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第二章 5(後)

 太陽が半ば沈んで、街中はオレンジ色の灯りが点り始め、僕は集合場所の波止場まで来た。


「遅かったな」

 なかなか来ないせいで僕を探していたのだろうか、クリスが姿を現した。


「貴様のお姫様にちゃんと別れの挨拶はできたか?」

「いや、……できなかった」

「そうか、まぁ急ぎだから仕方がないな」


 僕とクリスはこれから、『故郷の星』へと行く。

 この最強の二人がいれば、魔物はすべて根絶やしにできる。きっと。


 クリスは僕を迎えに来たと言った。

 この異世界と、僕がいた世界について知っている。それがなぜかはわからない。

 けど知っている以上、僕はクリスに疑惑の念を生じることはできなかった。彼女は何かを知っている。

 僕を別の世界から来た人間であることを見破った後、彼女は僕の両手を握り、こう話してきた。


「『故郷の星』へ行ってはくれまいか? 私は貴様の……棟一郎の力が必要なのだ」


 そして、次の約束をした。

「もし、あの星を救ってくれたならば、私は棟一郎を元の世界に返す。私はその方法を知っている」


 それを聞いて、僕はこの世界に留まるべきか、元の世界に戻るべきか悩んだ。


 いや、でも世界へ帰れる特典など「おまけ」でしかなかったのかもしれない。

 僕の力でこの世界を救える。それだけで面白いじゃないか。そんなことを考えていた。


 僕はそもそも、海で巻いたあの吸い寄せられる渦潮を見たときからそう思っていた。

 そして、最後の一打はクリスの一声で決まったのだ。


 だから僕はクリスに答えた。

「僕の力を役立たせて欲しい」


 こういう経緯があって、僕ら二人は今この波止場にいる。

「後悔はしないか?」


 そう問われて僕はしばらく考えたのちに答える。

「戦場で死んで後悔することはあるかもしれないけど、この世界を離れて後悔することはない。その点に関してだけ言えば僕は覚悟を決めたから」

 空元気にそう言った。


 するとクリスは笑って、僕を見た。

「せいぜい死んで後悔しないよう気をつけるんだな」

「うん」


 でも正直言うと後悔はないわけではない。

 キルシェにちゃんとした別れの言葉を言えなかった。

 別れ際の手紙を書くことすらも叶わなかった。


 でも仕方ないと思う。これは僕にしかできない使命なのだから。僕自身の、この思いは「傲慢」かもしれない。

 だが今はそんな思いも捨てておこう。後で拾って悔やむ時間はいくらでもあるから。


「さぁ、行くぞ。棟一郎はゴンドラに乗るのはじめてか?」

 なるほど、そこには確かに客を乗せる用のゴンドラが用意されていた。まさかとは思うけど。


「これって盗んできたの?」

「まさか、借りてきたものさ」

「借りてきたんだ……って、あの渦に行くんだから、結局このゴンドラも返せないじゃない」

「船頭を雇って巻き込むわけにもいかないだろう?」

「それもそうだけど……」


 まぁ、仕方ないか。この際、許すことにした。

「さぁ、出発しようか、相棒」

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