第四章 8(前)
「そういえばだ」
「なんだよ、姉貴」
「貴様への私の願い事を言ってなかったな」
僕が勝ったら姉貴は僕の願い事を聞け。姉貴が勝ったら僕を好きにしろと。
僕は二回戦で無情にも公式ルールに則り反則負けとなった。そして、姉貴は三回戦に進出。確かに僕は姉貴に負けた。
でも言い訳なんかするつもりはない。負けは負けだ。
「好きに言ってくれ、僕はたいていのお願いは許す」
「ではな」
姉貴が自分の胸に手を当てる。
「もしダンが勝ったら、ダンは私にどんなお願いを言おうとしたのか、言ってくれ」
僕はそれを聞いて一瞬だけ沈黙した。わずかながらに躊躇う。
「それが、姉貴の願いなのか?」
「そうだ」
「……そうだな。僕のお願いは」
僕は言おうかどうか迷いを生じつつも、これは拒否権がないのだから、心臓を高鳴らせながら、そのお願いを口に出した。
「姉貴」
僕は、強気での押しも、弱気になって同情誘いもなく、ぶっきらぼうに目線をそらして、僕の羞恥を隠すようにして、姉貴を呼ぶ。
「僕と……デートしてくれよ」
こんな無理なお願い、断られるかと思った。
というか、「事実上の姉」として接している姉貴にこんなことを言ったら、怒り出すんじゃないだろうかとさえ思う。
けれど、姉貴は口元を緩める。
「ダン」
「なんだよ、笑いたいんだろ?」
もしくは怒りたいんだろう。
「いや、そんなつもりはない」
「じゃあ、なんだ」
姉貴は腕を組んで、難しそうな顔を見せる。複雑そうな思いを抱えた表情だ。それだけ僕のお願いが荒唐無稽で……
「デートするからには下手なリードはお断りだ。ちゃんと男らしく私を引っ張ってくれ」
え? と思った。デートをすることがもう既成事実であるかのように、デートの心得を僕に放った。
「じゃあ……?」
姉貴は唇で押し潰した笑みで僕を見る。
「願い事だから、逆らえないだろ?」
「……」
「さぁ、早く行くぞ。日が暮れてしまう。それで、どこへ行くんだ?」




