挿入節(2)
――挿入節 (二)――
「姉貴」
僕はかすれた声で言葉を出す。
「僕の身体がからっぽになったら……」
ひとつひとつをきちんと姉貴に伝えるように、僕は答える。
「僕の中にいる棟一郎のイメージを、僕の身体の中で生かして欲しいんだ」
「ダン、それが貴様の願いか?」
「そうだよ、僕が消えるなら僕の身体は棟一郎に与えてくれ」
「……わかった」
姉貴は僕の頭に手を当てて、棟一郎のイメージを吸い出しているようだ。
僕という人格と意識が消えても、記憶だけは残っているらしい。
「それからもうひとつ願いがある」
「なんだ?」
「棟一郎がこの世界に再び生を受けるなら、世界と棟一郎自身には何の関連性もない。そこで姉貴に頼む。棟一郎の記憶を作り変えてくれないか」
「わかった。そうだな、こういうのはどうか? 再び棟一郎として貴様の身体が生を受けたとき、貴様と同じ十六歳にしてやろう。棟一郎の人格と記憶が作られ身体に定着するまでに半年かかる。それが完成したとき、貴様のタイプライターの場所へ棟一郎を送ってやる、あとは世界と魔法のタイプライターが自分自身の使命に気づかせるはずだ」
「頼むよ、それからもうひとつ」
「注文が多いな」
「この三つ目が最後だから、よく聞いてくれ」
姉貴が息を飲む音がする。
「僕は速度を求めすぎた。だから、棟一郎に知恵を教えてくれ。せいぜい僕が騙されないくらいに賢い知恵を」
「ああ、わかった。約束しよう」
そして、僕は霧の中に消えるように、何も見えなくなり何も感じなくなった。
霧から抜けると僕は、人々が争う血みどろの世界が見えた。
ここはどこだろうか、僕は渦の中に巻き込まれて、霧が続く道をくぐったと思ったら、こんな世界に。
少女の背後に僕がいた。彼女はこの風景に不似合いなタイプライターを持っていた。
彼女はタイプライターを打ち込む。するとタイプライターから火球が発せられて、輩に対して攻撃を加えていた。
しかし、その手はおぼつかない。右手を怪我しているようだ。
そのタイプライター、いつかどこかで見たような覚えがある。なぜだろう。
だがそれよりもだ。次の攻撃を繰り出そうとしているのか、彼女は右手の小指を高く上げる。しかし、うまくキーに指がかからない。
押すキーは「P」にあたる位置だと判断し、僕は横からキーを打った。
すると風が巻き起こり、相手を転倒させた。
彼女はびっくりして僕を見る。
「僕に任せて」
僕の言葉を理解できていない様子を見せながらも、彼女は僕が味方になってくれると思ったのだろう、ゆっくりとタイプライターを渡してきた。
そして、僕の戦いは始まった。
魔法のスペルと、物語のすべては、このタイプライターから始まる。
(了)




