第三章 5(前)
「私はな、キルシェ、貴様と同じ人間だ」
その言葉を言ってから、クリスは背中を見せてこの場から立ち去ろうとする。
「待ってよ、クリス!」
「棟一郎、そんなに私が好きか?」
クリスの言葉を聞いて、キルシェは鋭い目で僕を一瞥する。
いや、そんな冗談に構っている場合じゃないし。
僕が求めるはただひとつ。
「僕は真実を知りたいだけだ。クリスはどうして僕を『故郷の星』まで連れてきたの? どうして僕が別の世界から来たことを知っているの?」
「まだまだだな、まだ知恵が足りない」
すると、クリスは外套のポケットに手を入れて、光る石を僕に投げやる。
「これは?」
「私のもっとも好きな石だ。誰かの形見だと思っていい」
「形見?」
「それはお前が持っていろ」
「ちょっと待って、そんなクリスが大切にしているもの、僕は持っていられないよ」
「持っていろ、真実を知りたければな」
全然意味がわからない。
「真実を見つけたら、また会おう。そして」
勿体ぶった順接をつなげて、クリスは次に言う。
「この先に、活版印刷工場が栄えた都市、旧名でブーフバッハという場所がある。そこで合流しようではないか」
「そこに何があるの?」
「答えがあるさ、すべての問いに対する答えが」
意を決して行くしかなさそうだな。
「それでは待っているぞ」
クリスが奥の暗闇に進んでいき、姿が見えなくなる。声も聞こえなくなり、本当にここから立ち去ることを悟った。
それから僕はキルシェに気になった点があった。
「キルシェ、さっきクリスが言っていたヘルミーナって?」
「棟一郎、私に対して呼んでいるキルシェって名前はね、魔法使いとしての地位を受け継ぐために継承する名前なの。私は差し詰め数十代目のキルシェと言ったところね」
じゃあ、ヘルミーナというのは……? それを口に出す前に、キルシェはタイプを始めた。
「私の幼名。私の名前はヘルミーナ。正式に言えば、キルシェ・ヘルミーナ・ハイディングスフェルト」
ハイディングスフェルトはキルシェの父親の名字だ。これはキルシェの営む印刷所の名前にも冠されている。
しかし、それは今しがた問題にすることではない。
疑問なのは、なぜクリスがなぜキルシェの幼名ヘルミーナを知っていたかだ。
わからない。果たして僕は答えを見つけられるのか心配になってきた。




