第二章 1(後)
「棟一郎、魔法を使うわよ!」
「お、おう」
僕は慌ててキーを触れる。遣うべき呪文はみんな一致しているようだ。おじさんたちがすでに唱え始めている。僕もキーの音で詠唱する。
――いずこより強き風吹かん。
――いずれの時に風起こらん。
――いまだ見えざる風のまえ。
――いまよここへ風来たまえ。
僕たちは躍起になって、呪文をタイプし。魔術師たちは文言を直接に詠唱した。
破れそうなほど帆に強い風が当たり、渦に吸い込まれていく方向の逆に、船は押し戻されていく。
そのとき、ドラゴンの身体が下がり始めた。
足場が消えたように沈み始めたのだ。渦に吸い込まれてるのか。
この場所が「竜の墓場」とでも呼ばれそうなほど恐ろしい光景である。少なくとも僕にはそう思えた。
ドラゴンが顔を半分、渦の中に没する。
それからドラゴンが見えなくなるまで数秒はかからなかった。
渦の力はなお強かったが、みんなが風精霊セルフィドの魔法を使うことで、その場に居留まる。
みんなの努力が結果を征し、渦はゆっくりと消えてゆき、僕たちは助かった。
状況が落ち着いたのを知って、みんな疲労困憊して甲板にしゃがみ込む。
「いやはや、危なかったのう」
おじさんがそう言い放ち、ほっとした空気が流れた。潮風が吹いて、眼と鼻についていた酸っぱい臭いをどこかへと流してくれる。
ところで僕はあの渦に見覚えがあった。
それを見たのは、この世界に飛ばされたときに。いわばこの世界への入り口。
僕は渦に吸い込まれたのだ、そして気づけばこの世界に。
それじゃあ、もしかして、あの渦は……。
「あの……すみあせん、僕……」
そこでキルシェの手が伸びる。僕が話を切り出す前に制止された。
「魔術師さま、あの渦をどう見ますか?」
「なんじゃろうな」
「私にはわかります、あれは転移魔法の方陣のせいです」
転移魔法って……。
「待たれキルシェ、それはそなたの母が使った魔法では」
「厳密に言えば、母の祖母、曾祖母……と母の先祖の血筋から代々伝わっています」
「となると……そこに方陣があるとすれば」
「しかし、私はその魔法が使えません。母は……」
「待て、そこから先は言わずもわかる。そなたの母が『月』へと人々を送り込んだ際、自らの命を犠牲にしたことを我々は感謝しておる」
悲しいことを思い出させたことを後悔したように、おじさんは必死に庇う。
「しかし、そなたができないとしたら、誰がやったのじゃろうな」
「わかりません、でも母以外にできないとしたら、それが謎なのです」
話が込みいってるので、僕はどうにも話に参加できなかった。仕方ない、渦のことはあとでキルシェに話そう。
「方陣は一定の間隔で『故郷の星』につながるようになってるみたいです。渦が突然出てきて消えたのはそういうことでしょう」
「なるほど」




