第三章 2(前)
「ちょ、ちょっと待てい……」
ルカニエルは慌てた様子を見せるように、指輪に緑色の光が明滅する。
「奴はこの先にある村にいる」
「村? まだ人が住んでいる場所があるの?」
「いや、廃墟じゃ。誰も住んでいねえ」
「方角は?」
「わからねえ、ただ村があるだけじゃ、それしかわからぬ」
そう話していたとき、遠くで雷が鳴り響いた。僕が今まっすぐ見据えているところからどこに落ちたのか距離を概算する。
僕はとっさにタイプライターから排紙して、キルシェに鉛筆を借り、紙に書きつけた。
「ルカニエル、いま雷はどっちの方向から聞こえてきた? 後ろ? 前?」
「後ろじゃ」
そうしてまたしばらく待って、再び雷鳴が聞こえてきた。
「ルカニエル、今度は?」
「右方向じゃ」
その後、五分ほど待ってまた雷鳴が轟く。
「今度は?」
「後ろ方向じゃ、本当に雷は腰に響くわい」
「よし、キルシェ行こう」
僕はキルシェに紙を渡した。
その紙には僕とルカニエルの報告から、クリスの今いる推定位置を示してあった。
「棟一郎、よく計算できたわね」
「パソコンとキーボードが友達とは言っても、パソコンばかりに計算を任せられない質なんでね」
頭の上に疑問符を浮かべたような仕草の後、キルシェは「まぁいいか」という表情を見せて、とりあえず目指すべき場所に行こうと決めた。
そうして突き進んでいくと、再び雷が聞こえてきた。
「雷がすぐそばで落ちた! ひぃ、腰が痛いわ!」
「そうか、じゃあ僕の計算は間違ってないね、よかった」
「よくないわぁ!」
いま雷が落ちた場所が僕たちがまっすぐ向かっているところだった。もう僕の計算があっていたも同然である。
このまま突き進んでいこう。
僕とキルシェは時折、丈の長い草を払いのけながら、獣道をかいくぐっていった。
そして、ようやく広く視界の晴れた場所に出た。
そこは盛り上がった丘の上で、目下に村らしきものが一望できた。
村の建物は煉瓦づくりであるが、ところどころ壊れかけていて、見るも無惨な光景である。
僕はキルシェと丘を駆け下り、村に近づいていく。
そばで見るとますます酷かった。
煉瓦に苔がむしていて、ルカニエルの言う通り廃屋という表現がぴったり来ていた。
そして、どこかしら腐臭が漂う。死体の肉の臭いとでも言えばいいだろうか、そんな空気がぷんぷんとする。
僕は鼻が痛くなり、指で鼻の頭を押さえつける。
そのとき、煉瓦が崩れ落ちる音がする。
人影が建物の暗がりから覗く。
やった、クリスだ。僕は「クリス」と言いながら、近づいていく。
しかし、それは彼女ではないと僕は気づく。
「棟一郎!」
キルシェがとっさに魔法をタイプし、相手の胸に穴が開き、倒れる。
そして、不思議なことに光に包まれて消滅した。
「キルシェ、こいつは」
「ゴーストのたぐいかしら」
僕は唾を飲んだ。そして、草むらを踏む音がそこかしこから聞こえてくる。
「キルシェ……」
僕がつぶやくとキルシェは身の毛をよだたせた様子で後ろを見る。
気づけば、僕たちは異形のなりをした者たちに囲まれていた。




