第三章 4(後)
「ひとつ、あなたは黒魔道士かしら?」
クリスはそれを聞いて、くふふと笑う。
「どういうこと? キルシェ」
「棟一郎、あの魔法陣を見たでしょう?」
あの魔法陣は黒魔道士が作ったものだ。
「クリスはこの村に侵入したというのに、私より前にアンデッドのトラップに引っかかった形跡がなかった」
「やはり、貴様には気づかれてしまっていたか、これは迂闊である」
「もしあなたが黒魔道士やネクロマンサーであったなら、説明がつくの。黒魔法の仲間なら魔法陣のトラップの対象外にされたとしてもおかしくないもの」
目を細めてクリスはキルシェを見る。
「あとクリス、あなたは私たちを利用したわね?」
「どういうことか?」
「私たちがトラップに引っかかることで、アンデッドが現れた。これによってあの本がどこにあるのかあなたには知ることができる。この本がある場所こそがアンデッドが守りを固める場所、多く群がる場所でもあるからね」
「なるほど」
「でもね」
そこで大きな疑問にぶち当たった顔をするキルシェ。
「あなたが黒魔道士の仲間であるとしたら、どうして本を燃やしたのかしら?」
「いい質問であるな。だが、いまはそれは告げておかないでおこう」
クリスは細い笑い声でキルシェの質問を破棄する。
「クリス、もうひとつ質問があるんだ。つまらない質問かもしれないけど」
「ほう、なんだ?」
「あのさ、クリス。僕の質問、訳がわかんないかもしれないけど、言わせてくれ」
「言ってみろ」
僕は意を決して、クリスに聞いた。
「この世にイエス・キリストはいるの?」
それを聞いて、クリスは押し黙った。
「棟一郎、イエス・キリストって何かしら?」
「キルシェは知らないか。でも、もしキルシェが知らないとしたらおかしなことがある」
僕がぶち当たっている大きな疑問、それは瑣末かもしれない。けど、大きな疑問。
「ねえ、そうでしょ? クリス……クリスティーナ」
クリスティーナ。それはヨーロッパ圏では身近な名前であるが、この世界にあっては違和感がありすぎる。
なぜなら、クリスティーナの語源は「キリスト教徒」にあるからだ。
クリスティーナという名前が存在するには、この世界にイエス・キリストがいなくては説明がつかない。
「もしかして、クリスは僕のいた世界の……」
「貴様の推論は妥当なものだ。だが」
そこに強調を加えて、クリスはこう断言する。
「残念ながら、私はこの世界で生まれた人間だ。そう……」
クリスはキルシェに視線を向ける。
「ヘルミーナ」
その名前が放たれた瞬間、キルシェの顔色が変わった。
そして、「なぜその名前を?」とタイプしてくる。




