マサムネVSマグロクの熱い戦いはまだまだ続く!
砂煙がゆっくりと晴れていく。
割れた闘技場の床を挟み、二人はなお向かい合っていた。
マグロクは肩を回しながら、小さく笑う。
マグロク:「むぅ……。」
マグロク:「なかなか一筋縄ではいかないな……。」
マサムネは木刀を軽く肩に乗せたまま、にやりと笑い返す。
マサムネ:「そっちこそ?」
マサムネ:「ただ力を見せつけたいだけなら、わざわざ地面なんて殴らねぇ。」
マサムネ:「俺を揺さぶろうとしたんだろ?」
マグロクは口元を緩める。
マグロク:「……はは。」
マグロク:「読まれてたか。」
マサムネ:「少しな。」
マグロク:「面白い。」
戦棍を肩へ担ぐ。
マグロク:「最近は俺を見ただけで腰を抜かす奴ばかりだった。」
マグロク:「だが、お前は違う。」
マサムネ:「強い相手を前に逃げるくらいなら、剣なんて握ってねぇよ。」
二人の間に、再び静かな間が流れる。
観客席も、その空気に飲まれて声を失っていた。
:ロインは小さく呟く。
:ロイン「まだ一度も武器をぶつけ合ってないのに……。」
:ロイン「もう試合が始まってる。」
デイルも腕を組み、二人を見据える。
デイル:(互いに相手の思考を探っている。)
デイル:(本当の一手は、まだ誰も切っていない。)
闘技場には、次の瞬間に均衡が崩れる予感だけが満ちていた。
闘技場に静寂が流れる。
誰もが次の一手を待っていた。
その瞬間――
…ピッ。
空気がわずかに震えた。
観客A:「……え?」
マサムネの姿が、
消えた。
「どこだ!?」
「見えない!」
という声が観客席から上がる。
次の瞬間。
マグロクの背後に、木刀を構えたマサムネが立っていた。
砂煙すらほとんど巻き上げない移動。
観客席はどよめく。
観客B:「速っ!!」
観客C:「いつ移動した!?」
:ロインは目を見開く。
:ロイン「縮地……!」
一方、背後を取られたマグロクは慌てるどころか、ゆっくりと口元を緩めた。
マグロク:「なるほど……。」
肩越しに振り返る。
マグロク:「スピードタイプか!」
マサムネは構えを崩さない。
マサムネ:「そう決めつけるのは早いぜ。」
その一言に、マグロクの目が細くなる。
少し離れた場所では、デイルが冷静に分析していた。
デイル:(速い。)
デイル:(だが……。)
デイル:("見えなかった"のと"瞬間移動"は違う。)
デイルの視線は、マサムネの足元へ向く。
デイル:(今のは、移動技術か。)
デイル:(それとも……。)
デイルは答えを探るように、二人の次の動きを見逃さないよう見据えた。
マグロクの背後を取った、その一瞬。
マサムネは木刀を強く握る。
マサムネ:「どりぁ!!」
足に力を込める。
マサムネ:「香車・本道!」
ドンッ!!
一直線。
迷いなく。
矢のような勢いでマグロクへ突撃する。
---
BROWN:「また会いましたねぇぇぇ!!」
BROWN:「マサムネの能力――『本将棋』にある『本道』とはぁ!」
画面のような演出と共に、BROWNが割り込む。
BROWN:「途中で中断することができず!」
BROWN:「方向転換もできません!」
画面には一直線に伸びる香車の軌跡。
BROWN:「またぁ!!」
BROWN:「距離も決まっているので変えることができません!!」
香車の進路は一本だけ。
止まることも、
曲がることも、
距離を縮めることも伸ばすこともできない。
BROWN:「しかしぃ!!」
香車が燃え上がるような演出。
BROWN:「それらを生贄にすることによってぇ!!」
BROWN:「圧倒的にすごくする!!」
BROWN:「普通のよりぃ!!」
BROWN:「勢いや!!」
BROWN:「スピードなどをぉぉ!!」
BROWN:「強化する能力でぇぇぇす!!」
最後に親指を立てる。
BROWN:「それでは!!」
---
解説が終わると同時に、
現実では。
マサムネはまるで砲弾のような速度で一直線に突き進んでいた。
ズガァァァァァッ!!
闘技場の石畳が一直線に砕け散る。
観客A:「速ぇぇぇ!!」
観客B:「止まらない!!」
観客C:「あれ、避けられるのか!?」
マグロクの瞳が鋭く細められる。
マグロク:「……!」
彼は理解した。
(曲がれない。)
(止まれない。)
(だが――。)
(真正面から受けるには、速すぎる!)
両者の距離は、一瞬でゼロへと縮まった。
ズガァァァァァッ!!
一直線。
ただひたすら一直線。
香車・本道の軌道は、一切ぶれない。
マグロクの目前まで迫る。
その瞬間――
マグロクの表情から余裕が消えた。
マグロク:「これは……。」
足に力を込める。
マグロク:「嘘はなしだな!」
ギリッ。
ほんのわずかに体をひねる。
ヒュンッ!!
木刀が鼻先をかすめる。
風圧だけで前髪が大きく揺れた。
紙一重。
本当に、あと数センチ。
そのままマサムネは止まることなく前方へ駆け抜ける。
ドォォォン!!
規定距離まで進んだところでようやく勢いが収まり、石畳に深い一本の溝が刻まれた。
観客席は総立ちになる。
観客A:「避けたぁぁぁ!!」
観客B:「いや、あれ避ける方がおかしい!!」
観客C:「どっちも化け物だ!!」
マグロクは鼻先を指でなぞる。
そこには浅い一本の切り傷。
血が一滴だけ流れた。
マグロクはその血を見て笑う。
マグロク:「……。」
マグロク:「久しぶりだ。」
マグロク:「初撃で血を見たのは。」
一方、マサムネは規定距離でぴたりと止まり、ゆっくり振り返る。
マサムネ:「避けたか。」
木刀を肩へ担ぐ。
マサムネ:「やっぱり前回優勝者だ。」
口元が自然と上がる。
マサムネ:「面白ぇ。」
:ロインは観客席で思わず息を吐いた。
:ロイン「……危なかった。」
:ロイン「どっちも、本気になり始めてる。」
デイルも静かに目を細める。
デイル:(あの技。)
デイル:(軌道は単純。)
デイル:(だが、一度走り出したら止まらない。)
デイル:(回避できなければ終わる……危険な技だ。)
闘技場には、先ほどまで以上の熱気が満ち始めていた。
マサムネは木刀を肩へ担ぎ直し、ゆっくりとマグロクへ向き直る。
闘技場には一本の深い溝。
そして、マグロクの鼻先には薄い傷。
マサムネは笑みを浮かべた。
マサムネ:「これで分かった。」
マグロク:「……。」
マサムネ:「お前は……。」
木刀の切っ先をゆっくり向ける。
マサムネ:「完全なパワータイプにあらず。」
一歩踏み出す。
マサムネ:「スピード四割。」
マサムネ:「パワー六割。」
マサムネ:「ってとこか?」
観客席がざわつく。
観客A:「戦いながら分析してるのか……。」
観客B:「一撃交えただけで?」
マグロクは少し驚いたように目を見開き――
すぐに豪快に笑った。
マグロク:「はっはっはっ!」
マグロク:「面白ぇな、お前!」
戦棍を肩へ担ぐ。
マグロク:「確かに俺は怪力だけじゃねぇ。」
マグロク:「力だけなら、さっきの一撃は避けられなかった。」
肩を鳴らす。
マグロク:「その分析。」
マグロク:「半分正解だ。」
マサムネ:「半分?」
マグロクはニヤリと笑う。
マグロク:「残り半分は。」
マグロク:「この試合の中で教えてやる。」
その言葉と同時に。
ドンッ!!
今度は地面を割らず、
一気にマサムネとの距離を詰めるように踏み込んだ。
観客席。
:ロイン「……!」
:ロイン「速い!」
デイルも目を細める。
デイル:(やはり。)
デイル:(怪力だけじゃない。)
デイル:("速さ"も武器にしている。)
ドンッ!!
マグロクが地面を蹴る。
その巨体からは想像できないほど鋭い踏み込み。
一瞬で間合いを詰めながら、口を開く。
マグロク:「教えてやろう。」
戦棍を肩から下ろす。
マグロク:「パワーは……。」
振りかぶる。
マグロク:「速さと!」
踏み込みがさらに加速する。
マグロク:「筋力と!」
腕の筋肉が膨れ上がる。
マグロク:「重さ!!」
ブォォォォン!!
戦棍が空気を裂き、轟音とともに振り下ろされる。
その一撃には、
体重。
筋力。
そして加速。
三つすべてが乗せられていた。
観客席。
観客A:「来たぁぁぁ!!」
観客B:「マグロクの本気の一撃だ!!」
観客C:「受けるなぁぁ!!」
:ロインは思わず身を乗り出す。
:ロイン「マサムネ!!」
デイルも冷静にその軌道を追う。
デイル:(なるほど。)
デイル:(単純な怪力ではない。)
デイル:(質量を最大限に活かす戦い方。)
闘技場の空気そのものが震えるほどの圧力が、マサムネへ襲いかかった。
マグロクの戦棍が唸りを上げる。
ゴォォォォッ!!
空気が押し潰される。
マサムネは一瞬で理解した。
マサムネ:(これは受けたらやべぇ!)
木刀では受け切れない。
受けても吹き飛ばされる。
その瞬間、視線がマグロクの足運びを捉える。
マサムネ:(しかし……。)
マグロクはただ振っているだけではない。
マサムネ:(避けたとこを狙うような立ち位置にいる!)
右へ避けても。
左へ避けても。
追撃が来る。
マサムネ:(どうするか……。)
戦棍はもう目前。
マサムネ:(時間がねぇ!)
瞳が鋭く光る。
マサムネ:「使うしか……!」
木刀を握る手に力が入る。
マサムネ:「角行!!」
その瞬間。
マサムネの体が一直線ではなく――
斜めへ鋭く走る。
将棋の角行のように、
対角線上を一気に駆け抜ける。
シュッ!!
マグロクの戦棍は紙一重で空を切る。
ドゴォォォン!!
振り下ろされた一撃で闘技場の床が砕け散り、土煙が舞い上がる。
観客席は騒然となる。
観客A:「また消えた!?」
観客B:「いや、今度は斜めだ!」
観客C:「さっきの技と違うぞ!」
:ロインは目を見開く。
:ロイン「今のは……香車じゃない!」
デイルも静かに分析する。
デイル:(角行……。)
デイル:(移動方向を将棋の駒で変えているのか。)
デイル:(一本道だけではない……。)
土煙の向こう。
マサムネは既にマグロクの斜め後方へ抜けていた。
木刀を構え直し、口元に笑みを浮かべる。
マサムネ:「危ねぇ危ねぇ。」
マグロクも振り返りながら笑う。
マグロク:「そう来るか……!」
互いの技が少しずつ明らかになり、試合はさらに熱を帯びていく。
土煙がゆっくりと晴れていく。
二人は再び距離を取り、向かい合った。
マサムネは木刀を肩へ乗せ、静かに息を整える。
マサムネ:「さて……。」
視線はマグロクから離さない。
マサムネ:「どうするか……。」
先ほどの一撃を思い返す。
マサムネ:(俺……。)
マサムネ:(毎回パワーが不足してんな……。)
香車でも。
角行でも。
当てられれば強い。
しかし、決定打にはまだ足りない。
一方。
マグロクも戦棍を構え直し、小さく息を吐いた。
マグロク:「……。」
マグロク:「速すぎる……。」
マグロク:「追いつけないな……。」
観客席がどよめく。
観客A:「前回優勝者が追いつけないって言ったぞ……。」
観客B:「あの新人、本当に何者なんだ。」
:ロインは腕を組みながら二人を見比べる。
:ロイン「面白い。」
:ロイン「マサムネは火力不足を気にしてる。」
:ロイン「マグロクは速度不足を気にしてる。」
:ロイン「お互い、相手にないものを持ってるのね。」
デイルも静かに頷く。
デイル:(片方は速度。)
デイル:(片方は威力。)
デイル:(勝負を決めるのは、その差をどう埋めるか……。)
闘技場には再び静寂が訪れる。
だがその静寂は、次の激突までのほんのわずかな時間に過ぎなかった。
闘技場。
二人は互いを見据えたまま動かない。
風だけが静かに吹き抜ける。
マサムネは木刀を握り直す。
マグロクは戦棍を肩へ担ぎ直す。
一瞬――
二人の思考が、まるで重なった。
マサムネの心の声:
(このままじゃ決め手がない。)
(なら――)
マグロクの心の声:
(このまま追いかけても捕まえられん。)
(なら――)
そして。
二人は全く同じ結論へ辿り着く。
マサムネ&マグロクの心の声:
「しのぎを削る!」
次の瞬間。
ドンッ!!
ダンッ!!
二人が同時に地面を蹴る。
観客席から悲鳴にも似た歓声が上がる。
観客A:「同時だ!!」
観客B:「真正面から行く気か!?」
:ロインは思わず立ち上がる。
:ロイン「来る……!」
デイルも息を呑む。
デイル:(互いに小細工を捨てた。)
デイル:(真っ向勝負……!)
マサムネは木刀を構え。
マグロクは戦棍を振りかぶる。
二人の距離が、一気に縮まっていく。
そして――
あと一歩で武器がぶつかる、その瞬間だった。
あと一歩。
互いの間合いへ踏み込む。
マグロクの筋肉が一気に膨れ上がる。
マグロク:「墳!!」
ブォォォォン!!
戦棍が唸りを上げ、真正面から振り抜かれる。
その一撃には、一切の迷いがない。
対するマサムネも、一歩も引かない。
木刀を握る手に力がこもる。
マサムネ:「どりゃあ!!」
ガァァァン!!!
木刀と戦棍が真正面から激突した。
衝撃波が闘技場全体へ走る。
ビリビリッ!!
観客席の最前列では、思わず顔を覆う者まで現れる。
観客A:「ぶつかったぁぁぁ!!」
観客B:「木刀で受けた!?」
観客C:「折れるぞ!!」
しかし――
木刀は折れない。
マサムネは歯を食いしばり、両足で地面を踏み締める。
ギギギギ……。
押される。
だが、踏みとどまる。
マグロクも目を見開いた。
マグロク:「木刀で……!」
マグロク:「受け止めるか!!」
マサムネ:「ぐっ……!」
腕は震える。
それでも木刀は離さない。
闘技場の石畳が、二人の足元から少しずつ砕けていく。
:ロインは息を呑む。
:ロイン「真正面から力比べ……!」
デイルも静かに目を細める。
デイル:(速度と力。)
デイル:(今は、その両方を捨てて……。)
デイル:(純粋な"気迫"で押し合っている。)
観客たちは、誰一人として目を逸らせなかった。
ギギギギギ……。
木刀と戦棍がぶつかり合い、火花が散る。
マサムネは全身に力を込める。
両足は石畳へ深くめり込み、
腕は震え続ける。
対するマグロクは、一歩も引かない。
いや――
ほんのわずかに。
ミシッ。
マサムネの体が後ろへ押された。
観客A:「押した!」
観客B:「マグロクが力勝ちしてる!」
観客C:「やっぱり純粋な力じゃ敵わねぇか!」
ほんの数センチ。
それでも確実に、マグロクが前へ出る。
マグロクは歯を食いしばりながら言う。
マグロク:「力じゃ……!」
マグロク:「俺に分がある!!」
マサムネ:「……!」
マサムネも押し返そうと踏み込む。
しかし、押し返せない。
マサムネ:(やっぱり……。)
マサムネ:(真正面の押し合いじゃ……。)
マサムネ:(勝てねぇ……!)
:ロインは拳を握る。
:ロイン「無理に張り合わないで……。」
デイルも冷静に分析する。
デイル:(差は僅か。)
デイル:(だが、その僅かな差が積み重なれば……。)
ドリリリリッ!
マサムネの靴底が石畳を削り始めた。
押されている。
しかし、その瞳には焦りではなく、
何かを考える光が宿っていた。
ギギギギギ……!
戦棍がじわじわと押し込んでくる。
マサムネは後退しながらも、その圧力を全身で感じ取っていた。
そして――
口元がわずかに上がる。
マサムネ:「……きた。」
マグロク:「?」
マサムネ:「お前……。」
戦棍へ視線を向ける。
マサムネ:「力にすべてを乗せたな?」
マグロクの瞳が一瞬だけ揺れる。
次の瞬間。
マサムネは押し返そうとはしなかった。
全身から力を抜き――
グニャリ。
まるで蛇のように体をうねらせる。
押される力を利用し、
戦棍の軌道を紙一重で滑るようにかわす。
スッ。
マグロク:「……!」
巨体の懐へ、一気に潜り込む。
観客席がどよめく。
観客A:「懐に入った!」
観客B:「あの一撃の内側へ!?」
観客C:「普通なら粉々になる距離だぞ!」
:ロインは思わず叫ぶ。
:ロイン「うまい!」
デイルも目を見開く。
デイル:(押し返さない。)
デイル:(相手の力を利用して、最短距離で懐へ……。)
デイル:(なるほど。)
デイル:(これが剣士の間合いか。)
マグロクは戦棍を振り抜いた直後。
力を乗せ切ったため、すぐには軌道を戻せない。
その一瞬。
マサムネは完全に、マグロクの懐へ入り込んでいた。
マグロクの懐。
戦棍は大きく振り抜かれ、すぐには戻せない。
その一瞬の隙を、マサムネは逃さなかった。
マサムネの目が鋭く光る。
マサムネ:「いくぞ!!」
木刀を低く構える。
マサムネ:「俺の番手だ!!」
一気に踏み込む。
マサムネ:「歩兵――!!」
ドンッ!!
一直線の突き。
さらに止まらない。
マサムネ:「四連!!」
ドドンッ!!
一本目。
胸元へ。
ガンッ!!
二本目。
肩口へ。
ガガンッ!!
三本目。
脇腹へ。
ドォンッ!!
四本目。
胴へ向けて、渾身の一撃。
一本道の突進を、四度連続で繰り出す。
観客席が揺れる。
観客A:「速ぇぇぇ!!」
観客B:「四連撃!?」
観客C:「止まらねぇ!!」
:ロインは拳を握る。
:ロイン「決まれ……!」
デイルも息を呑む。
デイル:(歩兵を連続使用……。)
デイル:(一撃ではなく、畳み掛ける型か。)
マグロクは歯を食いしばる。
マグロク:「ぐっ……!!」
懐に入られた今、
巨大な戦棍は十分に振るえない。
巨体が木刀の連撃を受け、大きく揺らいだ。
闘技場中の視線が、二人の攻防へ釘付けになっていた。




