第三話 私を私に決定づけた、そういう原初の記憶の話
「じゃー次、名前学年年齢お願い」
「はい。黒須野十子です。現在は中学三年生で一五歳です。よろしくお願いします」
「はいよろしく。黒須野さん、珍しい苗字だね。多分初めて見たわ。十子って名前もすごいね。何か由来とかあるのこれ?」
「はい。十字路のように人と人と交差する、交わる、繋がる、繋げるような人間になってほしいという願いを込めてつけたと両親からは聞いています」
「へぇ、いい由来だね。あ、気づいちゃったけどこれ名前にクロスが二つあるね。黒須野のクロスに十のクロス」
鴫山はそう言って腕で十字を作り周囲を見回す。その若干オヤジギャグなセンスに周囲は愛想笑を浮かべるほかなかった。
「そうですね、よく言われます。両親もある程度狙ってつけたのではないかと思います」
黒須野は笑顔で答える。その様子を見ていた若手社員は、チラリと木ノ崎を見た。
わからない。中三にしては受け答えがはっきりできているし礼儀正しい。育ちの良さのようなものも感じる。顔だって十分良いし、スタイルも悪くない。
でも、普通だ。どこまでも普通だ。あの一瞬、眼の奥に何かが見えた気がしたが、今は普通。しいて言うなら、少し顔に険しさ、厳しさのようなものを感じるくらい。でも、やっぱり多分、木ノ崎さんは彼女を見ている。その手は、相変わらず一切動いていない。
「じゃあ志望動機聞こっか。なんでアイドルやりたいの?」
「はい。私はディフューズのファンでした」
ディフューズ。芸能事務所EYESで一番の人気を誇るアイドルグループである。
「待って、でしたってことは今はファンじゃないの?」
「はい。嫌いになったわけではありませんし、今も好きですが、ファンではありません」
「ふーん……悪いねさえぎって。続けて」
「はい。去年、初めてディフューズのライブを見に行きました。アリーナでのライブで、三階席でした。ステージは遠くてほんの小さくしか見えませんでしたけど、かわりにアリーナ全体が見渡せました。何万人もの人の光と、熱気と、感情で埋め尽くされていて、言葉では言い表せないような光景で……その中で、四人を見て、『彼女たちが見ているものを私も見たい』って、そう思ったんです。ステージの上から、同じものを、それ以上のものを、自分も見たい。それが動機で、目標です」
「へぇ。今はファンじゃないってのはそういうこと?」
「はい。目標、というのは少し違いますけど、自分にとっては、最低限同じ場所に立たないと始まらないスタートラインのような存在です」
「ディフューズがスタートラインか、いいね。そりゃファンじゃないか。対等だ」
「はい、気持ちの上では」
「じゃあ君は別にアイドルになりたいわけじゃないし、アイドルをやりたいわけでもないってこと? 見たいものを見るのが欲しいものなわけでしょ? じゃあ別にアイドルじゃなくてもいいんじゃないの? 他のなんかでも同じような光景見れるんじゃない?」
「いえ。あの光景は、あれ以上の光景はアイドルでないと見れません」
「なんで? 見たことないのにわかるの?」
「はい。確信してます」
「ふーん……ちなみに俺元々ディフューズのチーフマネージャーだったんだよね。まぁほとんどプロデューサーっていうかさ、立ち上げの時から。部長になるから変わったけど」
「はい、存じております」
「そう? 勉強してるねー。んじゃとりあえず以上ね。座っていいよ。次の人」
と、その時。
「その前は?」
黒須野が座りかけていたところで、急に木ノ崎が声を発した。
「はい。――えっと、すみません、もう一度よろしいでしょうか」
座りかけていた黒須野は慌てて姿勢を正し、木ノ崎を見る。
「その前。ディフューズのライブより、もっと前。なんかあったんでしょ? こっち側に魂奪われるような、原初の出来事が」
木ノ崎はそう言い、こっち側、と自分の足元を指差した。
室内が、しんと静まり返る。鴫山も含め、あらゆる社員の視線が、木ノ崎に集中する。
「あるんでしょ? 聞かせてあげなよ、みんなに」
その言葉の意味を理解できているのは、おそらく黒須野だけであった。彼女は、何かを確かめるように、じっと木ノ崎の目を見る。対して木ノ崎は、どこか挑発的なニヤケ笑いを浮かべるだけだった。
「――少し、長くなると思いますけど、大丈夫ですか?」
「もちろん」
木ノ崎はそう答え、ニッと笑う。
その言葉に、黒須野は黙ってうなずく。
「――あるアーティストがいるんです……もう二〇年以上前の人で、親が若い頃とても好きで、今でもよく聴いていて、なので私も小さい頃からよく耳にしていて、自然と好きになりました。
それで、一〇歳くらいの頃に、そのアーティストを自分でも色々調べてみたんです。曲だけじゃなくて動画とか色々と、いつも聴いてるけどどんな人達だったんだろうって、ふと思いまして。
そのアーティスト、ボーカルの女の人の人生にはいろんな事があって、今は病気で入院していて、自分を失っていて……動画とかを見ていっても、売れていくにつれてどんどん、見た目が変わって、なんだかどんどん自分を失っているような感じを受けました。
でも、そんな時、彼女の最初のライブの映像を見たんです。その時すでにCDは出ていて、それがもう最初から何十万枚も売れてて、そういう状態から初めて顔を出して、お披露目するっていう初ライブで。それなのに屋外の、巨大なステージで、本当に何万、数十万人もの人の前で、それが初めてのステージで……
でも、それが一番なんです。私が見た限りでは、間違いなく、初めてのステージのそのライブが、その時の彼女の顔が、一番美しかったんです」
黒須野はそう言い、木ノ崎を見る。
「派手さなんかなくて、化粧も全然で、まだ野暮ったさすらあって……でも、間違いなくそこが、彼女の人生の頂点だって、一番輝いてる瞬間だって。一挙手一投足、歌うその、笑顔から、はっきりわかりました。
その、私が生まれるより前の、動画の中の彼女を見て、そこで、彼女たちだけが感じているもの、彼女たちだけに見えているもの、彼女たちだけが、わかるもの……私が、確かにそこに感じた、人生の意味とか、生まれてきた意味とか、そういうものがすべて繋がったような瞬間、一瞬が永遠になる、その瞬間を、その景色を、いつか私も見たいって――そう思うと同時に、誓いました。いつか自分も、そこへ行くって」
黒須野は、堂々と、まっすぐに木ノ崎を見て、そう言い切った。
「――そっか、そりゃおめでと。君の人生が決まった瞬間だ」
「……はい。おっしゃるとおり、私の原初の出来事です」
「はは。いいよね、そういうの。しかしほんと、めっちゃ長かったね。まぁそれだけ思い入れあるってことだろうけどさ」
木ノ崎はそう言い、ニカッと笑う。
「いえ、すみません。大変長い時間いただいてしまい。失礼しました」
「いいのいいの。僕が頼んだことだからね。こっちこそ急にごめんね、座っていいよ」
黒須野はお辞儀をして席につき、一つ息を吐いた。
その様子を見ていた若手社員は、ちらりと木ノ崎の横顔を見る。
確かに、違うと思った。今、彼女が語った言葉たちは、どこか他のものとは違う。年頃の女子が語る言葉とは違ったし、これまで見てきた受験者たちとの言葉とも、違った。
ただ、その違いが何なのかはわからない。何がその違いを生むのかも、わからない。わかるのは、そこに違いがあるということだけ。
語る言葉が違うということは、その人自身にも、なにか違いがあるかもしれない、ということ。
――けど、木ノ崎さんは彼女が語る前から、そういう違いに気づいていた……?
若手社員は、木ノ崎の笑みの向こうに何があるのか、掴むことができずにいた。
*
その組のオーディションも一通りの終りを迎える。
「――んじゃこちらからは以上ですね。木ノ崎最後になんかあるかー」
「そうだね……なんでもいいの?」
その言葉に、会場は再び静まり返った。
このやりとりも、最初から今までずっとあった。けれども木ノ崎が何か意味のあることを口にしたことは一度もなかった。「何も」「特になし」「いや?」そういう言葉の繰り返し。途中から、誰も彼の言葉には期待しなくなっていた。
それが、ここにきて「何でもいいの?」と……
「あ? なんか言うのか?」
さすがの鴫山も驚いた様子で聞き返す。
「なんでもいいなら言うけど」
その言葉に、鴫山はニッと笑う。
「当たり前だ。好きにやれ」
「そう。んじゃ腕立て一〇〇回やった人の勝ちね」
その言葉に、室内は一瞬しんと静まり返る。
が、一秒後には、黒須野十子が床に手をつき腕立てを始めていた。
「いや、お前」
「僕の言葉じゃ不足っていうならシギさんからも言っていいよ。まんま復唱で頼むけど」
「――んじゃ責任者の俺からもだ! 腕立一〇〇回やった人間の勝ちだ!」
鴫山のその言葉に、受験者たちは左右を見、すぐに腕立て伏せを始める。無論、その間も黒須野は一人黙々と腕立て伏せをしていた。
「……説明は?」
と鴫山は腕を組み、眉間にシワを寄せ言う。
「そうだね。一応言っとくけど、あくまで言葉の通りだからね。腕立て一〇〇回やった人の勝ち。君、手休めて聞いてたら負けちゃうよ?」
その言葉に、手を止めて話を聞いていた受験者は慌てて腕立て伏せを再開する。
「言葉通り一〇〇回やった人の勝ち。――でも勝ちってなんだろうね」
木ノ崎は一人言葉を続ける。
「当たり前だけどさ、僕も鴫山部長も一言も『一〇〇回やった人が合格』なんて言ってないからね。勝ったところで別に二次試験通過するわけじゃないし、グランプリ取れるわけでもないよね。逆に負けたからといって落ちることが決まるわけでもないし。まー早い話オーディションの結果にはなんの影響もないから」
その言葉に、さすがに何人かが腕を止めた。
「それでも続けるっていうのはさ、なんでだろうね」
木ノ崎はそう言い、ヘラっと笑うのであった。
*
室内に、静寂が広がっている。
その中で、五人の受験者が黙々と腕立て伏せをしている。そういう、異様な光景。
「――お前これ数えてんのか?」
と鴫山が木ノ崎に尋ねる。
「回数? 数えてないよ」
「じゃあどうすんだ一〇〇回って」
「自己申告でいいでしょ。途中でわかんなくなったらプラス十回くらいやればいいし。別に誤魔化したっていいし」
「いいのかよ」
「いいでしょ。本人がそれでいいって思ったんなら」
木ノ崎はへらりと笑う。
「……やなやつだなぁお前」
「僕がいいやつだったことなんて一度もないよ」
しばらく後、黒須野がゆっくり体を押し上げ、床から手を離した。
「――一〇〇回、終わりました……」
「はいお疲れー」
その言葉に、他の受験者たちが一斉にどっと地面に倒れ込む。彼女たちの荒い呼吸が静まり返った室内に響いた。
「んじゃ、黒須野さんは勝ちだね」
「おい、ここまでやらせたんだからさすがにちゃんと言葉で説明してもらうぞ。じゃねえと彼女らにも失礼だろ」
「まぁさすがにそれくらいはやるよ。んじゃ君」
鴫山に促され、木ノ崎は受験者の一人を指差す。
「は、はぃ……」
「休みながらでいいよ。別に礼儀とかもいいし。――君さ、君の腕立て伏せ、あれでいいの?」
「――え、っと……どういうことでしょうか……」
「自分でわかるでしょ。途中からさ、下がってない、上がってない、形だけそれっぽいけど楽してる、手抜いてる」
彼女は黙り込み、気まずそうに下を向く。
「別に怒ってるわけじゃないよ。腕立てなんかどうでもいいし、それこそフォームなんかどうでもいいし。でもそれを自分で許すの? って話でさ」
「……あの」
「これがダンスなら?」
「あ……」
彼女は、顔を上げ木ノ崎を見た。
「歌なら? パフォーマンスなら? ファンサービスなら? 君、アイドルやるんだよね」
「……はい」
「その時さ、今の腕立てみたいなのを、早い話手抜きや妥協を、自分に許したいかな?」
「……許したくない、です……」
「だよね。アイドルに限らず、僕の知ってる女優でもモデルでもさ、上にいるのは自分に妥協を許さない人たちばっかよ。どんな些細な事でも、いついかなる時も、それが自己満足であろうとね、自分の中の理想を目指す、完璧を目指す、それに執着する。そういう欲望だけで生きてるような、それが至上の喜びみたいなさ、ヤバい人ばっか。だからこれはそういう話。他人からどう見られるかとかじゃなくてさ、自分がその自分をどう見るかっていう」
「……はい、ありがとうございます」
「お礼かぁ……はは、まあいいや。あーそっちの君」
「は、はい!」
「遅いし負けたけど、休まずちゃんとしたフォームで最後まで続けてたね。そういうのはいつか何かに役立つかもね」
「あ、はい! ありがとうございます!」
「そっちの君も、途中倒れて休憩入れてたけど最後までやったね。休んだっていいのよ。最後までやろうとするってのは大事よ」
「は、はい!」
「うん。で、まあ一応『負け』の四人。君たち全員黒須野さんが一〇〇回終わった途端にやめちゃったね」
その言葉に、四人揃って沈黙する。
「別にいいのよ。ただ誰も終わりって言ってないってだけで。黒須野さんの勝ちっては言ったけど君たちの負けとは言ってないし、勝ちはなくなったとも言ってないだけで。早い話、みんな自分で終わりを決めたよね」
その言葉に、四人は少し青ざめる。
「いいのいいの。どっちでもいいってだけのはなし。誰かが言ったこととかルールなんか関係なくさ、自分が一〇〇回やるまでやめたくないからやり続けるっていうのでもいいし、最初に一〇〇回できなかった時点で負けってやめてもいいの。自分の好きにしていいのよ。そりゃこっちのスケジュールもあるから延々やらせとくわけにもいかないしね。ただそこのラインは自分で決めるってだけの話」
そこで木ノ崎は一つ息をつく。
「この先君たちがどうなるかはわからないけどさ、やり続けることを自分で選ぶ、って場面が来るかもしれないのよ。もちろんその反対でやめることを選ぶ、って場面も。世の中そういうこと結構多いしね。まあ僕喋るの下手だけどさ、そういうのなんとなくわかってくれたら少しうれしいかもね」
『――はい、ありがとうございます』
四人は揃って、お辞儀をする。
「またお礼か。素直だねぇ。んじゃ最後、黒須野さん」
「――はい」
黒須野が、木ノ崎を見る。その目は疲労のせいもあり、ほとんど睨むに近い険しさと、なにより力強さがある。
「君の『勝ち』なわけだけどさ、『勝ち』ってなに?」
「……勝ちは勝ちです。ただそれだけです」
「一番最初に動いたよね。ほとんど躊躇なく。どうして?」
「……勝ちたかったからです」
「だよね」
木ノ崎はそれだけ言い、へらっと笑うと残りの四人と向き合う。
「まーアイドルに限らず芸能界ってさ、ほとんどスポーツみたいなものなのよ。僕もね、この人は間違いないなーって思ってスカウトすると大抵なんかしらのスポーツ経験ある人ばっかりだしね。まあ早い話、努力、練習、理想、目標、闘争、勝利。そういう諸々。戦いなんだよこれは。ほとんど自分との戦いだけどね。ま、今の腕立てうんぬんの言い訳させてもらうとそんな話。で、なによりも言いたいことはね――言葉なんか信じちゃダメだよ」
「――は?」
思わず絶句する鴫山。
「シギさんが絶句すんの?」
「そりゃお前、みんなを代表してな」
「ははは。まあ、特に若い人はさ、僕の言ってることなんか鵜呑みにしちゃダメよ」
「お前それ逃げだろ」
「違うって。シギさんならわかるでしょ。僕の口癖は?」
「……『見ればわかる』」
「そ。見ればわかる。すなわち行動と結果だね。行動と結果、その積み重ねの人生は君の肉体に表れる。誰が見てもわかるくらいに。アイドルだろうと、芸能人だろうと、そうじゃなかろうと。
だから理想を持とうよ。理想の自分を目指してさ、一挙手一投足妥協せず、人生を注ぎ込んで。そうして生きてりゃ、自ずと君という存在は君の理想に近づくから」
木ノ崎はそう言うと息をつき、ニカッと笑みを浮かべた。
「以上。いやー、一年分は喋ったね。もうしばらく口開かなくていいや」
自然、拍手が起こる。
「ははは、なに拍手なんかしてるのよ君たち。話聞いてた? 言葉なんか信じちゃダメって言ってるじゃないの。だいたい今オーディション中よまだ。ねぇシギさん」
「素直なんだよみんな。バカ正直とも言うが。まあお前の伝説あってのことでもあるがな」
鴫山はそう言い、半ば呆れた様子で事務所の社員たちを見る。
「さて! まぁかなり脱線っつうか、予定とは違う感じにはなったけど、君たち五人の審査は以上で終わりです。余計に疲れて大変だったろうけどほんとご苦労さまでした」
『ありがとうございました』
五人はお辞儀をし、部屋を後にしようとする。そこへ、
「黒須野さんこの後ヒマ?」
と木ノ崎が声をかける。
「あ、はい。時間はあります」
「そう。んじゃちょっと付き合ってもらっていいかな」
「――はい」
「悪ぃねぇ。シギさん、僕ちょっと黒須野さんと用あるから先失礼するね」
「あー? いいわけねえだろアホ。あと二組だぞ、最後までやれよ。つか待て――アレか?」
「うん、アレ」
「……ははは……いや、いやよっしゃ! どうだ俺の言ったとおりだったろ! 来てよかっただろてめぇ!」
いきなり一人テンションを上げて喜ぶ鴫山。
「そだね。素直に感謝するよ。っていっても別にまだ了承とったわけじゃないし」
「大丈夫だろそりゃ! よしよしよし……まーそれとこれとは話別だ! 残り二組お前もやってけ! 部長命令だ!」
「部長命令なら逃げられないね……すぐ戻るからちょっと待っててね」
木ノ崎はそう言い、黒須野を連れて廊下に出る。
「あと二組分だけ待っててもらうことになっちゃったけど時間大丈夫?」
「はい。この後は何も予定ないので」
「そっか。まーそんな遅くなるってこともないと思うからさ……ここでいいかな」
木ノ崎は適当な部屋のドアを開ける。中には机と椅子があり、誰もいない。
「悪いけどちょっとここで待っててね。多分三〇分もかからないと思うから。そのへんのなんかパンフレットとか見ててもいいし。んじゃ、っと忘れてた」
木ノ崎はそう言い、胸ポケットから一枚の紙片を取り出し机の上に置く。
「もし誰か来たらこの人にここで待ってるよう言われたって言っといて」
木ノ崎はそれだけ言い、「じゃまたね」と部屋を後にした。
残された黒須野は、机の上の紙片に目をやる。白い、小さな名刺。
「株式会社EYES 新人開発部 木ノ崎樹一郎」
それが、彼女と木ノ崎の出会いだった。