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5そばにいて欲しい


残酷な真実に心はきしみ、保つだけで精一杯だったが、どうしても聞かずにはいられなかった。


「どうして私を助けてくれるの?」


アリシアはルトに問いかける。


「時を巻き戻してくれたり、話を聞かせてくれたり——それは、私が紫の瞳を持っているから?」


「まあそうだな、それもあるが……」


ルトは薄目を開け、

のんびりとした口調で続けた。


「一番の理由は、シーファと……友だったからだ」


「シーファ……建国王?」


ルトは眠たそうにあくびを噛み殺しながら、頷いた。


「ああ、そうだ。奴の子孫……紫の瞳を持つやつがどうなっていくのか、ちょっと気になっただけだ」


「……それで助けてくれたの?」


「いや、助けるつもりはなかった」


「えっ……?」


アリシアは目を瞬かせる。

ルトはごろんと寝返りを打ちながら続けた。


「ただ見に行くだけだったんだ。お前が小さい頃、様子を見に行った……だけどな、その前に」


「その前に?」


「日差しが気持ちよくて、寝ちまった」


ルトは欠伸混じりに言った。


「気づいたら、お前がいた」


——アリシアの記憶に、その時の情景が蘇る。


庭で、小さな彼女は、芝生の上でぐうぐうと気持ちよさそうに眠る生き物を見つけた。

お腹を上に向け、だらしなく伸びたその姿は、なんとも間抜けで——


「ぷっ……!」


思い出した途端、アリシアは吹き出した。


「……なんだ?」


ルトが怪訝そうに眉をひそめる。


「ごめんなさい、あの時のこと思い出して……!」


壊れそうなほどしんどかったのに、不意にこぼれた笑いがアリシアの心を撫でていく。

くすくすと笑いが止まらないアリシアに、

ルトはむっとした顔で言う。


「お前、もう一度時を戻すぞ」


「ごめんなさい! なんでもないです!」


アリシアは慌てて口元を押さえた。


「……まあ、時を戻すつもりはなかった」


ルトはのそっと頭を上げ、ぼそりと呟く。


「けど、お前と会った時……気づいたことがあった」


「気づいたこと?」


「人間を時を戻すには膨大な力がいる。そんなことはしたくねえし、する気もねぇ」


「……でも?」


「お前なら、できるんじゃねえかってな」


アリシアは息をのんだ。


「——お前、魔力がねえだろ」


その言葉に、胸が冷たくなる。


魔力を持たないこと。それは、王族に生まれた者として致命的な欠陥だった。

紫の瞳と並んで、彼女が人々から蔑まれる理由のひとつ——。


「紫の瞳を持つ者は、精霊との親和性が高い。それに加えて、お前には魔力がない」


ルトは淡々と語る。


「だから、お前は時を戻す時に魔力と時空が反発しねえ。普通の人間を過去に戻すのは、それこそ莫大な力を使うが……お前なら、特に必要ない」


アリシアは呆然としながら、そっと手を握った。


「だから、俺はお前を俺の一部にして、時を戻した。……そうじゃなかったら、やらねえよ」


「私の記憶を全部見たのは、そのせい?」


「まあ、そういうことだな」


「じゃあ、今も私はルトの一部?」


「……まあ、そうとも言えるな」


ルトはイヤそうに顔を背ける。

アリシアは少しむっとしたが

意を決したかのようにルトに告げた。


「じゃあ…じゃあさ、これからも一緒にいてくれる?」


不安そうに問いかけるアリシアを見て、

ルトは記憶をたぐり寄せる。

どこかでみた、その顔は…


「……シーファに似ているな」


「建国王に?」


「ああ。あいつもよく、そんな表情をしていた」


ルトは懐かしそうに目を細める。


「でも、建国王は精霊王によって力を得たんじゃ?」


「まあ、そうだな。だが、あいつは自分の弱さを知っていた。そして、非力であることも」


ルトはぼんやりと宙を見つめる。


「それに……莫大な力を持つことの恐ろしさも、な」


「……」


「不安や恐れを抱えながら、それでも前に進んでいたよ」


アリシアはそっと目を伏せる。


「私……今、とても不安」


過去に戻してもらえたけど、ちゃんとやっていけるのか。

また同じ未来が待っているんじゃないか。


——でも、ルトがそばにいてくれたら。


「だから……私のそばにいてくれない?」


アリシアは静かに言った。


「はあ……まあ、しょうがねえな」


ルトは大きなため息をつく。


「お前、たよりねえしな。ほっとくとロクなことにならなそうだ」


そう言って、ころんと背中を向ける。


まるまるとした、その後ろ姿をアリシアは嬉しそうに見つめた。


そっと、その背中に向かって——


「ありがとう、ルト」


くすっと笑いながら、小さく呟いた。


それは幼い頃、庭で彼と出会った時のような心からの笑顔で。

そして——16歳の少女らしい、未来を願う声だった。


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