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人生は困難の連続である



「ぎゃーーっ!!こえぇーーっ!」


 俺達は今、後方10メートル付近から追っかけてくる恐ろしい怪物――魔物から逃げている。


 森蛇と言われるでっかい蛇や、剣狼とかいう名前そのまんまの剣が生えた狼……元いた世界じゃ絶対ありえない生物だ。


「いや、あんぐらいの蛇は案外いるのか……?」


 確かアナコンダとかゆうバケモンがいたはずだが――


 「レンカっ!遠距離型の魔術武器(マジックウェポン)を起動しろっ」

「あいあいさー!」


 俺がどうでもいいことに思考を割いている間、レンカと愛斗は後方の魔物相手に激戦を繰り広げていた。


 ――魔術武器(マジックウェポン)――

 この世界には当たり前に存在する魔力というものがある。

 魔力は生物ならどんな者でも持っており、空気中の魔因子というものを生物が吸収することで体内で生成されるらしい。

 電力などいろんなエネルギーにも変換され、魔力保有量が多い者は重宝されるという。


 そんな魔力を使い、超常的な力を発現させるのが魔術というものである。

 しかし、その超常的力を気軽に行使することは不可能であり、魔術を発動させるには複雑な術式を完全に理解し、強度、発動場所、などの演算を一から行わなければならない。

 そこで人類が科学力に物を言わせて発明したのが、魔術武器(マジックウェポン)

 複雑な術式から、魔力演算まで全てを自動化し、使い手が魔力を流すだけで、気軽に魔術を行使できるようになった。

 マジックウェポンには、いろんな種類があり、剣に銃、鎌、斧、杖、本などなど、ボールペンとかおおよそ武器とはいえない物まである。

 魔術を上乗せした剣は魔物の首すら、簡単に刎ねられる――と、血走った目で捲し立てる瑠夏さんは少し怖かった。

「やばいかもー!アイツら全然効いてないよー!」

「くっ、やはりこの体じゃきびしいかっ!」


 とはいえ、今の俺達は園児に等しい肉体であり、いくら、マジックウェポンなるものがあったとしても、バケモン相手に善戦できるかといえば、そうでもない。


 レンカと愛斗が銃型のマジックウェポンを魔物どもに向け、ぶっ放しているが、怯みこそするが依然として追いかけてくる。

 

「わっわたしの……マジックウェポンで2人を強化……するっ!」


 瑠夏がそう言って、短い杖を上に振り上げると、レンカと愛斗の体を光が覆い始め――


「すごいっ!力が溢れてくるよっ!!」

「なるほど、これが強化魔術か……。実際に受けるのは初めてだが、満たされる気分だな。」


 2人の銃から発射される銃弾の炎がデカくなり、それが顔面に直撃した魔物達はついに追いかける足を止めた。


「よしっ!今のうちに逃げよう!」


 愛斗の言う通りにして、俺達は走ってその場から離れたのだが、うーん……これは俺、お荷物だね。




 その後もなんとか襲いかかってくる魔物達を撃退し、最初の地点から離れた別のセーフティーポイントに辿り着いた。


「はぁー!疲れたーー!魔物達こわいねー!死ぬかと思ったよー!」

「なんで、そんな元気なんだい?君は」

「すっ……すごかった!!ファンタジーを生きてるって感じだよ……!」

「君もか……。」


 疲れ切っている愛斗に反して、魔物達との激戦後だと言うのに元気いっぱいの女性陣。

 そして――


「…………肩でも揉みましょうか?」


 ほぼ何もせず、超肩身の狭い俺。

 だって仕方ないじゃん。アイテムなんも持ってないんだから。


「どーしたの?カルラ!なんか元気ないよっ!」

「あぁ……、、気にしなくても大丈夫だ。カルラ、僕達は迷惑とは思っていないよ。」

「そっ……そうだよ。おっ落ち込まないで……。」


 やめください!

 その優しさが逆に沁みるんです!


「アリガトネ。」

「なんでかたこと?」


 その場で俺達は各々座り、一息ついたところで本題に入る。


「セーフティーポイントを出たところで、魔物に出会したということは、まずここはダンジョン内であると確定したといっていい。」

「よかったー!ダンジョンならここを出たら、現実世界だよ!まぁアタシ達の知ってる現実世界ではないけど!」

「でも……森蛇に剣狼がいた……。やばい……かも。」


 未だ興奮気味の瑠夏さんだが、それでも少し不安気な表情で呟くと、愛斗も頷いてメガネをくいっと上げる。


「そう問題はそこだ。森蛇に剣狼が出てくるダンジョンといえば、どれも高レベルダンジョン。いくら原作知識のある僕達とはいえ、本来立ち入るべきではない場所だ。」

「えー、でもここまでなんとかなったよー!」


 元気満々なカレンがヘアピンをいじりながら言うと、愛斗は首を横に振り、

 

「それは、まだ僕達がボスに出会っていないからだな。森蛇に剣狼……こいつらが出てくるダンジョンの1番厄介なところは、普通なら一定の場所にしかいないはずのボスがエンカウントするところだ。」


 愛斗の言葉に頷きながら、瑠夏が続ける。


「そっ……それに、こっここはゲームの世界だけど、ゲームをしてるわけ……じゃない。現実として存在してるし……レベルもわかんないし、すっステータスも確認できない……魔力量がどれくらいあるかもわからないし、魔力が切れたら死ぬ。たったぶん死んだら終わり……。」

「そっかー、そうだよね。慎重に行かなきゃね!」


 流石に瑠夏の真剣な顔に、少し危機感を感じたのか、あっけらかんとしたカレンの顔に真剣味が帯びる。


 やばい……なんかすげー真面目な会話してるけど、俺だけよくわかってない。

 原作ゲームしてないだけでこうも変わるのか……。


「なぁ、そのマジックウェポンってやつ、余ってない?もし余ってたら、貸して欲しかったり……。」


「あぁすまない。遠距離武器はこれしかないんだ。支援武器はないし……。」

「私もー!」

「わっ……私そもそも持ってない。支援武器もこれしか……。」


「いやぁ、別に遠距離じゃなくてもいいぜぇ、むしろ近接でやり合う方が性に合ってんだ。」


 そう、俺には喧嘩売ってくるヤンキーどもを素手でシバけるほどの実力はあるのさ。

 マジックウェポンさえあれば、魔物の一匹や二匹――――


「その身体で?」

「………。」


 忘れてた。

 愛斗は呆れたように息を吐き、続ける。


「さっき瑠夏が言ったように、僕達は死んだらきっと終わりさ。慎重にと、レンカが言ったばかりだろう。」


「ゴメンナサイ。」


「カルラ、さっきも言ったが、別に僕達は迷惑とは思ってない。気に病む必要もないさ。」


 うぅ……。

 この優しさ泣けてくるぜ。



 

「さぁ、行こうか。」


 休憩を済ませ、俺達は再びダンジョン攻略へと舞い戻り、早速現れた魔物達を撃退する。


「なんだか、魔物達が増えてきている気がする。このままではまずいな。」

「大丈夫っ!アタシがなんとかしちゃうからー!」

「支援は……わっ私に任せて……!」


 レンカ、愛斗による遠距離型のマジックウェポンでの弓チク戦法、それを後方から支える瑠夏。


 瑠夏がひたすら杖を振るい、光を帯びる2人はひたすら銃を魔物達に撃ち続ける。

 倒しこそできないが、動きを止めることはできるため、その隙に逃げる、を繰り返し――


「行きどまりか……。」


 俺達は行きどまりの壁に辿り着いた。


「仕方ない。来た道を引き返すか。」


 愛斗の言う通りに俺達は来た道を引き返し、最初こそ騒がしかった俺達の周りは今、ずいぶんと静寂に包まれている。

 それもそうだろう、なにせもう何時間もダンジョン内を彷徨っているのだから、あの元気だったカレンでさえ、疲れが見え始めていた。


「「「「…………。」」」」


 うーん、何か喋ろうか……。

 なんか気まずい。

 そうだ、マジックウェポンについて聞くことにしよう。


 俺はそう思って口を開きかけた時、前を歩いていた愛斗がいきなり歩みを止める。


 隣を見ると、瑠夏が青ざめた顔をしており、カレンも冷や汗を流し震えていた。

 3人の視線は同時にある場所を向いていて、その視線の先を追うと、炎を纏った騎士のような魔物が立っている。


 すると、前から震えた愛斗の声が、、


「エンカウントボス……焔さんだ。」

「なんて?」


 なんかふざけた名前が聞こえた気がするが、他3人の反応からして本当にやばいやつなのだろう。

 というか、気配からしてなんかやばいってのがわかる気がする。


「こいつは無理だっ逃げるぞっ!!」


 愛斗が声を張り上げ、一斉に俺達はダッシュで後ろに走る。

 俺達が今まで歩いていた洞窟のダンジョンはさながらアリの巣のような場所で枝分かれした通路の先に部屋がある感じだ。

 だから何度も行きどまりの壁に阻まれ、出口を見つけられずにいた。

 そして今、行きどまりの通路から一本道、引き返していた途中の俺達の前に立ち塞がる焔さん。


 それはすなわち、、


「にっ逃げる場所がない!!」


 瑠夏が悲鳴のような声を張り上げる。


「くそっ!!」


 愛斗は焦燥を顔に浮かべ、レンカも顔を引き攣らせていた。


 幸いなことに、焔さんはなんか歩きながらジリジリと近づいてくるタイプで足は遅い。

 簡単に距離を取れ、時間は稼げる。

 が、その先が行きどまりならば意味がない。

 

 やっやばいなっ!いやでも待てよ。

 こいつら確か、転移できるっていってたよな。

 もし、こいつらが俺のためにそれを出し惜しんでんなら……


「なぁ、お前ら『帰還の腕輪』ってやつ、つかえよ。」


「「「……っ!?」」」


 俺がそう言うと、3人は揃って驚愕の顔を浮かべる。


「何言ってんのカルラ!それカルラが死んじゃうって意味だよ!!」

「そうだっ!僕達は友達じゃないか!友達を見捨てたりなんて僕はしないぞっ!」

「……そ、そうだよ!!」


 こっこいつら……!

 こんな時まで、やばい泣きそう!!

 いや、泣いてる場合じゃねぇー!


「いや、お前らの気持ちはうれしいけどなぁ、それでお前らが死んだら、申し訳が立たねーんだよ!頼むから行けって!」

「でも……!」

「お願い!マジで!一生のお願い!」


 それでも食い下がるレンカの肩を掴み、歯噛みした愛斗は顔を横に振り、俺の手の甲にいろんなアイテムを押し当ててきた。

 その全てが俺の手の甲に吸い込まれていき――


「『帰還の腕輪』はゲームの設定上一つしか持てない。だから、君をここに置いていくことになる。だから、少しだがアイテムとマジックウェポンを君に渡すよ。」


 そうして、俺達はついに行きどまりの壁に辿り着き、、


「ごめん……ごめんねカルラ……!」

「………っ。」

「君の無事を祈る!!」


 涙を流すカレンと、悔しそうに顔をゆがめる愛斗、涙を目尻に浮かべ、顔を俯かせる瑠夏。


 3人は『帰還の腕輪』を光らせ、その場から消えた。


 さてどうするか……。


 背には壁、前には近づいてくる炎を纏い剣を構えた焔さん。

 そして俺は相変わらずの小さい身体。


 いやー、これやっぱ詰んでるよなぁ。



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