第四章 5(前)
「いってきます」
僕が言うと、姉貴も「いってきます」と言い、揃って家の玄関から出る。
「なんだ、姉貴もついてくるのかよ」
「私もWTCに参加するからな」
「そうだったな、忘れてたよ」
僕はわざとらしく言ってみせる。もちろん、姉貴が参加するのは知っているし僕がそのことを忘れるわけがない。だけど、なんだか気恥ずかしくて、僕は反抗してみせる。
「まぁ、僕に手を貸すことないからね」
「いや違うな。むしろ私は貴様の敵だ」
「そっか。そうだね、WTCの競技者はみんな僕の敵……いや、その言い方は語弊があるよ」
「どういうことだ?」
「僕と姉貴はライバルだってことだよ」
「そうか」
しかし、僕はそこで言い淀んで訂正を加える。
「でも、僕の好敵手……ライバルとしてはまだまだかな」
「悪かったな、前回は準々決勝で負けたんだからな、私は」
「僕に一度でも勝ったことないでしょ?」
「悪いなダン、今日こそは勝たせてもらうぞ」
「じゃあそのときは……」
たぶん今、僕の瞳は光を放っていたと思う。
「……そのとき姉貴は僕にとっての最強のライバルとなるんだ」
「ああ」
「しのぎを削れるくらいまで腕を磨いたか、今日見せてもらうからね」
「わかった、私が研いだ刃を見せてやるから覚悟しろ」
「やだな、姉貴。僕がやりたいのはタイピング勝負だよ」
そう言いながら、僕は笑って姉貴に言い返す。
当の姉貴は笑ってなんかない、真剣な顔つきをしていたけれど。本当にその顔を見てるといつも緊張感でガチガチになっていそうだ。
「そういえば、姉貴と出会ってから十年になるのか」
「正確に言えば、今年のクリスマスイヴで十年になる。そしてお前はまだ男の子だ」
「年増の姉貴からしたらそう見えるだろうね」
「失礼な、私は二十四だぞ!」
「じゅうぶん年増だよ」
そう言ってやると、姉貴に手のひらの裏側で軽く頭を叩かれた。
今はふざけられるだけふざけておこう。そういうおふざけな顔をしていられるのは今のうちしかない。
大会になれば、すべての顔が姉貴のような真剣な表情になる。
「姉貴」
「なんだ?」
「今日、僕に勝つと言ったね?」
「そうだ。絶対に勝ってみせよう」
「じゃあ賭けない? もし僕が勝ったら、姉貴にひとつ聞いてほしいことがあるんだ」
「なんだ?」
「今は言わないでおくよ」
すると姉貴は考える仕草を見せて、僕の瞳を覗く。
「私が勝ったら?」
「姉貴の好きにしていいよ」
そうして僕たちは揃ってWTCの大会会場まで向かった。




