第三章 5(後)
ともかくとして、僕は外に出ることする。
館の外にうじゃうじゃいたアンデッドたちはみんないなくなっていた。昇天して消えたのだろう。
黒い雲から何かが落ちてくる。
触るとほろりと壊れそうな雪が舞い降りてきた。
荷物の袋を下ろして、キルシェが寒そうに手をこすりあわせる。
僕は自然とキルシェの後ろから手を伸ばし、抱き寄せた。
するとキルシェは無表情のまま、冷たい指でタイプを弾く。
「何をするの、棟一郎」
「え? こうすれば寒くないかなと思って」
伊達の薄着で来たのも悪かった。せめて外套一枚くらいは着てくるべきだった。それをキルシェに羽織らせてあげればよかったが、それを持ってなくてこんなことしかできない。
僕はキルシェから手を離し、下がろうとした。
しかし、キルシェはそこで恨めしそうな顔を見せる。
「なんで手を離すの?」
「え、だって、キルシェが嫌がるから」
キルシェはそこで嘆息する。白い息がはぁーっと、たなびいた。
「何も問題ないわよ、それより棟一郎のほうが寒そう。私の体温貸してあげるからもう一度両手で抱きしめてきなさいよ」
「え、あ、うん……」
「あなたがさっきやったみたいにね」
この星に来たばかりに僕がキルシェに抱きついたときのことか。なんか自分の心が痛くてくすぐったくて恥ずかしい。
「じゃあ、体温をお借りします、キルシェ様」
「あとで返しなさいよ」
そうして、僕は身体を寄せ合って、互いに暖めあった。
「ほっとするなぁ」
「そうね」
キルシェはいつもそうやってぶっきらぼうだ。でも、キルシェの笑顔は僕の目にきちんと焼きついている。彼女がどういう人間なのかは知っているつもりだ。
「キルシェがいなかったら、僕は凍え死んでいたかもしれないね」
「何を言っているのよ、炎の魔法を使えばそんなの訳ないでしょ?」
それもそうだけど、それを言ってしまったら今の雰囲気が何もかもぶち壊しだ。まぁ、キルシェらしいと言えば彼女らしいんだけど。
「これからどうするの? 棟一郎。あなたはブーフバッハに行くの?」
「僕は世界を救いたいからそこへ行く」
「元の世界へ帰りたいからじゃないの?」
「どっちだっていいよ」
あっさり答えた僕にキルシェは驚いたようにびくっとする。
「あなた、帰りたくないの?」
「だって僕には帰る理由がないんだから」
「それはあまりに寂しすぎるよ」
「僕の居場所はキルシェだけだよ」
「その割りに私を置いてこようとしたわよね」
「だって、僕の力を何かに生かせるチャンスが目の前にあるとわかったら」
すると、キルシェは後ろを向いて僕を真剣な眼差しで見つめる。
「つまり、それが棟一郎の生き甲斐なのね?」
生き甲斐。
「そうかもしれないな」
「そう……」
キルシェは少し寂しそうな顔をした。




