第五話 隼人の思い出
双子との戦いを終えたよしねは、力を使いすぎたため、熱を出していた。
「うぅー……」
「なかなか熱が下がらない……」
隼人は濡らしておいた布をしぼり、よしねの額にあてる。
「よしね様、今お粥を作りますから、待っていてくださいね」
そっとよしねの頬を撫でながら、隼人は席を立った。
そして炊事場に向かい、粥の準備をする。
「あぁ、確かゆりね様も、俺が熱を出した時に作ってくれたんだったな」
隼人は作りながら、ゆりねとの過去を思いだしていた。
★★★
隼人とゆりねの出会いは、十二年前にさかのぼり、隼人が十歳の頃である。
ある道場で、刀の鍛練をしていた隼人のところに、疾風であるゆりねが訪れてきたのだ。
「はじめまして。私はゆりねよ」
「……俺は隼人です」
「あなた、この道場ではかなり腕がたつらしいわね」
「わかりません。俺はもっと強くなりたいです」
「なら、私の所に来ない?」
「えっ?」
隼人は驚くが、ゆりねは笑みを絶やさない。
「あなたに、守ってもらいたい子がいるの」
「守る?」
「えぇ。私の妹で、よしねって言うのだけれど」
「それなら、あなたが守ればいいでしょう。疾風なのですから」
「……それはできないわ」
素っ気ない態度をとる隼人だったが、ゆりねのさびしそうな顔を見て心が痛んだ。
「それは、なぜですか?」
「いずれ私は、あの子の元からいなくなる。そうなれば、あの子はひとりぼっちだわ」
すると、ゆりねは隼人の方を向いて手を握った。
「だからお願い。あの子の、よしねのそばにいてちょうだい!」
ゆりねの必死な頼みに隼人は驚いたが、心を決め頷く。
「わかりました。俺でよければその方のそばにいます」
「本当? ありがとう!」
それから隼人は、ゆりねの屋敷にやってきた。
そこでも刀の鍛練はしていたが、ある日熱を出してしまう。
「隼人、具合はどう? 大丈夫?」
「ゆりね様、申し訳ございません……このような醜態を……」
「何を言っているの。熱が出るのは仕方ないんだから、気にしないの」
そばに座ったゆりねは、桶に入った布をしぼり、隼人の額におく。
「ちょっと待っててね。今お粥を作ってあげるから」
ゆりねはそう言うと、部屋から出ていった。
炊事場では、ゆりねが粥を作っていた。
そこへ、五歳のよしねがやってくる。
「あねうえ、はやとまだよくならないの?」
「そうねぇ。でも、この粥を食べれば、きっと元気になるわ」
「なら、わたしがもっていく!」
「駄目よ。もし落としたら大変だから、ついてくるだけにしなさい」
「うん!」
それから粥を作り、隼人の部屋に持ってきた。
「さぁ、起きて何か食べないと、薬飲めないからね」
「はい……それより、なんでよしね様が、ここにいるんですか?」
「はやとがしんぱいだから!」
「だそうよ。じゃぁ、粥に梅干し入れておくわね」
ゆりねは、粥の中に梅干しを入れてほぐす。
「これを食べると、口の中がさっぱりするから」
「あねうえ、私がやってあげる!」
「あら、じゃぁ、お願いしようかしら」
「はい、はやと! あーんして!」
「ひ、一人で食べられますから!」
「だめ、あーん!」
「ふふっ」
よしねの気迫におされた隼人は、照れながら食べたのであった。
そんな二人を、ゆりねは微笑ましそうに見ていた。
★★★
そして時は現在に戻る。
隼人は粥を作り終わり、よしねの部屋に持って行く。
「よしね様、起きれますか? 粥をお持ちしましたよ」
「うぅ……隼人?」
「大丈夫ですか? 三日三晩眠っていたのですよ」
「そ、そんなに?」
「多分、力の使いすぎでしょう。さぁ、できましたよ」
隼人はよしねを起こし、額の布を桶に戻した。
そして、横に置いてあった粥に梅干しを入れてほぐす。
「それ、ゆりねがしていたよね」
「そうです。俺もこれで元気になりましたから。さぁ、口を開けてください」
「じ、自分で食べれるもん!」
「いいじゃないですか。よしね様もしてくれたでしょう?」
「そ、そうだけど……」
「はい、あーん」
よしねは照れながら口を開けた。
粥を食べ終わり、薬を飲んでよしねはすぐ眠りについた。
三日後には、よしねの体調も戻り元気になっていた。
「うーん、ずっと寝ていたから体がなまっちゃうわね」
「元気になられてよかったです。そんなよしね様に、ご報告が……」
のびをしているよしねに、隼人は懐から一枚の紙を取り出し、内容を読み上げた。
その内容を聞いたよしねは、うんざりとした顔をした。
それは、お館様からの新たな任務の手紙だったのである。
「あの人、病み上がりにいきなり任務を言い渡すのね……」
「なら、お断りしますか?」
隼人がよしねを見ると、よしねはくすっと笑う。
「もちろん、やってやるわ! 行くわよ、隼人!」
「はい、よしね様!」
二人は出かける準備をして家を出ていった。