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見習い魔法使いの奮闘記  作者: 久遠
第一章 弟子入り
8/14

魔術と魔法

前回の話が、時間がなかったとはいえ穴だらけだったので少し改訂しました。

「全く、厄獣鬼やくじゅうき2体だって?

荒木、お前一体何をした? 明らかに人間の域を超えてるんだけど」

振り下ろされる巨大な腕をかわしつつ、荒木に問う。

かなりの数の魔獣を従え、さらにこんな化け物まで飼っているなど、

とてもじゃないが普通の人間の仕業とは考えられなかった。

「今君がいったとおりだ。人間をやめたのだよ、言葉通りな」

荒木は歪な笑みを浮かべ言い放つ。

「人間をやめた? 魔獣練成以外の禁術に手を出したのか?」

「さてな。それよりそんなにのんびり話をしていてもいいのか? 

君はともかく君の弟子はそう長くは持たないと思うが」

悠斗は、雫とは違い早くも追い詰められていた。

それに気づいた雫が援護しようと魔術式を展開しようとするが、

もう一体の厄獣鬼にはばまれてしまう。

「くっ邪魔をするなっ!」

魔術式を高速で構築、展開し一度に十数本の雷の槍を降らす。

しかし、厄獣鬼はそのすべてを避けた。

厄獣鬼は劣化固体である黒獣鬼とは硬さも素早さも攻撃力も正しく桁違い。

また、攻撃前のタメも存在しないため、黒獣鬼とは比べ物にならないくらいの化け物だった。

「まずいな……。このままだと悠斗君がもたない……!」

さすがの雫も、苦戦を免れなかった。

(仕方ない。魔法を使うか……!)

昼間、黒獣鬼を焼き払った魔法・・を展開しようとしたとき、

悠斗がいるはずの方向から、地面を揺るがす大爆発が起きた。



◆◆◆◆◆



「やばいやばいこれ絶対死ぬってっ!」

頼みの綱の雫は、未だあの化け物にダメージを与えることなく、上空の男と何か言い合っていた・

「師匠しゃべってないで助けてくださいよおっ!!」

悲痛な叫びも、化け物の攻撃による爆音でかき消されてしまう。

「いやこれは本当、冗談抜きでやばい……」

文句を言いつつも、悠斗は正確に現状を把握していた。

雫はただ喋っているのではなく、攻めるタイミングが掴めていないのだ。

相手は素人でも黒獣鬼とは桁が違うことがわかるほど強大だった。

この一週間でこのギリギリの境地に立たされるのは何回目だろうと、頭の片隅で思いつつ、

冷静に打開策を思案する。

(考えろ、なんだかんだでいままでどうにかなってきたんだ。諦めるにはまだ早い!)

絶望しそうになる心を必死に支えながら、相手を注意深く観察する。

(手も動く、足も動く。魔術だってまだ試してもいない。……大丈夫、僕ならできる!)

悠斗は一つ重要な事に気がついていた。

(こいつら、こないだまでの奴とちがってかなり知能が高い……!)

雫に対しては、全力で攻撃を仕掛けているが、悠斗には余裕を持っていたぶりながら確実に殺そうとしていることだ。

明らかに、この化け物は「考えて」行動している。それは非常に厄介だが、逆に言えば

(こいつは僕に脅威を感じてない! それに、考えるってことはある程度行動を制限させることも可能……)

そして、悠斗には奥の手があった。日中襲われたときとは決定的に違う、戦う術が。

(一か八か……。でもやる価値はある!)

そう決心すると、悠斗はまず雷の陣で相手のルートを制限しながら隠れ家横にあった、ゴミ置き場のような所に誘い込む。

厄獣鬼は、時折飛んでくる雷をなんなくかわしながら徐々にその距離を詰めていく。

「勝負だ化け物……!」

壁際まで追い詰められ、悠斗は振り返り真正面から厄獣鬼を睨みつける。

一度に3つの指向性を持たせた雷の陣を展開し、相手の額を狙ってまず一発打つ。

この程度なら問題ないと判断した厄獣鬼は、避けることもなくそのまま進む。

額に当たると同時に眩い光がほとばしる。

その間に残り二発の雷の陣を目の前に向けて打ちこむ。

一瞬目が眩んだ厄獣鬼はそれに気づけず、回避行動に遅れる。

そして、目の前で二つの雷の陣がぶつかりあい先ほどとは比べ物にならないレベルの光の爆発が起きた。

その光は厄獣鬼から完璧に視界を奪う。

知能が低い魔物は、この時点で我武者羅に暴れるだろう。

だが、厄獣鬼はなまじ知能が高かったため、冷静に視界が戻るのを待って、目の前の獲物を殺そうとする。

それは、明らかな隙を目潰しに使ってきたことにより相手が自分に危害を加えることができないと認識したためだった。

しかし、それこそが悠斗の狙いだった。

目潰しを発動させた瞬間、悠斗は目を瞑り、水の陣を多重展開し、自分の体に水の防護幕を作る。

そして、自らの前方に火の陣を五つ重ね、「魔術式」を組み上げる。

火は炎となり、炎は劫火ごうかとなる。

その熱およそ2000度。

それを、水の防護幕で一瞬だけ熱を遮断する。

水の防護幕は、魔術的に火と相対する陣のため、その性質から魔術によって起こされた熱を防いだのだ。

それと同時に土の陣で、地面を一点にしぼり急激に盛り上がらせ、近くに倒れていた鉄柱を跳ね上げる。

ちょうど厄獣鬼の真上で、劫火と鉄柱がぶつかる。

そして、目が眩み動けない厄獣鬼に、炎の雨として降り注ぐ。

「グガァァァァ!!!」

悲鳴を上げて体を縮こまらせ、必死に耐える。

さすがに、雫が苦戦する魔獣だけあって、1500度以上の溶解した鉄にも耐えていた。

だが、悠斗の攻撃はそこでやまなかった。

再び大量の水の陣を自分に防護幕として張った上で、さらに土の術式を五重で構成し、大きな岩の壁を作り上げる。

そして、岩の壁が完成する瞬間に、指向性を持たせた水の陣を重ねて厄獣鬼に放つ。

大きな水の塊は、溶解した鉄をまとった厄獣鬼に当たる。

瞬間的に水の温度が跳ね上がり、急激な膨張を起こす。

そして、大爆発が起こった。

爆発が収まった後土の壁は半分以上吹き飛ばされ、地面は大きくえぐられていた。

厄獣鬼は、見事に焼き尽くされ、体の一部が炭と肉塊としてのこっているだけだった。

「……ハァ……ハァ、こっちはやりましたよ師匠……!」



◆◆◆◆◆



「……ハァ……ハァ。こっちはやりましたよ師匠……!」

爆発が収まった後、土煙の中からボロボロになった悠斗が姿を現し、

誇らしげな表情で宣言する。

「……馬鹿な!? 魔術を習い始めて数日の人間が厄獣鬼を倒すだと!?」

荒木の目は驚愕に見開かれていた。

ある程度の才能はあるのだろうと思っていたが、さすがにこの結果は予想していなかった。

一方雫は、

「あはっ……あはははっ!! 本当に最高だよ君は!!」

最高の気分で笑っていた。

弟子の才能、そして可能性。

自分の目は間違っていなかったと再び確信をもてた。

「すごいだろう荒木? 彼の可能性には私すら嫉妬するレベルだよ」

「ありえん……! こんなことがあっていいはずがない!」

呆然と、そう繰り返す荒木。

それを愉快そうに見る雫。

そして、その後ろから大きく振りかぶられる腕。

だが、雫は難なく厄獣鬼の攻撃を避ける。

「最高の気分だよ。いい機会だからよく見ておけ荒木。そして悠斗君!」

そういうと、自分を起点とし大きな「魔法式」が展開される。

「幻界、発動!」

世界が強制的に変更される。

既存の概念を塗りつぶし、術者の望みどおりの世界を再編する。

「紅炎煉獄!」

魔法式が敷かれた場所を、ドーム状に魔力が覆っていく。

そして、完全に世界が閉じられ、

「よく覚えておくといい、これが魔法だ!」

雫のための世界が完成する。


紅の炎が縦横無尽に跳ね回り、雫の意思により生き物のように厄獣鬼を焼き尽くす。

そして、唖然として目の前の光景に釘付けになってしまった荒木をも飲み込む。

脅威となるものすべてを跡形もなく焼き尽くす。

雫が幻界を解き、世界が元に戻ったときには地面に座り込んだ悠斗と、

悠然と佇む雫、そして荒れ果てた土地が広がっていた。


「逃げられたかー。というかそもそも昼間と同じく実体じゃなかったのかな?

まぁどちらにせよ次に会ったら焼けばいいだけか」

雫は荒木に逃げられたことを悟り、すこし悔しい顔をするが、すぐに弟子も無事だったしいいかと思い直す。

「聞きたいこととか色々あると思うけど、とりあえず今日はもう休もう。

明日ゆっくり話をしてあげる」

座り込んだまま、あっけにとられている悠斗にそう声をかけ、隠れ家に戻る。

あれだけの戦闘があったにもかかわらず、隠れ家には傷一つついていなかった。



◆◆◆◆◆



「まさかあれ程とは……」

悠斗の才能も、雫の魔法も荒木の予想をはるかに超えていた。

当初考えていたように、簡単に勝てるということはないだろう。

「だが……それでも……」

それでも荒木は計画を変えるつもりはなかった。

簡単に勝てなくなったというだけで、

例えあの二人があれ以上の力を出してきたとしても、まだ負ける気はしなかった。

「大丈夫だ……。勝機はこちらにある……!!」

まるで自分に言い聞かせるように、荒木は夜の闇が深まる中、一人ずっと呟いていた。


魔法式、魔術式、陣はすべてよくある魔方陣のようなものです。

見た目的には魔術も魔法もあまり差はありません。


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