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第八話 雷太vs知臣道人 弟子同士の相対!

 ドン!


 【隠し仙境】内の森林地帯――、遥か先に研究所が見えるその場所で、金属製の人型がバラバラになって宙を舞う。

 その仙境内部へと至った小玉玄女は、無数に配置され自動運用されているその仙術ロボットを、次々に吹き飛ばしバラバラの部品へと変えてゆく。

 そして――、その肩には今なお意識のない男を背負っているのだが、それでもその動きには不足なく、数を武器に迫ってくるロボット共をなぎ倒していった。


「――ふむ、一体一体の戦士としては、この紅月子よりは上かにゃ。でも、正式な操手がいないからその機能は限定的――、てことかにゃ?」


 その予想はあたっていた。天地の気を利用した自動運用では限界があったのである。でも、それでも本来なら侵入した敵仙人を撃退する事は可能であったはずだ。まさしく、()()()()()()()のである。


「――さあ! どんどん行くにゃ! ウチはここにいるにゃよ!!」


 そう言って小玉玄女は不敵に笑ったのである。



 ◆◇◆



 その事は研究所内の知臣道人の知るところであった。

 彼は、【力士傀儡】操作用の宝貝板に手を触れて、研究所外に展開中の仙術ロボットを目標へと向かわせる。しかし――。


「……ち、なんて奴ですか――。これほどの【力士傀儡】が加速度的に減っていくとは」

「……知臣(あきおみ)

「――ご安心ください師よ――。わたくしが必ず師をお守りいたしますとも」


 そう言って、その部屋から出てゆこうとする知臣道人であったが――、ふと足を止めて眉を寄せた。


 ガチャ……。


 その部屋の一つしかない扉が開かれて、何者かが入ってくる。それを見て知臣道人は怒りで顔を歪めたのである。


「……ご機嫌いかがですかな? 【菩典老(ボクテンロウ)】殿……」

「き、貴様は……、暉燐教主?!」


 そういう、泠煌の言葉に、菩典老ではなく知臣道人が答えた。


「……まさかとは思っていましたが、アレは陽動ですか――」

「……そのとうりじゃ」


 そう答える泠煌の前に雷太が歩み出て、その手に持つ六尺棒を構えた。


「……もう観念しろ。お前らの悪行もこれまでだと思え」


 その雷太の言葉に、知臣道人は眉を怒らせて吐き捨てる。


「……悪行?! 悪行だと!! 我が師、菩典老様を救うことがか?!」

「ぬ?」


 その返しに雷太は眉を寄せる。知臣道人は怒りのままに叫ぶ。


「菩典老様は――、老いを克服しているはずが老い始めておる!! それを癒やすためには天命数が多くいるのだ!!」

「……」


 その言葉を泠煌は感情のない目で見つめる。


「師への救いが悪行だと?! バカを言うでないわ!!」

「……お前」


 雷太の目がすっと細くなる。それを泠煌は手で制して弟子の代わりに口を開いた。


「ふむ、なんとも師匠思いの弟子であるな……、菩典老殿」

「む……」


 その泠煌の言葉に、菩典老はわずかに身を揺らす。そして泠煌は笑顔を作ってから言った。


「……でも、自身も天命数を増やすべく、搾気を利用している時点で、まさに口だけの愚か者じゃがな――」

「――!!」


 その泠煌の言葉に知臣道人は目を見開く。――それを見て雷太は口を開く。


「――まあ、簡単に強くなる方法を見つけたら、そっちに流されるのは修行者なら当然ではある――、が、やり方が悪どすぎるんだよ……、師の言葉がなくともこれはゆるせねぇ」

「ぐ……」


 じわりじわりと前に進む雷太を睨む知臣道人。そんな彼に泠煌は言う。


「……まあ、安心せい――、ここで力を振るうは弟子の雷太よ――」

「何だと?!」


 その言葉に驚きを隠せない知臣道人。彼に向かって泠煌は笑って言った。


「何なら――、貴様が道士である雷太に勝てれば、そのまま師を連れて逃げても良いぞ? ……勝てれば、な」


 その言葉に内心に思いを走らせる知臣道人。


(道士……だと? 仙人でもない者を前に立たせる? 馬鹿かこの娘は――。でも、しかし――、それならそれで……)


 そう言って知臣道人は内心ほくそ笑む。その姿を見ずにただ菩典老へと視線を向ける泠煌。


(……わしの予想が確かなら、今はわしは動けぬ――、全てはこの後であろう)


 その視線を弱々しい目で見返している菩典老は、小さく弱々しく弟子である知臣道人に言った。


「すまぬ知臣(あきおみ)――、頼んだぞ」


 その言葉に知臣道人はにこやかに微笑んで答えた。


「お任せください――師よ」


 こうして、両師匠の目前にて、弟子同士の相対は始まったのである。



 ◆◇◆



 しわじわ間合いを詰める雷太に向かって、 知臣道人の嘲笑の籠もった言葉が飛ぶ。


「まさか……、天命数を大幅に増したわたくしという仙人に――、ただの道士である君が立ち向かうというのか? なんと無謀な……」

「言ってろボケナス! テメエみたいなクソ外道は、なんか許せねえんだよ!!」

「……は、そのクソ外道とやらに敗北して、それ以下になると良いぞ」


 知臣道人は嘲笑を深くして意識を集中する――、そして。


「速攻で終わらせてやろう! 我が宝貝、全力展開!!」

「ぬ?!」


 その瞬間、知臣道人の周辺に無数の陣が現れて、そこから無数の宝貝が現れる。


「ククク……、さあ始めようか? 筋肉ダルマ……」


 そう笑う知臣道人を、雷太は苦い顔で睨みつけた。


 ――知臣道人はその身、そして周辺に無数の宝貝を起動していた。

 空に浮かぶ六つの短剣は【風尖刀】――、一つ一つが風撃という攻撃術を飛ばす中距離攻撃宝貝。

 さらに、空に浮かぶ二つの火の灯った灯明皿は【鳳炎灯】――、一つ一つが炎撃という攻撃術を飛ばす、これも中距離攻撃宝貝。

 その足に履いた靴、風の渦巻くそれは【風迅輪】――、地面すれすれを高速移動するための機動性強化宝貝。

 そしてその身に纏う紫の衣は【被甲紫衣】――、自身の身への物理、術ダメージをすべからく防ぐ耐久性能を得るための防御宝貝。

 それらを同時起動した知臣道人は、無論、天命数を現在進行系で削っているのだが、そんな事は彼にとって些細なことであった。


「死に晒せ……、ゴミクズが――」

「……ち」


 そういって苦い顔をする雷太に、泠煌の激が飛ぶ。


「……以前の失敗は犯すなよ? 慎重に行くのじゃ……」

「了解ですとも! 教主様!!」


 その手にする六尺棒を構えて、雷太ははっきりと笑った。


「は――、馬鹿めが!!」


 知臣道人は当然のように、目前の雷太が自分に勝てるはずがないと考えていた。故に当然のように簡単に仕留められると、二つの【風尖刀】だけを起動して彼に向かって風撃を打ち込んだのである。その二撃はまさしく銃弾並に早く――、雷太では捉えられるはずが――。


 ドン! ドン!!


 雷太がその手の六尺棒を、その身の周囲を巡るように回転させる。その後に知臣道人の周囲で爆発が起こっていた。


「……な?!」


 六ある【風尖刀】のうち、風撃を打ち出した二つが粉々に砕けて落下していた。知臣道人は何が起こったのか理解できなかったが――、


「……ふん!」


 いつの間にか間合いを詰めていた、雷太の拳が空を切って知臣道人に命中した。


「――!」


 知臣道人は黙って風を纏いつつ、雷太との間合いを離す。その様子を見て雷太は渋い顔で言った。


「おいおい……、また物理無効か? 卑怯者が――」

「ち……」

「――て、わけでもないか? 本来は仙人への備えだろうし……、おそらくは損害すべてを吸収する、耐久点を得る防御宝貝かな?」


 そう見抜く雷太に、今度は知臣道人が渋い顔をする。先程の展開を反芻しながら思考する。


(奴の手にする六尺棒は――、近接攻撃宝貝とばかり思っていたが、まさか違うのか? だから――先ほど……)


 知臣道人は雷太の宝貝を、中距離攻撃宝貝だと予測する。――そしてそれは()()()()正解ではあった。


「ならば!!」


 知臣道人は風を纏って高速移動しつつ【風尖刀】を放ってゆく。雷太はそれに反応して六尺棒を振るってその場で舞を踊った。


 ドン! ドン!


 その部屋の地面に次々に破砕が起こる。それはまさに――、


「まさか?! 風撃が打ち返されておるのか?!」


 ――そう、その通り、雷太はその()()()()()()()()()で、その六尺棒宝貝【金龍旗棒】を振るって術を打ち返していたのである。


(あいつの宝貝は――、触れたものを返す宝貝だと?)


 それは正確にはハズレであった。

 雷太の持つ【金龍旗棒】は、触れたもの、触れているもの、そしてその宝貝の周囲スレスレのものに、運動方向を自由に指定する宝貝である。無論、離れれば指定された運動をそのまま実行するだけになって遠隔操作は出来ないが。――そして、この宝貝は運動方向を指定するだけ故に、無理に停止させる等ということは出来ず、逆に言えばどのような強力な攻撃であろうが、方向を変えることによって回避ができるのである。


(いや……、だが、それにしても――、未だ道士でしかない者が、わが宝貝の術を返すなど――)


 そう――、そこにも秘密はあった。

 雷太は【身体機能への強化】を異能力としてもっている。そしてそれは、筋力、速度、精度、という三種の特性へのバフであり、雷太は意識を集中することで、そのバランスを変化させる事ができたのである。もっとも、修行中である彼は、いずれか一点に集中することしか出来ず、現状は【精度】すなわち運動感覚方面に全ふりしているのだが……。


「く……」


 知臣道人は雷太を苦々しい目で見つめる。そんな様子に雷太は不敵に笑って言った。


「どうした仙人様――、顔が青くなり始めてるぜ? 速攻で終わらせるんじゃないのか?」


 雷太の言葉に知臣道人はただ唇を噛む。


「……」


 その姿を――、菩典老は、()()()()()()()()()()()を撫でつつ静かに見つめていた。

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