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第四章 2(後)

 僕の部屋でくつろぎながら、姉ちゃんは僕がパソコンを打っているのを傍観している。


「お姉ちゃん、姉ちゃん」

「なんだ、ダン」

「なんでもない」


 もう口癖化している。何も用事もないときでも、見かければクリスティーナを姉ちゃんと呼ぶことが。


「なあ、ダン。私たちは秘密を共有しあう仲であったな」

「そうだよ。僕が前に言ったように僕はそういう仲でありたいし、僕たちは姉弟になったからそういうのがあってもいいと思う」

「私の秘密を聞いてくれるか?」


 パソコンのキーを打つ手が止まり、キャスター付きの椅子を回転させて、僕は姉ちゃんを見る。


「私はこの世界の人間ではない、と言ったら信じてくれるか?」


 RPGでよく聞いたことがある。この世界とは違う異世界がどこかに存在するということを。


「ダンは私を孤児だと思って拾ってきたのだろうが、実際は違う。私は異世界から来た人間だ」

「信じるよ、姉ちゃんは僕には嘘をつく人間じゃないし」


 他の人にはどうだか知らないけれど、少なくともそのことは確実に言えた。


「そして、私は黒魔道士が身体の中に宿っている」

「黒魔道士?」

「そうだ、悪魔と契約することで魔法の力を手に入れる邪悪なる存在だ」


 姉ちゃんは一呼吸置く。


「もしかしたら、黒魔道士が本格的に私を私でないものに変えて、私の身体を完全に乗っ取って、誰かに迷惑をかけてしまうかもしれない」


 その言葉に即座に答えることはできなかった。

 けれど、方策もないし助けられる根拠もないけれど、僕はこう答えた。


「大丈夫、そのときは僕がなんとかしてあげるよ」

「六歳の人間に何ができるんだ」

「悪いかぁ! 姉ちゃんがどうにかなるまでに一生懸命考えてやるから、姉ちゃん安心しろよ!」

「そうか、じゃあ頼んだからな。ダン」


 そうして、椅子を回転させて僕はもう一度パソコンに向き直る。


「僕とお姉ちゃんの秘密。母さん父さんには言わないから」

「そうか」


 僕は再びキーを叩き始めた。


「貴様はいつも……」

「姉ちゃんひどいなぁ、いつも貴様貴様って。ちょっと言葉が汚いよ」


 英語が多からずな飲み込みとはいえ、姉ちゃんの言葉は不適当なところと、とげがあることがたびたびある。

 それを聞いて、姉ちゃんは頬を人差し指でかく。

「すまない……ええと、ダンはいつも、ああ、パソコンと言ったか、その箱みたいなものと向かいあって、いつも何をやっているんだ?」


 これを異世界人に伝えるのは難しいなぁ。適当な言葉、適当な言葉、ないか、と僕は思案を重ねる。


「ええとね、強いて言えば会話かな。僕はこのパソコンと会話ができるんだよ。命令とも言っていいかな、キーボードというのを打つことでその命令内容を伝えるんだ」

「そうか、召喚された精霊みたいなものだな」

「うわぁ、そのRPGみたいな言い方好きだなぁ」


 パソコンは使用者の言うことを完璧に聞いてくれる精霊。これって魅力的な言葉だな。少なくとも僕はそう思う。


「でもね、姉ちゃん」

「なんだ?」

「もし、パソコンとの対話を極限まで早くできたらどうなると思う?」

「どういうことだ?」

「こういうことさ」


 僕は五割出していたタイピングスピードを十割の力に変えた。

 キーが壊れそうなほど僕はキーボードを指で叩く。事実、僕は叩きすぎてエンターキーが壊れた。「A」「E」「I」「O」「U」といったよく使う母音のキーが吹っ飛んだこともある。


「よし、終わった」

「箱との、いや、パソコンとのおしゃべりは済んだのか?」

「済んださ、そして僕の言うことを聞いてくれた」

「そうか、それは何よりだ」


 姉ちゃんはそのとき僕のことがどれだけ凄いのかよく理解はできていなかったようだった。

 僕はそのとき、ゆくゆくその凄さを本格的に見せつけてやろうと考えた。


「私はダンに秘密を明かした。ダンは何か私と共有したい内緒ごとはあるか?」

「そうだね、今のところはないよ」

「そうか、それはいいことだな」


 僕はキーボードに再び目を向け、タイピングを再開した。

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