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第二章 6(後)

 ここはどこだろうか。

 目を開くと、自分が跪いていることに気づく。なんだか砂埃が舞っている場所だった。

 口の中に何か入っていると思い、せき込んで吐く。砂利を口に含んでいたことを知る。

 この地面も砂利だ。


 僕はどうしてここにいる? 飛んだ記憶をなんとか取り戻すように海馬を巡らす。


 僕はクリスに迎えられて、『故郷の星』へと行くために渦に行った。そこでキルシェが現れて、彼女が止めに入って。

 そうだ、僕はそこでキルシェに手を掴まれた。だんだん思い出してきた、それからクリスが僕らの手を離させようとして、もみ合いになって、どうこうしているうちに渦の中に吸い込まれて。


 ということは、ここは『故郷の星』か。


 いまは夜だろうか。でも、上空には今までに見たことのないような暗雲が立ちこめていて、稲妻が時折、紫色に光を発し、岩をも砕かんほどの音を立てる。

 周りは砂利の土ばかりで、さらにその四方は森に囲まれている。


 そして、僕は寒さを感じた。身体が濡れていた。服装も泥だらけで見るも無惨である。

 冷たい風が吹きつける。風が僕から体力を奪う。筋肉がガチガチに固まって、寒さに震えることすら叶わない。


 僕は何のためにここに来たのか。

 そこで僕は複雑な寂しさを感じた。後悔の念と言ったほうが正確かもしれない。

 僕はここに来ていなければ、今ごろキルシェと暖かい食事をして。


「キルシェ……」

 僕はバカだった。どうしてこんなことを。


「キルシェ、寂しいよ」

 風は身体を突き抜けて、心の温もりすらも奪おうとしていた。


「キルシェ、キルシェ」

 あのとき、キルシェが心に問いかけてきた言葉を一心に聞いて、戻る勇気さえあればなぁ。僕が持っていたのは、『故郷の星』へ向かう勇気じゃなかった。蛮勇と無鉄砲さだったのだ。


「キルシェ、俺が悪かった。悪かったよキルシェ」

 きゅっと砂を踏みしめる音が聞こえてくる。その音はどんどんとこちらに近づいてきた。


「キル……シェ?」

「棟一郎」

 そこには、キルシェがいた。


 寂しさの中で遭遇したあまり、僕はどろどろに汚れた身なりでキルシェに抱きついた。


 人間の肌の温もり。キルシェの優しさが心と身体に流れ込んでくるようで。僕は安心感を得る。

 いきなり女の子に抱きつくのもとやかく言われそうだが、こんな泥だらけの服で抱きつかれたら迷惑だろうにキルシェは何も言わない。それどころか、彼女は跪く僕の顔を片手で包み込む。


「大丈夫だよ」

 もう一方の手でタイプする彼女。


「ごめん、キルシェ」

「まったく猪突猛進なんだから棟一郎は、夢中になるものを見つけると私すらも捨ててしまえるほど」

「ごめん、謝罪しても謝罪しきれない」

「でも、それだけ世界を救うことに命を賭けてるんだね」

「キルシェ……」


 僕はキルシェの中で眠りそうになった。温もりの中で彼女に許された気がした。


「棟一郎、あなたには足りないものがある」

「知恵だろ?」

 クリスに言われたことを復唱した。


「何を言ってるの? それはいつものことでしょ?」

「え? じゃあ、ほかに何が足りないの?」

「あなたに足りないのは、世界を救う意味よ。正式な動機と言ってもいいわ」

 僕が世界を救う理由、それは自分がタイピングが得意だから、僕にしかそれができないと思ったから。


 いや、それは動機ではない。できるからやるなどというのは愚かな考えなんだ。


「さっき私は棟一郎に交信をかけたの」

 僕はクリスとキルシェのあいだに葛藤が生まれた。キルシェを取るか夢を取るか。

 そのとき、キルシェはいつものようにタイプライターを打って僕に言葉を送りつけてきたのか。


「私のことを捨ててしまえるほどの心強さで『故郷の星』に向かってるんだったら、止めなかったけど。あなたにはそんな心強さはなかった。ただ無鉄砲なだけだったんだね」

「う……」

 それを言われると心が痛む。


「でも、私のことを心配してくれる気持ちがあったことで、私も安心した。あなたに足りないもの、世界を救う動機や意味のかけらを少しだけ手に入れたのかもしれない」

「それは?」

「それはあなた自身が見つけなさい。でも私を心配したんだから、あなたはそれをもうすぐ見つけられる」


 キルシェは僕の手を掴んで、立つよう促され、僕は立ち上がった。

「わからない、何もかもわからない、夢にしてもキルシェにしても中途半端なんだ」

「だからこそあなたは先へ進める」

「え?」

「どちらも中途半端っていうのは葛藤しているってこと。それを乗り越えたとき、あなたは世界を救う意味を知る」

「キルシェ……」




「戦いなさい、棟一郎。そして、世界を救うの!」

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