第三章 3(前)
走り回りながらアンデッドからの猛襲を避けている中、キルシェが僕の襟首をつかむ。そして、アンデッドの死角に入る場所に僕を行かせるよう誘導する。
ここは村の裏路地に当たりそうな低い壁で遮られた場所だった。
青い草が膝下まで繁茂している。
「何をするの? キルシェ」
「ここ、気になるの」
「何が?」
「私が火を落とすから、さっきと同じ要領で風の魔法を使ってみなさい」
何がなんだかわからないけど、とりあえず言う通りに従おう。
「人が神より……」
「いざ軍神にも……」
草丈の高い地面に落ちた火球が火炎の渦を巻き、草が焼き払われて地面が露わになる。
見るとそこには文字と円と模様が描かれている。
魔法陣だ!
キルシェはしゃがみこんで、この魔法陣をよくよく見る。
「何かわかる?」
「この魔法陣、黒魔術に使われるものみたいね」
あの悪魔と契約をして発動するというあの黒魔術のことか。
「この魔法陣は侵入者が踏んだことを、アンデッドに知らせるよう作られているわ」
「じゃあ、もしかして、僕たちがアンデッドに囲まれてる理由って」
「そうよ、私か棟一郎が魔法陣を踏んだのよ」
だから、アンデッドたちが蠢く事態に。
「でもね、セオリーで行くなら、魔法陣を村を囲むように何十個か数百個は作るわね」
ここにある魔法陣は侵入者の位置を知らせるためだけのもの。
もし、誰かがこの村に侵入したこと自体を知らせる場合、魔法陣で村を取り囲む必要がある。
「じゃあ、僕たちは」
「村は魔法陣に囲まれていて、私たちはすでに魔法陣を踏んでいたでしょうね」
なるほど。あれ、ちょっと待てよ。
「アンデッドが動き始めたのは、明らかに僕たちが村に入ったころだよね?」
「そうね、確かに」
「クリスはいったいどうしたんだろう?」
「え?」
聡明な彼女ならば、今の段階で飛行魔法は使えない。だから、村に入るなら、魔法陣は必然的に踏むことになる。
「彼女に関して言えば、調べると続々と何かが出てきそうね」
キルシェは訝しげな顔をし、クリスに対する批判的な目を見せて、そう答える。
「あんまりクリスをいじめないでくれよ」
「いじめないわよ、私は真実が知りたいだけ」
「そうか」
それから、死角に隠れながら、ここから外を窺う。
まだ、アンデッドたちは動いていて、僕たちを探している。
「あと気になったんだけどね」
「なあに? キルシェ」
「あの魔法陣、ネクロマンサーらしき者が作った印があったわ」
ネクロマンサーというと、黒魔術師の中でも死者を(ゾンビやゴーストとして)操る奴だ。
「もし、これがネクロマンサーのしわざだとしたら」
「だとしたら?」
「この村の中にネクロマンサーがいる」
そういうことか。じゃあそいつを叩けば、このアンデッドたちが消えるという算段が作れる。
「でも、この星に人間はいないはずなのに、どうしてネクロマンサーがいるのかしら? それが疑問だわ」
「たぶん、キルシェの考えはあっていると思うよ」
適当な答えだけど、僕はキルシェに及ばない頭だから、きっと彼女の言うことはあっている。
「聞いて、ルカニエル」
キルシェが指輪にタイプライターで問う。
「なんじゃ……? わしはもうへとへとじゃぞ」
「クリスはいまどこにいるの?」
「あいつ走り回ってて、なんか景色がぐちゃぐちゃに回ってて、おげえええ……」
嫌な嘔吐声が聞こえてきて、僕は両肘で耳をふさぐ。
「行きましょう、棟一郎。置いていくわよ」
「あ、待ってよ、キルシェ!」
クリスはいったいどこにいる?




