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見習い魔法使いの奮闘記  作者: 久遠
第一章 弟子入り
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弟子入り

 「魔法使い……ですか……?」

先ほど自分の目で散々非日常的なことを見たため、

疑う気はなかったがさすがに聞き返してしまった。

「そ、魔法使い。さっきのアレ簡潔にいうと魔法なのさー。

それで、魔法のことを一般人に説明するわけには行かないのよね」

へらへらとおどけた口調で彼女は続ける。

「だからさー、詳しく知りたいなら君にコッチの世界に来てもらわないといけないの。

まぁすでに結構危ないところまでみられてるから

コッチの世界に来ないというなら記憶を消さないといけないのだけど」

どうやらさっきの物騒な言葉は聞き間違いではなかったらしい。

「それって脅迫ですよね……」

げんなりとした顔でそういうと、

「違う違う、あくまで 提 案 だよ?」

と、心底面白そうに彼女が言う。

(駄目だ……この人絶対面白がってる……)

そのおどけた口調や雰囲気から、彼女に悪意がないことは明白なので、冷静に言われたことを吟味してみる。

(魔法を一般人に知られたらまずい……。

まぁそれはそうだろうな、魔法なんてものが広まったら確実に混乱するだろうし。

っていうかだったら一般人に知られるようなヘマをするなよ……。

こう、魔法で結界を張る!とかできなかったのか……)

「ちなみに、本当なら君はここに来ることはできなかったはずなんだけど、

気絶したときに結界が解けちゃってねー。まぁ最悪のタイミングで君はここにきちゃったって訳。」

「……魔法って人の心を読めたりするんですか?」

「いや、顔に書いてあるから」

ついに笑いをこらえられなくなったのか、口元を押さえてクスクスと笑い始める。

その様子を横目にみつつ、再び考える。

「それにしても……魔法使いになるってそんな簡単になれるものなんですか?」

「まぁ簡単ではないけどね。具体的にいうと私の弟子になってもらうことになるかな。こちらにも少し事情があるのでねー」

ふむ、と思考を馳せる。

(魔法使いになるって話は、別に悪くない。僕だってそういうものを夢みたことはあるし。

ただ、弟子になったとして変な契約でも結ばれたらたまったもんじゃない。相手は本物の魔法使いなんだからそういうことも警戒すべきだ。

だからといって今判断するには情報が足りないし……。ここは慎重にいくべきか)

「あの……すぐには返事ができないので、少し待っていただく訳にはいきませんか?」

「うん、いいよーしっかり考えて決めてね」

(いいのかい!てっきり今すぐ決めろって言われるかと思ったよ!)

ただ、すぐ決めろとは言われなかったが、決めるまでここから帰してもらえない可能性はある。

まだ気を抜くには早いと思い直していると、

「さて、今日はもう遅いし家に帰ってゆっくり考えるといいよー。なんなら家まで送っていこうか?」

だからそれでいいのかとじと目で彼女を見る。

「僕がいうのもなんですけど、僕が今日あったことを家族や友人に話したり、

逃げ出したりするとか考えないんですか?」

「んー?だってこんな話、話したところで誰も信じないでしょ?君が変な人にみられて終わりだよ。

逃げ出すっていったってただの学生がいける範囲なんてたかが知れてる。魔術を使えば一発で見つけられるしねー」

(なるほど、このまま見逃してくれるってことはないわけか。

まぁ逃げ出すつもりなんてこれっぽっちもないからいいのだけど)

「わかりました。それでは今日は帰らせていただきます。一応森を出るまででいいのでついてきていただけませんか?」

「はいはい、お安い御用だよー。あ、それと携帯もってる? 連絡手段は持っておいたほうが楽だから」

「もってますよ。それにしても魔法使いも携帯電話とか持ってるんですね……」

魔法使いも普通に現代の機器を使っているのだが、先入観からなかなかその光景を想像することができなかった。

「うんうん、便利なものは便利だからねー。魔術って融通きかないところがあるし。使えるものは普通に使うよー」

鞄から携帯を出し、いじりながら彼女は言う。

「はいこれ私のアドレス。君のも送ってもらってもいいかな?」

「わかりました、いま送ります」

こちらに向けられた携帯に自分の携帯を向け、アドレスを交換する。

「受信完了っと。よろしくね、市川悠斗君」

「こちらこそよろしくお願いします。皆川雫みながわしずくさん」

そういって、二人は握手を交わした。



◆◆◆◆◆



 あの後森の外まで送ってもらい、急いで家に帰った。

そとは既に暗くなってきていた。予想以上に森の中に長居していたらしい。

家に着いたときには、既に家族が全員帰ってきており、自分が一番最後だった。

「あらおかえり。遅かったじゃない、なにかあったの?」

家に入るとすぐに母親が迎えてくれた。

「ちょっと学校でね。先生に少し用事を頼まれてそれをしていたら遅くなった」

さすがに怪物に襲われてましたとはいえず、さらっと嘘をつく。

あらそう、と母親は納得し夕食の準備にもどる。

そのまま自室に行き、荷物をベットの上に置いた後、今日の事を整理する。

(学校から帰る途中に怪物に襲われ、自称魔法使いに弟子にならないかと誘われる。

我ながらなんて胡散臭い話なんだ……)

自らの身に起こった事とはいえ、余りの非現実ぶりに頭を抱えてしまう。

魔法使いになる、ということはまたあの怪物のようなものと出くわすこともあるのだろう。

いままで通りの日々は送れなくなるに違いない。

でも……と、思う。

確かに今の日常に文句はない。しかし満足しているわけでもなかった。

年相応の好奇心は持ち合わせているし、刺激がほしいとも思っている。

あの怪物に再び出くわすかもしれないという恐怖がないわけではなかったが、

それ以上に「魔法」に魅了されていた。

(考えてみるとは言ったけど、答えはもう決まっているんだよな)

自分を救ってくれた女性……皆川さんも悪い人ではなさそうだったし。

あれで全部演技だったとかならお手上げだが。

(まぁ決断をするのは明日説明を受けてからでもいいか。今日は疲れたし夕飯を食べたらさっさと寝よう……)

アドレスを交換した後、今日一日考えて明日の放課後再び会うという約束をした。

そのときにある程度魔法について教えてくれるらしい。

一般人に教えちゃ駄目なのではないかと聞いたが、今更一つや二つ教えたところで大差はないとのこと。

まぁ弟子になるのを断った場合今日のこともろとも記憶を消されるらしいので構わないのかもしれないが。

簡単に自分の中で結論を出した悠斗は、明日からの日々に少しの不安と大きな期待を抱きつつ、今日を終えた。

こうして、市川悠斗は新しい世界に足を踏み入れる決心をした……。



◆◆◆◆◆



 翌日、期待の余りあまり寝付けなかった悠斗は寝坊し、学校に向かって全速力で走っていた。

汗を流しながら坂を駆け上っているとポケットの中で携帯が振動し、メールが届いたことを知らせてきた。

走りながらメールの内容を確認する。

『やーやー。朝から全速力ダッシュとは君も大変だねー。

昨日は期待の余り眠れなかったのかな?

後、今日の放課後のこと忘れないでねー。

昨日の場所でまっているから』

明らかにどこかで自分を見ているのだろう。

暗に逃げようとしても無駄だと言っているのかもしれない。

(そんなこと頼まれたってしないっていうのに)

悠斗は既に魔法に興味津々だったため、今更この件から逃げるという選択肢はまったくなかった。

むしろ放課後が待ち遠しくて仕方がない。

はやる胸を押さえつつ、急いで学校に向かった。


 「お前がこんなにギリギリにくるなんて珍しいじゃないか。なにかあったのか?」

授業開始三分前というギリギリの時間に教室についた悠斗に、怪訝そうに浩太が質問する。

「いやちょっと昨日なかなか寝付けなくてさ……。珍しく寝坊してしまって……」

深呼吸をしながら息を整えつつ、友の質問に答える。

浩太はまだなにか言いたいようだったが、授業開始のチャイムが鳴り先生が入ってきたため仕方なく自分の席に戻る。

授業が始まると悠斗は机に突っ伏し、先生の話を聞き流していた。


 今日は終業式のため、碌な授業もなく午前中のうちに放課となった。

大掃除を終わらせ、悠斗は友人達と別れ足早に帰路につく。

急いで家に帰ると誰もいなく、鞄だけ置いてそのまま昨日の森まで走る。

相変わらず外は暑かったが、未知の世界に対する興奮が勝りほとんど気にならなかった。

昨日怪物に襲われたところにつくと、そこはもうすでに片付いており、違和感を感じることはなかった。

切り倒された木々も元に戻っており、これも魔法を使ったのだろうと推測する。

木々が元に戻っていないところには、小さな机のようなものが置いてあり、そこに彼女は座っていた。

「やぁきたねー。それじゃあ早速話しを始めようかー」

「よろしくお願いします」

雫は、悠斗を机に座らせると鞄からお菓子とお茶を出し彼に勧めた。

どうも、といって悠斗はそれを受け取り、まじめな顔で彼女を見る。

「っていってもそんな難しい話じゃないんだけどねー。私は、まぁ言わなくてもわかると思うけど魔法使いなのさー。

そして、私が一応、嫌々所属している組織の余計な規則として弟子を取らないといけないんだ。

弟子にする人物は自分で決められるのだけど、期日中に弟子がみつからなかった場合強制的に組織が人を決めて弟子にさせる。

弟子なんて持っても面倒くさいだけだけど、それが組織が決めたような人物ならなおさら面倒くさいからねー。

それがいやで弟子を探しにきたの」

紅茶を一口のみ、雫は話を進める。

「とはいえそんなに積極的にもなれず、ふらふらとこの周辺を散歩しているときに昨日のあの黒いやつを見つけた。

アレは黒獣鬼といて……まぁみたまんまの名前でしょー?ほっとくのもまずいと思って相手をしてたんだけど……」

少し苦笑いをしつつ、虚ろな目で空を見上げる雫。

「だらだらモードだったのに加え、この程度の相手なら大丈夫だろうとなめていたら見事に反撃にあってねー……。

飛んできた衝撃波にとっさに防御したんだけど吹き飛ばされて気を失っちゃったのさー」

その結果、悠斗はあの空間に入ることができ、怪物に追われる羽目になった、ということらしい。

「まぁそれで、ちょうどいいから君を弟子にしようと思ったわけだよ」

「どういうわけか知らないですけど、僕は魔法の知識とかまったくないですし、その組織が紹介する人より劣ると思うんですが」

「知識がないのは問題ないよー。それはこれから教えるから。それに君は組織が紹介してくるような人達より何倍も面白そうだからね」

雫はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら紅茶を啜る。

悠斗は観念したように、苦笑し次の質問に移った。

「まぁそちらの事情はわかりました。次は具体的に弟子になったら何をするのか聞きたいのですが」

これが一番の問題だった。ここで無理難題を言われるようではさすがに弟子になることをためらってしまう。

まぁ弟子になった後に無理難題を言われるのかもしれないが。

「なぁにそんなに難しいことではないさー。魔法や魔術を学んでもらい、

一人前の魔法使いになって魔法の世界に貢献してもらおうということでできた規則だからね。

だから無理難題は言わないし、魔法が嫌いになってしまうような事もしない。まぁそれなりに厳しいこともあるけどねー」

相変わらずこちらの考えていることがわかっているかのような回答だった。

この規則というのは、次世代を育てるために作られたそれなりにしっかりとしたものなのだろうと悠斗は自分で結論をつける。

それならば、ある程度安全は保障されているとみて間違いないかもしれない。魔法使いに恨みを持つようになっては本末転倒だろうし。

その規則というのが雫の嘘である可能性も考えたが、彼女のことを見る限りそんな回りくどいことをするようには思えない。


「さて、それじゃぁ昨日の質問の答えを聞こうか。君は私の弟子になって魔法使いになるかい?」


迷いはある。不安もある。だがしかし、答えはもう決まっていた。


「わかりました、僕をあなたの弟子にしてください。これからよろしくお願いします」


うんうんとうなずきながら、彼女はとても愉快そうな笑みを浮かべ悠斗を見ていた。


「よしじゃぁこれから君は私の弟子だ。見習い魔法使いとして、精進してくれたまえー」


こうして、市川悠斗は見習い魔法使いとなった。


これが、すべての始まりだった。






なるべく1日1回のペースで投稿していきたいと思います。

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