表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/72

第四章 7(前)

 犯人はダニエルだ。それは確実にわかっていたことだ。けれど、僕にはそのことを叫ぶ機会をひとつももらえなかった。僕はWTCとダニエルを恨んだ。


 姉貴には僕がはめられたことを話した。そんな都合のいいことを、作り話と思われるかもしれない。けれど、姉貴は親身になって聞いてくれた。 貴様が嘘をつかない人間だ。だから、それは絶対に本当だ。私が話をつけてくると言った。


 しかし、姉貴の熱意にも関わらず、それでもWTCのお偉いさんは耳を貸さなかった。


 上位五人に入ったけれど、そんな姉貴は怒りのあまり、ダンが出ないのであれば、私も三回戦には不参加表明をするし、金輪際WTCには出ないと言った。


 しかし、僕はそれだけはやめてくれと言って、姉貴に準々決勝への参加を促した。姉貴はそれに従った。


 三回戦準々決勝に姉貴は進んだ。そしてこれは後で知ったことだが、ダニエルは二回戦で六位という成績を取っていた。


 つまり、僕が反則負けになったことで、繰り上げで準々決勝に進出したのだ。


 ここから見ても僕に薬物を投与して得するのは彼であり、動機として断定するだけでも十分だった。


 姉貴は頑張った。結果として十一位になる。準決勝へは進出できなかった。けれど、ダニエルは十二位だった。結果的に彼女は次のステージに行けなかったが、姉貴はダニエルをこてんぱんに打ち負かしたと報告した。


 僕はもうこの世界に足を踏み入れることは二度とできない。けど、ダニエルが姉貴に負けたことを聞いて、僕は心底満足し、姉貴に「ありがとう」と言った。


 けど、姉貴は納得していない表情だった。


 六月が終わりを迎えようとしていたが、WTCの夏は終わる。

 僕は夢を失った。姉貴の成果に満足はしたけど、失望感は僕の胸の中を占めていた。


 ゲームのリセットボタンがあれば、それを押してなんとかできるのにな、と思いかけた。


 そう思ったら、僕は昼間の時間帯、十階以上あるビルの屋上へと足を運んだ。

 そして、フェンスから一番下を覗いた。

 ここに来れば恐怖のあまり思いとどまれると思った。


 けど、それは違うことに気づく。


 全然怖くないのだ。


 そして、ここに来た動機を忘れてしまう。僕が飛び降りないためにここまで来たのに……。


 ここから飛び降りれば、すべてがリセットされる。


 ゲームオーバーだけど、ニューゲームになる。


 僕は息を飲んで、フェンスの網を握りしめる。手が鬱血するほど食い込む。だけど、痛くなかった。

 だからますます次の行動へと駆り立てられざるを得なかった。

 僕の行動に気づく人は今のところ誰もいなさそうだ。下に数人がいるにも関わらず。


 それがさらに行動を助長させた。


 遺書なんか用意してなかった。そのことが脳裏をよぎったが、ここで死ねば自殺の理由は、火を見るよりも明らかであることに気づく。

 WTCから永久出場禁止処分を受けたのだから、死にたいと思って当然だろうと周りの人間は推測する。自殺しない理由自体がないのだ。


 だから僕は……。


 ……この行動を拒む理由を何ひとつ見つけられなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ