第三章 4(中)
ここは地下室だろうか、階下に落ちたのだからそうだろう。下真っ暗の中を手探りになって移動しようとする。
何か棚のようなものが倒れていて、僕の背中を押さえつけている。そして何やら耳たぶの柔らかさをしたものを右手で鷲掴みしてしまった。何かの布越しに握っていて、それはなんだか生暖かい。何を掴んでいるのかわからない気味悪さを感じる。腐った肉かもしれない。
光源を生じさせるために簡略的に魔法をタイプライターで唱える。
――光あれ。
光源が発生し、状況が判明する。
棚で背中を押されている不可抗力で僕は、キルシェを押し倒して胸を触っていた。
僕とキルシェの口角がぴくぴくと震える。
光源が赤く染まったキルシェの頬を精細に照らし出す。
「……」
キルシェは声も出さず、タイプもせず、ただ僕を真っ赤な顔で批判的にな目つきで見ている。
「あ、キルシェ……」
掴んでいた片手を胸を離そうと力を入れる際に、僕は両腕のバランスの取り方を間違え、さらに彼女の胸を握ってしまった。
「――ッ!」
キルシェは声にならない叫びを出し、右膝を反射的な速さで上げて、僕の股間を蹴り上げ、僕は身体が横倒しになり、その反動で棚が横に退けられる。
股間を蹴られて、キルシェにはきっとわからない激痛の後に内臓に響くほどの疼痛が襲ってくる。うぐぐ……。
小さな細々とした光源が照らす中、キルシェが立ち上がり、埃を払いながら、僕の顔を高見で覗く。
「キルシェ、ごめん……」
男にしかわからない痛みがまだ残る中で、気だるげに僕は言う。
「早く行くわよ」
気にしてない素振りはしているものの、顔は笑ってない無表情であり、タイプライターも硬質な音だけが鳴る。
クリスは上にいるのだろうか?
それにしては上から「大丈夫か?」の一言すらも聞こえてこない。
とりあえずここを出ようと思う。
案の定、ここは地下室であった。しかし、上が木床であることから、食糧庫ではなく、書物の置き場になっていた。
その中で光り輝く書物がひとつあった。
魔法の光源で照らされているおかげではない。それは確かに言えた。
「何かしら、この本は……」
キルシェがその書籍のページを試しに開こうとしたときであった。
「動くな!」
クリスがこの書庫の出入り口となる扉を開けた。
「クリス、どうしたの?」
焦燥に駆られたような彼女に僕は聞く。
「その本を渡してもらおうか」
僕はクリスのただならぬ言動を不思議がった。しかし、それに躊躇することなく、キルシェは「うんうん」と頷きながら、その書物をクリスに渡した。
そして、クリスはその本を手に取ると、炎魔法の呪文を口で詠唱した後に本がページの端から燃えだし、紙の原型も残さずに燃えて消えてしまう。
「キルシェ、どういうこと?」
「私にはわかるわ、いまの本はネクロマンサー、黒魔道士が乗り移った本ね」
ということは、あの本がアンデッドを動かしていた根本原因。
「助けてくれてありがとう、あの本を開いたら私が黒魔道士に乗り移られるところだったから」
「感謝したまえ」
「うん、そのついでに私からあなたにいくつか質問したいことがあるの」
クリスは堅い表情をより堅くした。




