第七話 あんたのせいだ!
夜中、黒い影が屋敷の屋根を走っていた。
月明りが照らすと、それは月影である。
月影は、少し離れたところにある書庫に着くと、辺りを警戒する。
「……見張りが誰もいない?」
見張りがいないことに疑問を覚えたが、静かに戸を開ける。
中にはたくさんの書物があり、月影は奥へと進んだ。
「多分、古いものは奥だろうから、えっと……ここらへんかな?」
手に取ると、古い記述が載っていた。
しかし、目的のことが書かれていなかったのがわかり、別の書物を手に取る。
「ここにも載っていないな。やっぱり、簡単には見つからないか……」
疲れて座りこんだ月影は、ふと近くの棚にある書物に目が留まった。
それは他の書物よりも古いものだった。
何気なく開いてみると、記述は十年前のものと判明した。
「あった、これだ!」
月影は慎重に読み進めるが、あるところで手が止まる。
「あれ? ここだけごっそりと破かれている……」
意味が解らず首を傾げていると、背後に気配を感じた。
「えっ……?」
振り向くと、すぐに口を手でふさがれる。
「ーっ!?」
月影は声が出せず、持っていた本を床に落とした。
★★★
よしねと隼人は、毎日任務をこなしていた。
「ねぇ、隼人。なんだか最近、任務が多くない?」
「確かに、前より増えた気がしますね」
「さすがに、疲れてきたわ……」
「まぁまぁ。後は帰るだけですから、頑張りましょう」
「はーい……」
よしねがやる気のない返事をした時、吹雪が二人を襲った。
「きゃぁっ!」
「くっ……」
やがて吹雪がやむと、雪影が現れた。
その表情は怒りに満ちていた。
「雪影、なんでこんなところに……」
「……あんたのせいだ」
「え?」
雪影の呟きに、よしねは聞き返す。
だが、それが雪影の逆鱗に触れ、よしねを強く睨みつけた。
「あんたのせいなんだ!」
怒鳴った雪影は、よしねに向かって飛んでくる。
素早く蹴りを入れた雪影の攻撃を、間一髪よしねは杖で受け止める。
「あんたのせいで、月影が捕まった!」
「どうして、それが私のせいなの!」
「知らねーよ。なんかあいつに吹きこんだんだろう!」
「そんなことしてないわ!」
雪影とよしねは攻防を続ける。
「よしね様、離れてください」
「あんたは、そこでじっとしていろ!」
駆けだそうとした隼人を、雪影は術で足止めをした。
隼人は足まで凍りつき、うごけずにいた。
「隼人!」
「よそ見すんじゃねーっ!」
己の手を氷に変え、よしねを貫こうとする。
「くっ……」
それを防いだよしねは、戸惑いながらも雪影に尋ねた。
「月影はなんで捕まったの?」
「ゆりねって女のことと、火事について調べるって言っていたな。それがどうした!」
雪影の答えに、よしねはぼう然とする。
「私が、あんなこと言ったから?」
「やっぱり、あんたのせいなんじゃないか」
「でも、なんで月影が捕まっちゃうの?」
「さぁな。どうせ、知られたくないことでもあるんじゃねぇのか?」
「お願い、そこに案内して!」
「は?」
よしねの頼みに雪影は呆気にとられるが、その表情はだんだん怒りに満ちてきた。
「ふざけんじゃねーっ!」
「きゃぁっ!」
突然の猛吹雪に、周囲が凍りつく。
「あんたのせいで月影が捕まったのに、敵をそう簡単に連れていけるか!」
雪影の吹雪で、よしねも凍りつきそうになる。
「どうしよう……このままじゃ、二人とも凍っちゃう……」
★★★
暗い地下牢に月影は拘束されていた。
「しくじった……俺はこのまま殺されるのか?」
小さく呟く月影のところに、足音が響いてくる。
誰だ、こんなところに、と月影は思ったが、目の前で足音は止む。
そして鍵を開け、その人物は中に入ってきた。
「はじめまして、あなたが月影ね」
牢の中は暗いので、その人物の顔は隠れていた。
しかし、声色は女性のものであった。
「なんで、俺の名を知っているんだ?」
「それは秘密。だけど、あなたをここから逃がしてあげる」
「……それで、君になんの得があるんだ」
「そうねぇ。よしねに友達ができるといいなと思ってね」
「よしねって、あの風使いの……」
「そう。だからあなたを逃がしてあげる」
女性は、持っていた体の半分はある杖を振った。
月影の拘束は解かれ、自由になった月影は立ち上がる。
「ありがとう……君は一体何者なんだ?」
聞かれた女性は、微笑みを絶やさない。
やがて、月明かりがその顔を照らした。
「何者ってあなた、私のことを調べていたでしょ?」
その女性は、長い銀髪を上で一つに結び、よしねと似た杖を持っていた。
「もしかして、君は……」