幻界と幻葬
「間に合わなかったかー。それにしても広域魔術結界とかまた面倒な術式を……」
雫は、愚痴をこぼしながら薄暗くなった空を飛び悠斗達を探していた。
「それにしても閉じ込めてどうするつもりなのかな?
まさか真っ向から向かって倒せるとは思ってないだろうなー。ねぇ荒木?」
風の術式を解除し、虚空を睨み付ける雫。
「そのまさかだ。皆川」
空間が揺らめき、荒木が姿を現す。
「まったく……、悠斗君達とさっさと合流したいんだが……。
それで荒木、真っ向から勝負して本当に私を倒せるとでも?
私の知るお前は、身の程を弁えられないほどの馬鹿ではなかったと思うが」
自然と間延びした口調が止まり、凛とした空気をまとう。
「確かに貴様は強い。だがな、今の私は貴様以上だ。
この空間内なら、協会や騎士団の連中に邪魔されることもないしな」
「そのための結界か……。とはいえあいつ等の邪魔がなければ私を倒せると?
すごい自信だな荒木。だが最初から本体で私の前に現れたのは間違いだったな!」
雫の周りに魔力が集まり、世界を塗りつぶす。
「幻界!……ッ」
だが、魔法は発動せずに打ち砕かれる。
「だからいったはずだ。私は貴様以上だと」
雫の魔法は不発下にもかかわらず世界は魔力で塗りつぶされていた。
「……馬鹿なッ! 幻界だと!? なぜお前が使える!?」
「忘れたのか? 幻界は誰でも使える。自らの意識を概念として紡ぐことができ、
世界の概念を塗りつぶすだけの魔力があればな。そして今の私にはそれが可能だ」
暗く淀んだ世界をまとい、荒木が雫に立ちふさがる。
「……お前、いったい何をした?」
だが、雫は一瞬で動揺を打ち消し冷静に目の前の疑問を荒木に問う。
「あれだけの魔獣を従え、広域魔術結界を維持し、更に幻界の発動だと?
確かにそれを個人の力でやってるなら私以上だろう。だが、今のお前は明らかに異常だ。
そもそも最初からそれだけの才能を持ってるなら禁忌に手を染める必要なんてないからな」
そして、問いかけながら再び魔力を集中する。
「貴様に説明する必要はない。……また幻界か、一度打ち砕かれた以上、貴様の概念では私の概念を塗りつぶすことはできん」
雫に集まる魔力を察知しながらも、一度上回った概念である異常問題ないと決断する。
「さすがに幻界がくるとは思ってなかったからね。本気の私の幻界はあの比ではないよ?
でもまぁ、他人の幻界に自分の幻界を上書きするのは普通に幻界を使うより辛いものがあるからな」
展開された「雫の世界」が凝縮され、幻界とは比べ物にならないほど強力な概念の塊となる。
「だから、幻界の次をみせてあげよう」
凝縮された「雫の世界」――幻界は、雫の手もとに集まり炎の弓となる。
「――幻葬」
炎の矢が放たれ荒木の幻界を焼き尽くす。
「対幻界用魔法、幻葬。私の概念を凝縮した矢だからね、お前の幻界程度じゃ耐え切れはしない」
暗く広がる世界は燃え尽き、結界で覆われた薄暗い空が広がる。
「やはり一筋縄ではいかないようだな……」
そう呟くと、再び空間が揺らめき荒木が姿を消す。
荒木が消えたと同時にその場に座り込む雫。
「……さすがに幻界と幻葬を連続使用とか魔力の消費が半端ないなぁ。
少し休んでからじゃないと悠斗君達と合流しても仕方なさそうだ」
もう少しだけ頑張ってくれよ、と呟きながら雫は目を閉じしばし休憩をとることにした。
◆◆◆◆◆
結界が張られてすぐに、荒木は姿を消してしまい出口を探し歩くことにした二人だが、
所々に現れる魔獣に警戒し、なかなか探索が進まなかった。
「だぁぁぁぁ!! 出口みつかんねぇ!!」
「ちょっと浩太そんなに大声出したら魔獣に気づかれるだろ……」
先ほどの戦闘の疲労ものこっていたため、無人となったビルで一休みをすることにした。
「なんだかなー……。ついさっきまで普通の学生やってたはずなのになんでこんなことになってるんだ?」
「いやたぶんというか間違いなく僕のせいだと思う……。巻き込んじゃってごめんね」
浩太の問いに、つい最近自分もまったく同じことを考えた気がすると思いつつ返答する。
「気にすんな、友達だからな。何でも相談しろといっただろ?これくらいは別に問題ない……といいたいところだが」
窓の外を見てうんざりといった顔で浩太がぼやく。
「さすがにこれはキツイな……!!!」
ドンっという地響きとともに、ビルの壁が吹き飛ぶ。
「くそっ逃げるぞ悠斗!」
「言われなくても!」
即座に魔術式を展開し、雷撃を突っ込んできた魔獣の眉間にぶちこみ逃げ出す。
「これ本当どうするんだ? さすがにいつまでもこんなこと続けてられないぜ?」
なんとか魔獣を巻き、家と家の隙間に隠れる二人。
「うーん……。これだけの魔術だし、師匠が気づかないはずもないからもう少し逃げればなんとか……」
おそらく、出口が見つからなかったとしても雫がこちらに合流しに来るだろうと踏む悠斗。
「師匠……あの女の人か? なるほど、道理で変な雰囲気をまとってるわけだぜ」
「そういえばさっきもそんなこといってたね……。そういうのわかるの?」
レストランで雫にあったときも、魔獣戦のときも敏感に気配を察知していたことから疑問に思い質問する。
「んー……まぁなんというかわかっちまうんだよ、なんとなくだけどな。
……例えばいま上からなんか迫ってたりとかも」
悠斗は、はっとして上を向き魔術式を展開し上空から向かってくる魔獣に巨大な炎柱を叩き込む。
「気づいてるなら早く言ってよ!?」
「いやーすまんすまん、まぁ無事だったんだからいいじゃないか」
「いいわけないだろ!?」
そんな馬鹿をやってる間に、空に放った炎柱を目印に続々と魔獣が集まってくる。
「や……やばいよ、これ絶対やばいよねぇ!?」
狼狽する悠斗にひきつった笑みを浮かべる浩太。
「お前魔法使いなんだろ!? だったらなんとかしろよ!」
「魔法使いじゃなくて魔術師見習い! それにこんなの無理に決まってるだろ!」
「お前の事情なんて知らん! このままじゃ二人まとめて死ぬぞ!」
「そんなの言われなくてもわかってるよこのノータリン!」
「てめぇ! 俺の成績が赤点ばっかりだからってよくも!」
命の危機と知りつつも、馬鹿を繰り広げているうちに、
魔獣達の攻撃圏内に二人が入ったという時、あたりに熱風が吹き荒れた
「……君達、緊張感とかないの? 割と絶体絶命だったよね今の状況?」
炎をともなった風が、集まってきていた魔獣達を焼き払う。
「心配して急いで駆けつけてきたっていうのになんかとっても骨折り損な気分だよ……」
そして、炎がしずまった先には、ため息をつきながらジト目でこちらを睨む雫がいた。
ちょっと時間が空きましたが更新です。
活動報告にも簡単にかきましたが、9月末までは更新速度が落ちます。
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