第二章 2(前)
キルシェから五〇〇ドーラを渡され、三〇ドーラのコーヒーを頼んだ。キルシェからは「飲み食いをするのも仕事のうちだからね」と言われた。
ここはコーヒーハウス。簡単に言えば、コーヒーしか出さない喫茶店だ。コーヒー以外の飲み物は勿論のこと、チーズやサンドイッチといった食べ物もいっさい出てこない。コーヒーしか飲めない場所だ。
でも、情報収集の場として有効な場所だ。ここは多くの新聞と雑誌を取り寄せていて、利用者はこれらをすべてタダで読める。
「いまの税率は高いが、公務員の給与も高い。平均的な給与を考えれば、五倍も違いがある。まず公務員の給与から削減すべきであり……」
議論をする声があちこちから聞こえてくる。
政治などを論議しあうインテリもいるということだ。だから、めぼしい情報が手に入ることもある。
三〇ドーラは一般的なコーヒーの値段の相場だ。だから僕は町中のコーヒーハウスを巡って、十五杯ほどのコーヒーを飲まなくてはならないことになる。
どうしてこの世界にもコーヒーというものは存在するのだろうか。
地獄だ。
だが、これは僕にしかできないことだ。コーヒーハウスは女性の入店を禁じられている。だから当然僕が行くしかない。
夜明け方は簡単な情報集めしかできなかった。しかしコーヒーハウスが開店する時間帯が訪れたので、本格的な情報集めはこれからだ。
インテリが議論しているところに割り込んで、情報を聞き出すのはやめておこう。熱中しているところに水を差すのはよくないし、何より僕は無用な論争に巻き込まれたくない。
「はい、コーヒー一丁」
コーヒーしか出すものがないのに、ここの親父さんはなんでわざわざそう言うのかな。
「この街のヒーローには、濃いめのコーヒーにしておいたよ」
嬉しくて、飲んだだけで涙が出そうになる。はぁ、人気者は本当に辛い。
「ところで、棟一郎くん。君にお客さんだよ」
「え?」
「あそこの隅に座っている人」
隅のほうを見ると、一人で新聞を見ている人がいた。
灰色の外套に身を包んで、ダークブラウンの帽子を深くかぶっている。
「君に伝えたい情報があるとか言って、もし来たら伝えてくれって言われてね」
それは渡りに船だ。
僕は少し怪しがるものの、その人に近づいていく。




