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第一章 5(後)

 キルシェは顔を数秒ほど落とした後、相手に敵意剥き出しの眼を向ける。


 はじめて聞く相手にとってみれば、「それ」はガラスを引っかいた音に聞こえる。僕もはじめて聞いたとき情けなくもそう自分の中で表現してしまった。

 絞り出すようなキンキン声をキルシェは発し、僕たちの鼓膜に響く。

 いつのころからかは定かではないが、キルシェは正確な発音がうまくできない体質で、また異常に高く鋭い声をしていた。


 それは魔法のタイプライターでしか話ができないことの理由。彼女は魔法使いの母の血を受け継いでいたが、この通り言葉がうまく話せず、発声による魔法詠唱が叶わない。

 だから、キルシェの両親は呪文を打つタイプライターを用意した。

 キルシェはタイプライターを使って魔法を使う。そしてまた生活の手助けにしている。

 彼女の生活のしづらさが、彼らにわかってたまるものか。


「不愉快だ、口を閉じろ」

「何を言ってるの。君がキルシェに口で話せって言ったんでしょ! 何度だって話すよ! キルシェの生の声で!」


 僕は彼をまっすぐ瞳を見据え、そう告げた。

 このやり方は差別と偏見を助長させるかもしれない。けど、キルシェのお腹に溜まった怒りを吐き出させてやりたかった。だからそこはキルシェの意向を尊重する。


 キルシェは嗚咽混じりに苦しげにそして時折咳込みながら、甲高い声で、大粒の涙をこぼしながら一生懸命訴えた。


 耳を塞ぐ者がいた。

 そこまでは僕もキルシェも心が広い、まだ許せた。


 でも、明らかに好奇の目で見る奴らが多かった。

 そいつらは絶対に許せない。

 死んじまえ。


 衆目に晒されながらも、彼女は気にする素振りなく、思いの丈を全部彼らにぶつけた。

 声が枯れ始めた頃合いを見て、彼女が疲れた頃合いを見計らい、僕はキルシェの頭に手をぽんと置いてやる。


 そして、彼女の顔を胸にうずめるように膝を折って、抱きしめずにはいられなかった。


 彼女は半ばかすれた高い声で泣いていた。同情なんてきっとできないと思う、彼女の苦しみは想像を絶するだろうから。僕は彼女の苦しみが涙で流れていくことを願った。


 そうして、とりあえずこの場は解散となった。

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