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ライブ・オブ・アイドル  作者: 涼木行
第八章 ドキッ! 女だらけのパジャマパーティー!! 野郎はなしよ!
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第十話 鬼のいぬ間



 一方その頃、ディフューズ宅。家に残った調理班は黙々と夕飯の支度を進めていた。


「――はぁ、めっちゃ落ち着くわ……」


 と新殿が感慨もひとしおといった具合に溜息をつく。


「すごい静かでいいですよね」


 と三穂田も同調する。


「ほんとな。あの二人、ってか縁がいないだけでこんな静かだったのかって感じだよな。こんな落ち着いたのいつ以来だろ……二人とも要領いいしさ、ちゃんとできるし、助かるわマジで」


「なら良かったです。うちも基本話すのは十子ちゃんですからね」


 と安積も言う。


「な。二人交換して欲しいくらいだわ。少なくとも家くらいはな」


「それ言うと同棲が完全失敗だったって話になっちゃいますよね」


 と三穂田。


「いや、失敗だろ?」


「……まぁ、個人で言うとそうかもしれませんね……少なくとも卒業するまではやめとけばよかったってのはあります」


「ほんとなあ。そりゃグループで考えりゃこの上なく成功だけどさ、週に一回はビジホでいいから外泊しねえと持たねえよ。あいつらはいつになったら大人になんだか」


「ならないですね一生」


「なんだよなぁ……そこはエアはいいよな。まあ今日に限っちゃ十子もあれだけどさ、みんな真面目でちゃんと落ち着いてるし。一緒いてそんな疲れないでしょ?」


「そうですね。疲れるとかはないですけど、でもそれこそ十子ちゃんに聞かないとですね。多分一番十子ちゃんが心労あるんで」


 と安積が答える。


「あぁ。まあ五十沢はなんとなくわかるけど、安積もそんなあいつになんか色々かけてんの?」


 と三穂田が尋ねる。


「そうですね、私も結構常識ないっていうか、変わってるとかは友達からはよく言われますね。それにアイドルとか芸能界とかは全然なんで、そういうところはかなり十子ちゃんに気回してもらってると思います。今日もちゃんと変装しなきゃって心配かけちゃって」


「それはそうだな。安積なんかは特にな。Lステ出たばっかなわけだし。でもそういうのは仕事じゃん? 私も仕事だったらいくらでもあいつらの面倒もみるけどさ、それ以外でふざけたことばっかされっとほんと持たねえよなあ……」


 と新殿が本日何度目かわからない溜息。


「大変なんですね。でも今日なんか見てるとすごく楽しそうにされてましたけど」


「……まあ楽しいは楽しいからな。ぶっちゃけ苦労の何千倍も楽しいことのほうが多いし。これ絶対あいつらには言うなよ」


「大丈夫です。けどそういうのコロッと言っちゃうのは晃ちゃんの方が危ないですね」


「やっぱそんなんかこいつ。てかほんとに喋らないな。ほんと料理うまいけど集中力がはんぱじゃないっていうか。これ聞こえてんの?」


「聞こえてますね。話しながら作業もできます」


 と五十沢は視線は変えず手を動かしたまま答える。


「おお。ほんとすごいな。集中したいから喋らない感じ?」


「というより話す必要を感じないからですね。聞かれたら答えますけど」


「なるほどねぇ。こりゃ十子も苦労するわ。普段はいいけどテレビとかじゃマジ大変でしょ」


「放送事故になるから喋らせないとか言ってましたもんね。まあ正しい判断な気もしますけど。言っちゃいけないことの判断とかつかない感じで」


 と三穂田も続く。が、それに五十沢は、


「判断はできますよ。しないだけで」


「いや、しなよ。というか逆になんでしないの?」


「必要性を感じないからですね。あとは他のことで忙しいんで」


 こいつ、改めてほんとすげえな、と三穂田と新殿は苦笑する。


「でも晃ちゃんも十子ちゃんには結構バンバン言うよね」


 と安積。


「そうですかね。まあ十子ちゃんには何言ってもいいんで」


「いや、それはそれでどうなの?」


「大丈夫ですよ。十子ちゃんは私が言うことは全部ちゃんと本気で聞くんで。十子ちゃんもそれ欲してますし」


「おぉ……なんというかすげえ自信だな」


 と新殿。


「自信じゃなくて事実ですね。別に私だけじゃないですし。十子ちゃんは誰の話でもちゃんと聞くんで。冗談めいたことでも。それわかってるんで私も言いますね」


「……それは信頼してるとかそういうこと?」


「別に信じてるわけじゃないですね。ただ知ってるってだけなんで」


 それを信じてるというんじゃないのか? むしろ確信というか……


「まあでもあんたらもなんだかんだベストの三人って感じだよな。最初はどうなのかとか思ったけどさ。そこはさすが木ノ崎さんだな」


 と新殿が言う。


「そうですね。ディフューズのみなさんも木ノ崎さんなんですか?」


 と安積が尋ねる。


「半分木ノ崎さんで半分鴫山さんかな。縁と美澄組ませたのが木ノ崎さんで、そこにうちら二人加えたのが鴫山さんってとこか。一応そっちも木ノ崎さん関わってるけどさ」


「まあ発破かけてきただけですけどねあの人」


 と三穂田。


「それな。そのためにも鴫山さん呼んだんじゃね?」


「そうなんでしょうけどまんまと術中はまった感じがむかつきますよね……」


「ははは。まぁお前はそうだろうな。私は感謝しかないけどさ。あの人もなー、もっとプロデュースとかやっていいと思うけどね。そりゃスカウトが一番だろうけどさ、自分で集めて自分で組ませてってのもっとやっていいじゃん。エア見りゃその能力あんのもわかるし。あの人またスカウトに戻ったんでしょ?」


「ですね。たまに差し入れとかお土産で顔出しますけど、でも前よりは全然。でもこの前のLステみたいな時は十子ちゃんが無理やり引っ張ってきます」


 と安積が答える。


「そっか。まああんたらの船出も一段落だしな。でも鴫山さんが放っておくわけないからな。念願の部長なわけだしもっと木ノ崎さん使って色々やるんじゃね? 木ノ崎さんにその意志はなさそうだけどさ」


「あの人根っからの自由人って感じですもんね。何にも縛られないで好きにその辺ほっつき歩いて気が向いたらスカウトしてるのが性に合ってるんじゃないですかね」


 と三穂田。


「かもな。それで縁だの安積だの五十沢引っ張ってくんだからたいしたもんだよほんと。そこは難しいとこだけどさ、実際うちにはいいマネージャー沢山いるからな。木ノ崎さんはスカウト集中してあとは他に任せても全然問題ないわけだし。実際うちのこの十年はスカウティング力が物言ったって感じだしよ。まあスカウトも育成もどっちも大事って話だな」


「そうですね。三部に限って言えば鴫山さんが部長になったから今まで以上にバシバシ育成に力入れるでしょうし。まあ片方じゃなくて両輪ですよね」


「ほんと。現場いると強く感じるよ。てかこれ全部五十沢に任せちゃってても大丈夫じゃね? 何も言わなくても一人で黙々進めてるし。客にやらせんのもあれだけどさ」


「良かったらお二人は休んでてもいいですよ。話聞いてると普段から料理やられててすごく大変そうなので」


 と安積が言う。


「それはそっちも同じでしょ」


「でも私も最近は帰り遅くてあんまり料理してないんですよね。買ってきたのばっかりで」


「そうだよなー。親も仕事忙しいんだ」


「そうですね。なんで今までは私が作ることがほとんどだったんですけど、仕事も増えてそれもちょっと難しくて」


「だよなー。うちらも春までは一人暮らしだったからさ、必然外食と買い食いよ。要なんか勉強もあっからな」


「だから縁さんたちも料理くらいできるようになれって話なんですよほんと……てか五十沢はなんでそんな料理できんの? 五十沢も家で料理担当?」


 と三穂田が五十沢に尋ねる。


「うちはみんなやりますね。その時々で時間ある人が。今までは私が一番暇だったんでよくやってましたけど。あとは友達が料理好きなんでよく一緒にやってましたね」


「なるほど。あの親も普通に料理とかやんだな……」


 というかこいつ友達いたんだ、と思ったがそれはさすがに口にできなかった。


「どう晃ちゃん。そっちだいたい終わってる?」


 と安積。


「そうですね」


「じゃあお二人は休んでてください。こっちも終わったら休むんで」


「そう? んじゃお言葉に甘えるわ。悪いねほんと。なんかあったら遠慮なく呼んでよ。調味料の場所とかさ」


 新殿はそう言い、エプロンを取るとソファに横になる。


「悪いけどあいつら帰ってきたらそっこー起こしてな。駐車場のシャッターの音とかでわかると思うからさ。あとすげえうるせえし。んじゃほんと悪いけどちょっと仮眠とらせてもらうわ」


 新殿はそれだけ言うと、ほんの五秒後には爆睡状態へと入っていた。


「すごい早いですね」


 と安積が言う。


「うちらはみんないつどこでも眠れるような体になっちゃってるからね。移動中とか車の中でも少しでも寝ないとだしさ。訓練してたら案外できるようになるもんだよ」


 と三穂田が答える。


「じゃあ私も悪いけど、お言葉に甘えて自分の部屋で勉強させてもらうね。あんたらも学校の課題とかあるんだろうけど私ほら、一応受験生だからさ」


「あーそうですね。受験するんですか?」


「まだちゃんとは決めてないかな。安積はするの?」


「私もまだ決めてないですけど、でも選択肢は多いほうがいいですからね」


「それなんだよね。まあどのみち課題山ほどあるし。あ、さっき言ってた調味料だのなんだのわからなかったら舞さん起こして聞いていいから。別に寝てても遠慮なくさ。この人寝起きめっちゃいいしすぐまた寝るし。先輩たちが起こすとすげえ機嫌悪いけどね」


 三穂田はそれだけ言うと部屋を出て二階へと上がるのであった。


「さて、じゃあやろっか晃ちゃん。私こっち全部やっていい?」


「ですね。そっちは全部任せるんで私もこっち全部やります」


 と五十沢は視線を切らずに答える。そうして二人は他人の家の見知らぬ台所で共同作業、もとい分担作業へと移るのであった。



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