第五章 1(前)
――第五章――
「あれって、羊か?」
街に来て、キルシェに一番に質問したことがこれだ。
ところどころで羊がやけに多く飼われている。羊と言えば開放さされたところで飼われるものだが、この羊たちはブロイラーの家のように密閉された家屋の中で飼育されていた。
「羊……正確には魔物の羊ね」
「なんでこいつらここで飼われてるんだ?」
隣には工場らしき建造物があった。
「まったく人がいないのに、どうして工場が動いているのかしら?」
疑問がやむことがない。
これがクリスに指定されて来た場所、ブーフバッハの街の光景だった。
工場と(魔物の)羊小屋ばかりが乱立している。おまけに空気も悪い場所である。
「工場の中に入ってみましょうか」
「工場見学というやつか」
「いいえ、査察よ」
そういえば、キルシェの印刷所にも何回か査察が来たな。
中に入ると、羊が列を作って歩く。その様子をつぶさに見た。
一頭の羊が倒れて、低い音程でベーベー鳴く。そこから人が、いや鬼のような魔物が現れ、倒れた羊を鞭で叩く。
羊は起き上がり、再び前へと進んだ。
そして羊は隣へと続く通路へと歩いていく。
僕たちは身を潜めながら、別のルートで、その通路の先を目指す。
そこは血の臭いが、そして腐臭が漂う。
ゴブリンが数匹いて、一匹は羊の頭を、もう一匹が身体を押さえつける。
そして、残ったゴブリンのうち一匹が、ぎらりと光る刃物を取り出し、羊の頸動脈を切り裂いた。
羊の絶叫が三オクターブくらい飛び越えた。
羊が多量の血を流して絶命する。僕は目をそむけたくなった。
しかし、キルシェはその様子に吐き気すらこみ上げることなく、冷静にその光景を見ていた。
「キルシェは大丈夫なの?」
「仕事柄、こういう風景も見たことあるから」
仕事柄って、どういうことだろうか? 印刷業と羊の屠殺って関係がないような。
そして、ゴブリンが羊を殺すと、皮をはぎ、中からきれいな赤身の肉体が現れた。
こいつら、羊でも食うのだろうか。
しかし、羊の肉体が次の瞬間、深く窪んだ場所へと運ばれ、投げ入れられる。
その中をそっと覗く。そこには羊の死体がいっぱいに。中には周りの血にまみれ、腐臭を吐き出している死体。さらには白骨化したものすらあった。
「こいつら、なんのために羊を殺しているんだろう?」
「もしかして……」
ゴブリンたちを見る。彼らは皮を大事そうに抱え、それを別の場所に持っていく。
「どうしたのキルシェ?」
「もしかして、羊の皮の用があるんじゃないかしら。でも、それって……」




