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幕間 1

   ――幕間 一――


「きゃあっ!」


 指先から細い炎が放たれたとき。普通ではない熱さを感じ、私は腰を抜かした。この世にあんなに熱いものが存在したなんて。


 芝生の上に火がヂヂと燃える。草が青々とした色だったため、燃え広がることはない。ママは身につけていた青紫色のマントを広げ、小さなうちに火をはたき、消した。私は身体が少し火照った。


「うまくいったわね、はじめての魔法を一回で成功させるなんて、さすがキルシェね」

「ママ……」


 薪ストーブのあるキッチンで、見慣れている火というもの。暖かいスープとこんがり焼いたチキンを作るための火が、こんなにも熱いものだったなんて。


 四歳の私は火に触れたことがなかったので、火がどんなものか経験的な意味合いで知らなかった。


 その火が、私の呪文詠唱によって現れた。


「火の精霊・サラマンドに愛されているのね。キルシェ」

 私はキルシェという名前を母親からもらった。

 キルシェという名前は、重い響きを持つ。そして、その名前を持つことに大きな責任もまた持つ。

 この「キルシェ」という名が持つ大きな意味を知るのは、もっと後の話だけれど。


「ママ。私、火が怖い」

 そんなことを言ったら怒られると思う。でも火の怖さ以上にママに怒られるのが怖くて、私はぎゅっと目をつぶった。


「キルシェ」

 優しい声色でささやかれ、私は安心感で目を開いてしまう。ママは微笑みを顔に浮かばせていた。


「火を怖がることは、生きている者として当然のことよ」

「ママ」

「人が火を恐れなくなり、火に慣れ切ってしまったときが一番怖い。時として火は人を不幸にする。争いごとの火種に火をつけてはならないわ」

 柔らかい笑顔で、ママはそう語ってくれた。


「あなたの火は、命の火になるはずよ」

 懸命に燃え、生きる糧となる「命の火」。生活の火とも言う。


「キルシェ、あなたは優しい人になりなさい。命の火をいつまでも絶やさぬように」

 その言葉が私の胸の内でいまだに残っている。

 自分自身が使う火を「命の火」とすることを心とママに誓った。


 しかし、その約束は年月を経たある日、破られることになる。

「命の火」が「戦争の火」となってしまうことを誰が想像しただろうか。

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