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第一話 炎上

 セミの声が響く夏の夜、ある屋敷が炎に包まれていた。

「はぁ、はぁ、急がなくては……」

 炎の中、長い銀髪をひとつに結び、武装している女性が廊下を走っている。

 女性の名は、ゆりね。

 ゆりねは一室に辿り着くと、ふすまを勢いよく開けた。

「よしね! よしねは無事?!」

「ゆりね様、よしね様ならここにおります!」

 部屋の中には、右目に眼帯をした少年・隼人はやとと、幼い銀髪の少女・よしねがいた。

「あぁ、よかった……ここも危ないわ。早くお逃げなさい」

「ゆりね様は、どうされるのですか?」

「私はまだ戦います。あなたたちが逃げる時間くらいは稼げるはずよ」

「なら、俺も戦います!」

「だめよ。隼人はよしねを守ってちょうだい」

 ゆりねは優しく微笑みながら、隼人の肩に触れる。

 隼人は何か言おうとしたが、ぐっとこらえた。

 すると、そばで震えていたよしねが、少し顔をあげる。

「あねうえ……」

「大丈夫よ、よしね。疾風はやての私は負けないから」

 疾風とは、風使いの中で上位の者のことをさし、ゆりねもその一人である。

 ずっと微笑んでいるゆりねに、よしねは勢いよく抱き着いた。

「あねうえ、どこにも行かないで!」

 抱き着いていたよしねの手をゆっくりと離し、ゆりねは目線を合わせるようにしゃがんだ。

「よしね、隼人の言う事をちゃんと聞くのよ。私もすぐ追いかけるから」

 ゆりねは言い聞かせるように、優しくよしねの頭を撫でた。

 そして、何かを決意した目をして立ち上がる。

「さぁ、早く行って!」

「あねうえ、あねうえーっ!」

 隼人はよしねを抱え走りだした。

 よしねは泣きながら、ずっと姉の名を叫び続けた。

 ゴォーッと音を立てて、炎は激しさを増す。

 あれから十年の時がたち、よしねは十七歳になっていた。

「嫌なことを思いだしてしまった」

 屋根に座っているよしねは、あの時のことに思いをはせる。

 ゆりねは最後まで戦ったが、あの戦いで命を落としたと、よしねは風の噂で聞いた。

「・・・嘘つき」

 よしねの呟きは、周りの音にかき消された。

「よしね様、こんなところにいたんですか」

 よしねが過去を思いだしていると、下から隼人が声をかける。

 そして地面を蹴り、屋根に着地する。

「早く戻ってください。任務ですよ!」

「えぇ、わかっているわ」

 よしねは、たんっと屋根を蹴り、庭に着地した。

「私が必ず、姉上を殺した奴らを見つけだして倒してやる!」

「よしね様、その意気です」

 隼人も屋根を蹴り、よしねのそばに行く。

「それで、今回の任務は?」

「今回は大百足の退治です。村を襲って、何人も犠牲になっています」

「わかった、案内して」

 走りだしたよしねと隼人を、夕日が赤く照らしていた。

 やがて夜になり、二人は目的地である林に着く。

「俺が追いこむので、よしね様は退治をお願いします」

「任せなさい。隼人も気をつけてね」

 隼人は頷き、林の中に消えていった。

 林の中では、黒い影がもぞもぞと動いていた。

 月明りに照らされたそれは大百足であり、猪を食らっている。

「ずいぶん、腹が減っているようだな」

 大百足がゆっくり振り向くと、隼人が立っていた。

「キシャーッ!」

 腹をすかせた大百足は、全速力で向かってくる。

 しかし、隼人は難なく避け、懐から小さな袋を取り出す。

「くらえ!」

 それは大百足の前で破裂し、大百足は悲鳴を上げて逃げる。

 隼人も後を追いかけ、やがて出口が見えてきた。

「よしね様、今です!」

 言われたよしねは、閉じていた目をゆっくりと開ける。

「村を荒らす元凶よ、ここで散りなさい。風刃ふうじん!」

 よしねは自分の体の半分ほどの杖を取り出した。

 それを振ると、風の刃がいくつも発生し、大百足を切り刻んだ。

「お見事です、よしね様」

 よしねが声のする方を向くと、林の中から隼人が現れた。

「これくらいなら、朝飯前よ。これで村人も安心でしょう」

「そうですね。あと、後始末は任せてください」

「えぇ、お願いね。私は村の方に行くから」

 それからよしねは村人に報告をした。

 村人は喜び、何回もよしねに頭を下げた。

 報告を終えたよしねは、隼人と合流し家に戻った。

「今回も難なく終わったわね」

「でも、油断は禁物ですよ?」

 食事の準備をしながら、隼人は振り向かずに言う。

 それに対してよしねは、苦い顔をした。

「それよりも、私は明日が来ないことを祈るわ」

「物騒なことを言わないでください。よしね様はあの方に会うのが嫌なのでしょう?」

「……わかっているじゃない」

「一応報告だけなのですから、あまり気負わない方がいいですよ」

「うん、わかった……」

 頷いてはみたものの、よしねは緊張で食欲も出ず、あまり眠ることができなかった。

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― 新着の感想 ―
初めてのブックマーク。風使い、いいですよね。風属性の主人公は少ないですけど、自分も好きです。この作品がどういう展開に向かうのか楽しみにしてます。
2024/10/19 06:01 退会済み
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