第三章 3(後)
「お、おおい、聞いてくれ!」
「どうしたの? ルカニエル?」
キルシェが指輪に耳を近づける。僕もそれにあわせて、耳を指輪にくっつける。
「館が、屋敷らしきものがある。クリスの奴、この館に入るつもりじゃ」
何の目的で? 僕はクリスにその目的を聞くようルカニエルに言う。すると。
「ぐぐぐ、この小娘が……いや、クリスの奴、『黙って見てろ』って言ってきやがった。いかん、また吐き気が、ぐげええええ」
小指からとっさに耳を離す僕ら。
「館っていうと貴族が使っていた館かしら?」
RPGの風景とか世界史の授業とかによく出てくるな。中世ヨーロッパの昔は荘園制というのがあって、貴族が農民をこき使っていたとか。そして、近代化が進んだこの『故郷の星』でも、いくつかの地域ではその名残があったということを聞く。
「行きましょう」
僕たちはアンデッドから逃れながら、舐めるように館らしき場所を見て探す。
煉瓦づくりの建物が次第に見えなくなる村はずれの場所に出る。
そして、遠くにそれは見えた。
背格好が高くて富裕そうな館がそびえていた。
緩い傾斜になっていて、距離にして一キロメートル前後、その先に館はあった。
「行くぞ、キルシェ」
「私の言いたかった台詞取らないで」
キルシェはクリスのことが嫌いじゃなかったのだろうか。キルシェがクリスと合流する意図がわからない。
キルシェと一緒に走る。アンデッドが館の周りに群がる。
さっきキルシェはネクロマンサーが関わっているのではないかと言ったが、もしかしてこの館の中に?
草の地面を踏みつけながら走っていく。そのときだった。
周りが光ったと思ったら、アンデッドが何もないところから突然現れた。
「魔法陣!?」
目下に顔を向けて、キルシェは気づく。
この館、周囲に魔法陣を多く描いていて、侵入者を知らせるようできているんだ。この村といい、館といい、周到だな。
しかし、そこで僕は「あれ?」と思った。
クリスはどうやってこの場所を通ったのだろうか?
館に入ったことは間違いない。けれど、それにはこの魔法陣のひとつやふたつは踏んでいるはず。
この量のアンデッドともなれば、クリスでさえ苦戦はするはずだ。
「棟一郎、とっておきの炎と風の魔法でこいつらを牽制しよう!」
「よし、まかせておけ」
キルシェがタイプライターの指を素早く走らせる。
――すべてが畏怖せる我らが炎。
――すべての命を隷属せる炎よ。
――サラマンドの至極の力ここにあれ。
――出でよ、炎の球!
タイプし終わるとキルシェが両腕を掲げる。そして彼女の上方に巨大な火の玉が現れた。
アンデッドたちは炎を怖れながらも、にじり寄ってくる。
今、タイプができないキルシェのために僕が風の魔法をタイプし始める。
――軍神は旗をはためかす。
――我が反旗も強くはためかせ。
――その風をいまここに巻き起こせ。
――セルフィドよ力を与えたまえ。
突風が吹きつけ、大きな炎の玉から前方のほうに散り散りと飛び火しあちこちに飛んでいく。
前のほうに飛び火することで、アンデッドたちが僕たちに館へと続く道を開けるように、左右に逃げ惑う。
「さぁ、行くわよ! 棟一郎」
僕たちは館に向けて直進していった。




