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第三章 1(前)

 ――第三章――


「クリスはどうした?」

「クリスっていうんだ、あなたの連れの人?」

 むっとしたような顔をして、キルシェが答える。


「あの人なら、ここにはいないわよ」

「何かあったのか?」

「ドラゴンが現れて、自分が引きつけるとかなんとか言ったの」


 なるほど、ドラゴンから撒くためにクリスは……。


 ところで、僕はキルシェの様子にただならざる雰囲気を感じていた。

「ねえ、キルシェ?」

「何?」

「怒ってる?」

「怒ってるわ。棟一郎が勝手にこの世界に来たこと、棟一郎が私を巻き込んだこと……」


 それは本当に悪いことをしたと思っている。


「それから、棟一郎がクリスと……」

「え、クリスと?」

 問い詰めようとしたら、キルシェは「あっ」と言って、何か気づいたような顔をする。


「なんでもないわ」

「何、僕とクリスがどうかしたの?」

「なんでもないわ、二度も言わせないで」

 非常に気になるのだが、まあいい。


 僕のはるか後方で、間欠泉のように水が噴出する。雨が降ったように水滴が音を立ててぱらつく。

 ドラゴンの死体が近くにあった。翼にある傷に見覚えがある。あのとき闘ったドラゴンが転移用魔法陣に吸い込まれて、再びここに戻ってきたというわけか。


「あの魔法陣、開いたままで危なくないか?」

「そうね、陣の力を封じればいいんだけど、私はその術を知らないから」

 前もその話題に触れたが、おそらくこの力を封印させることができるのはキルシェの亡き母だけだろう。


 でも、僕はそのとき思った。

 この転移魔法陣ができたということは、魔法陣を作った人間がいるということだ。ならば、その製作者がどこかにいて、これを封印することもできるのではないだろううか。


 しかし、たとえ封じることが可能であったとしてもいまこれを封印すべきか、封印せざるべきかは難しい問題だ。


 僕は『故郷の星』の魔物を殲滅させて、この地を再び人間が来られるようにするために僕は来た。人間が移動するためにこの魔法陣は必要になって……。


 いや、転移用魔法陣を再び作ればいいだけの話だから、魔法陣を作った人間をまず探し出して……。


 ああ、考えるのが面倒だ。とにかくこの場から退散して突き進もう。


 僕とキルシェは向こうに見える森を抜けるべく、歩いていった。

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