第三章 2(後)
またもや僕はやってしまった。失点がまた一点プラス。
「光っていうのはね」
キルシェは左手を上げながら、片手でタイプライターのキーを叩き始める。
――人が神より授かりしものにして。
――人が人たる武器となりしもの。
――それは命にして命を奪うものなり。
――出でよ、炎の球!
「こう使うのよ!」
キルシェの左手の上方に赤く燃える火球が生じた。それは周りを明るく照らし、光源としても働いていたが。そこまでは僕が先にやった魔法と同じ。
「棟一郎、お願いがあるの」
左手に火球を掲げたまま、キルシェが話しかけてくる。
「この左手に竜巻を起こして」
「大丈夫か?」
「いいから」
何か考えがあるのだろうか、僕は言われるがままに、竜巻を起こす魔法をタイピングする。
――いざ軍神にも立ち向かえ。
――反撃の狼煙もかき乱せ。
――回天のごとき風の渦。
――いまここに現れよ。
キルシェの火球に竜巻が起こった。まるで、キルシェが手乗りの竜巻を操っているかのようだった。
そして、次に起こったこと。火球が風に巻かれていくつかに分かれ、それから火があちこちに飛んでいく。
一部は地面に、一部はアンデッドの顔に当たり、その有様を見たアンデッドたちは戸惑い始める。
「さぁ、逃げるわよ。棟一郎」
「キルシェ、いったい何をしたの?」
「嫌なものっていうのは、近づくのは容易だけど、こっちに向かってくるのはもっとも苦手とするものなのよね」
「どういうこと?」
「ゴキブリと同じよ、死んだゴキブリに近づくのはまぁ簡単だとしても、ゴキブリが顔に飛んできたら誰だって怖がるでしょ?」
それもそうだ。僕は何げに納得をしてしまう。僕自身もゴキブリは嫌いなほうだから。
草が伸び放題に生える村の地面をわしゃわしゃと走り抜けながら、時折おびえるアンデッドに出会いながら、そのときは再びキルシェと僕の炎と竜巻の合成技を繰り出して、その場を何回もしのいだ。
三回目の炎の竜巻を作り出したときに、僕は火の粉がワイシャツの後ろ側に入り、「あちっ!」と叫ぶ。
「キルシェはよくこの魔法を躊躇なく使うね」
自分の身体に火が飛んでくる可能性もあるというのに。
「火を怖がってちゃ、魔法なんか使ってられないわよ。棟一郎」
「そ、そうか」
ところで僕たちはどこへ向かおうとしているのだろうか。
「キルシェ」
「なあに、棟一郎」
「僕たち、どこへ逃げればいいの?」
そして、クリスはいったいどこにいるのか。この村にいるはずなのにいまだに見あたらない。




