第二話 ねずみ退治
次の日、よしねは憂鬱な顔をしていた。
そこへ、朝食の準備を終えた隼人がやってくる。
「まだ、そんな顔をしているんですか?」
「やっぱり、行くのは隼人でいいんじゃない?」
「だめです。これはよしね様のお役目でしょう」
「やっぱりだめ?」
「くどいですよ。嫌ならあなたを抱えて連れていきますからね」
「やめて! もう子どもじゃないんだから!」
「でしたら、わかりますよね?」
隼人の笑顔に、よしねはひきつった顔で返した。
これ以上嫌だと言ったら、隼人の怒りが爆発する事を、よしねはわかっていたからである。
「では、早く朝食をすまして行きましょうか」
「はーい……」
食事を終えた二人は、早速出かける準備をする。
先に終わった隼人が外に出ると、近くの柱に矢が刺さった。
「敵襲か!」
隼人は辺りを見渡すが、人の気配は無い。
改めて矢を確認すると、紙が結んであった。
「これは……」
開くとそこには、また任務が書かれていた。
「よしね様、予定を変更します。これから任務ですよ」
「えっ、じゃぁあの人のところに行かなくていいの?」
「違います。この任務が終わったら行ってもらいますよ?」
「……だと思ったよ」
一瞬喜んだよしねだったが、すかさず隼人が釘を刺す。
「それで、今度の任務はなに?」
「この紙によれば、ねずみの狂暴化を鎮める、ということらしいです」
「狂暴化? お腹でもすかせているのかしら」
「その原因をつきとめるのもお役目ですね」
「なら、さっさと行きましょうか!」
よしねの言葉に隼人は頷く。
駆けだした二人が向かったのは、森の中であった。
「本当に、この森で合っているのかしら」
「この近くの村の村長の話では、よくねずみが現れては作物を荒らすだけだったようです」
歩きながら、隼人はよしねに説明を続ける。
「でも、ここ最近人を襲うようになってきたとか」
「最近っていうのが、ひっかかるわね」
「そうですね。あと、村長が言うには、ねずみの住処はこの辺りらしいのですが……見当たりませんね」
「もっと奥に行ってみましょう」
しばらく歩いていると、黒い影が動いているのが見えた。
「なにかしら、あれ……」
よしねは目を凝らして確認すると、口を手で覆った。
その影は、何匹ものねずみであり、それが鹿にたかっていたのだ。
ねずみたちは、気が狂ったように鹿をむさぼり続ける。
「あれが、狂暴化したねずみのようですね」
「は、早く退治しましょう!」
「待って下さい。これだけのねずみがいるんです。きっと親玉がいるはずです」
「だとすると、近くにいるはず……」
よしねたちが気配を探ると、離れた場所に光るものがあった。
「いた! あそこだわ、風刃!」
よしねは取り出した杖を振るい、風の刃を放つ。
それを避けて出てきたのは、頭に花が着いた少し大きなねずみだった。
「あいつが親玉ね」
「しかし、あの花はなんでしょう」
「わからないわ。でも、倒さなきゃ駄目でしょう?」
「それもそうですね……っ?!」
隼人は何かに気づき、鼻と口を袖で覆う。
「どうしたの、隼人」
「よしね様、早く鼻と口を覆って下さい! この花粉を吸ってはいけません!」
「わ、わかった!」
言われた通り、よしねも袖で覆う。
「もしかすると、あの花の花粉で、ねずみたちは狂暴化したのかもしれません」
「だったら、私に考えがあるわ」
「よしね様?」
「キシャーッ!」
隼人が首を傾げていると、ねずみたちが一斉に飛びかかってくる。
「風よ、舞い上がれ!」
すると、よしねたちの周りに強風が吹き荒れ、ねずみたちを空へ飛ばしていく。
「ぐぅぅ……」
親玉ねずみは耐えていたが、よしねはすぐに杖を構える。
「風刃!」
よしねが放った風の刃は、ねずみに付いていた花を切り落とした。
すると、親玉ねずみは正気を取り戻したのか、辺りを見回している。
落ちてきたねずみたちは、よしねの風で無事に着地した。
正気を取り戻したねずみたちは、急いで森の奥へと消えていく。
「もう、村に来るんじゃないぞーっ!」
「しかし、この花は一体なんだったのでしょう」
「わからないけど、一応報告もかねて持っていきましょうか」
よしねの言葉に隼人は頷き、花を布で包んだ。
よしねたちが作業している時、遠くの木に人影があった。
「あれが疾風だった女の妹か?」
「ずいぶん若いんだね」
「油断するなよ。あいつも同じ力を持っているんだからな」
「わかってるよ。次に会うのが楽しみだね」
そして人影は、ふぅーっと花びらを吹いた。
それはよしねのところに届き、ふとよしねが振り返る。
「ん?」
「どうかしましたか、よしね様」
「……いや、なんでもない」
よしねが振り返ったその先には、誰もいなかった。