちはだかったのは相手だったけれど。だが、それでも守りたかった。自分が弱いにも関わらず。ゲームの中の勇者に感化されていたのかもしれない。

 でも、タイプライターを手にして、僕こそが強いことを知った。

 そして、愚かにも、自分の強さゆえの心の弱さを曝露してしまう。




 そういうわけで自警団は本格的な仕事として、今このドラゴンと対峙しているわけだが。

「まぁ、いいや。トイチ、あいつをチャッチャと……」

 その刹那。話を遮るように、ダークドラゴンが咆哮。庁舎の窓ガラスが割れた、五枚六枚。それだけで心が折れて歪みそうだが、僕は平静を保つために拳に力を入れる。銃をぶっ放す以上の爆声に、耳の奥がびりびりする、握った拳で耳を触れる。

 団員が持つ銃のひとつが跳ね上がる。と同時に、本物の銃声が鳴り響いた。ドラゴンの身体に命中する破裂音。ドラゴンの肉体に弾丸をうずめた。

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