第四章 7(前)
犯人はダニエルだ。それは確実にわかっていたことだ。けれど、僕にはそのことを叫ぶ機会をひとつももらえなかった。僕はWTCとダニエルを恨んだ。
姉貴には僕がはめられたことを話した。そんな都合のいいことを、作り話と思われるかもしれない。けれど、姉貴は親身になって聞いてくれた。 貴様が嘘をつかない人間だ。だから、それは絶対に本当だ。私が話をつけてくると言った。
しかし、姉貴の熱意にも関わらず、それでもWTCのお偉いさんは耳を貸さなかった。
上位五人に入ったけれど、そんな姉貴は怒りのあまり、ダンが出ないのであれば、私も三回戦には不参加表明をするし、金輪際WTCには出ないと言った。
しかし、僕はそれだけはやめてくれと言って、姉貴に準々決勝への参加を促した。姉貴はそれに従った。
三回戦準々決勝に姉貴は進んだ。そしてこれは後で知ったことだが、ダニエルは二回戦で六位という成績を取っていた。
つまり、僕が反則負けになったことで、繰り上げで準々決勝に進出したのだ。
ここから見ても僕に薬物を投与して得するのは彼であり、動機として断定するだけでも十分だった。
姉貴は頑張った。結果として十一位になる。準決勝へは進出できなかった。けれど、ダニエルは十二位だった。結果的に彼女は次のステージに行けなかったが、姉貴はダニエルをこてんぱんに打ち負かしたと報告した。
僕はもうこの世界に足を踏み入れることは二度とできない。けど、ダニエルが姉貴に負けたことを聞いて、僕は心底満足し、姉貴に「ありがとう」と言った。
けど、姉貴は納得していない表情だった。
六月が終わりを迎えようとしていたが、WTCの夏は終わる。
僕は夢を失った。姉貴の成果に満足はしたけど、失望感は僕の胸の中を占めていた。
ゲームのリセットボタンがあれば、それを押してなんとかできるのにな、と思いかけた。
そう思ったら、僕は昼間の時間帯、十階以上あるビルの屋上へと足を運んだ。
そして、フェンスから一番下を覗いた。
ここに来れば恐怖のあまり思いとどまれると思った。
けど、それは違うことに気づく。
全然怖くないのだ。
そして、ここに来た動機を忘れてしまう。僕が飛び降りないためにここまで来たのに……。
ここから飛び降りれば、すべてがリセットされる。
ゲームオーバーだけど、ニューゲームになる。
僕は息を飲んで、フェンスの網を握りしめる。手が鬱血するほど食い込む。だけど、痛くなかった。
だからますます次の行動へと駆り立てられざるを得なかった。
僕の行動に気づく人は今のところ誰もいなさそうだ。下に数人がいるにも関わらず。
それがさらに行動を助長させた。
遺書なんか用意してなかった。そのことが脳裏をよぎったが、ここで死ねば自殺の理由は、火を見るよりも明らかであることに気づく。
WTCから永久出場禁止処分を受けたのだから、死にたいと思って当然だろうと周りの人間は推測する。自殺しない理由自体がないのだ。
だから僕は……。
……この行動を拒む理由を何ひとつ見つけられなかったのだ。




