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第三話 お館様

 ねずみ退治を終えたよしねと隼人は、ある屋敷の前にいた。

 よしねは、あいかわらず苦い顔をしている。

「やっぱり帰ろうかな……」

「ここまで来て、まだそんなことを言っているんですか。腹を決めてください」

「うぅー……隼人、冷たい」

 二人が話していると、門が音を立てて開かれ、中から中年の女性が出てくる。

「よしね様、遠いところお越しくださいまして、ありがとうございます」

「任務の報告に参りました」

「はい、存じております。どうぞこちらへ」

 女性に促されて、屋敷の中に入る。

 屋敷は広く、部屋がいくつもある中、一番奥の部屋によしねと隼人は通される。

「お館様、よしね様がいらっしゃいました」

「入りなさい」

 部屋の中から、凛とした声が響く。

 女性がふすまを開けると、奥に扇で口を隠しているお館様が座っていた。

 歳はよしねと変わらないが、長い黒髪と着物で、高貴な雰囲気をまとっている。

「よしね、久しぶりね。元気にしていた?」

「はい、おかげさまで」

「おかげさま? よく言うわね。私は何もしていないわよ」

「これは言葉のアヤでしょう。あげ足を取らないで下さい」

「ごめんなさいねぇ。あなたが言い返すのが面白くてね」

「お館様はいつもそうですね。誰かをからかうのが趣味でいらっしゃる」

「そうよぉ? だって、面白いじゃない」

「悪趣味ですね」

 よしねとお館様はお互い立って睨み合う。

 しかし、気が済んだのか二人とも席に戻る。

 隼人は毎度のことだとわかっているが、内心ハラハラである。

 すると、お館様がパチンと扇を閉じる。

「では、報告を聞きましょうか」

「はい。まず大百足ですが……」

 なら、最初から報告をすればいいのにと隼人は思ったが、よしねの報告を静かに聞く事にした。

 そして報告が終わり、お館様は首を傾げる。

「そのねずみの件は気になるわね。それで、その花というのは持っているのかしら?」

「はい、こちらに」

 隼人は懐から布で包んだ花の残骸を見せる。

「へぇー……あまり見たことのない花ね」

「これによる花粉で、ねずみたちは狂暴化したと思われます」

「ふーん……そこまで見当がついてるのね」

「あくまで予想です。あとは調べてみないとなんとも……」

 隼人が言葉に詰まっていると、お館様はくすりと笑う。

「まぁいいわ。面白い報告を聞けたから」

 そしてお館様は、閉じた扇をよしねに向けた。

「よしね、あなたに任務を与えます。今から北北東に向かいなさい」

「今からですか?」

「そうよ」

 お館様は当然とばかりに答える。

 それにムッとしたよしねだったが、深呼吸をして尋ねる事にした。

「そこでの任務とは一体なんですか?」

「なんかねぇ、人を喰う花がいるみたいなのよ。頼まれてくれるかしら」

「かしこまりました。お任せください」

 よしねは一度頭を下げて立った。

 隼人もそれにならい帰ろうとすると、お館様がまた凛とした声で話す。

「よしね、二つのものに気をつけなさいね」

 気になったよしねは振り返り、首を傾げながら問う。

「二つのものとはなんです?」

「なんでもないわ。ただ言ってみただけ……」

 お館様はそう言うと、そっぽを向いてしまう。

 よしねはもう一度首を傾げる。

 しかし、納得のいく答えが得られないとわかると、そのまま出ていった。

「ふふっ……さぁ、あの子はどうするのかしらねぇ……」

 お館様はくすりと笑った。

 その笑みは、いたずらを考える子どものようであった。

 その頃、屋敷から出たよしねは、怒りを爆発させていた。

「なんなのよ、あの人は! はっきり言いなさいよね!」

「よしね様、まだ屋敷の前ですけど」

「知るもんですか! いっそのこと、あの人に聞こえたらいいんだわ」

「そうなると、次も言い合いになるんですかね……」

「知らない! ほら、早く行くわよ!」

 よしねの怒りはまだおさまらないらしい。

 それがわかった隼人は、苦笑いをしながらよしねについていった。

★★★

 ある森の中で、花たちがうごめいていた。

 その中心に、巨大な赤い花が咲き誇る。

 そしてそのつるには、男を巻き付けていた。

「た、助けてくれ……」

 その男の願いは空しく、花の中へと消えていった。

「あーあ、また一人食べられちゃったね」

「もうすぐ、奴らがここに来るはずさ」

「楽しみだなぁ。どんな顔するんだろう」

 少年たちは、いたずらっぽく笑う。

 新たな敵が近づいていることを、よしねはまだ知らないでいた。

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