プロローグ
「君、主人公っぽいじゃないの」
そう、木ノ崎さんは言った。何故か今、その言葉を思い出した。
理由はわかっている。だって今目の前のこれは、すごく主人公っぽい。あの日欲しいと思った景色が、恋い焦がれてきた光が、手を伸ばせば届くほどすぐそこにある。
うるさいほど高鳴る胸。飛び出したくてうずく脚。あと少し。あと、もうすぐ。
「気負ってるねぇ」
すぐ側で声がする。振り向くと、後ろで木ノ崎さんがいつものしまりのない顔をこちらに向けていた。
「気負ってますか?」
「さあ?」
これだ。この人はどこまでもいつも通り。まあ別に自分が出るわけじゃないから当然だろうけど、それでも初めてプロデュースするアイドルの初ステージまであと少しだというのに、まるで自分は関係ないといった様子。どこまでも飄々と平常運転。でも今はそれも助けになる気がする。
「そういえば木ノ崎さん、私に主人公っぽいって言ったの覚えてます?」
「そんなこと言ったの僕?」
「はい。初めて会った日に」
「ああそう。言うねー僕も」
「それだと覚えてないんですね」
「まー覚えちゃいないけど、そういうこと言う理由はわかるよ。だって君主人公っぽいし。スポ根マンガの主人公だけどね」
「……そういう木ノ崎さんも結構主人公っぽいですよね」
「僕はあくまで脇役よ。僕らはどこまでも脇役。主役はいつだって君らだよ」
木ノ崎さんはそう言い、他の二人を見る。
「――で、なんでスポ根マンガの主人公なんですか?」
「まあスポ根マンガの主人公も色々だけどさ、やっぱ努力するじゃない。天才じゃなくて平凡で。でもそれが死ぬほど好きでさ、血ヘド吐いてでも手に入れたい夢があって、勝ちたくて勝ちたくてしかたない。そんでバケモンみたいに天才のライバルがいてさ、逆立ちしたってかなわないような憧れの先輩がいて。ほら、君でしょ。まんま」
木ノ崎さんはそう言い「どうよ」といった具合にしたり顔。
「それ、今だから言ってますよね? ほんとに会ってちょっとで思ってたんですか?」
「別に思っちゃいないよ。見ればわかるからね」
「……あの時もですか?」
「そりゃね。見ればわかる。だから君入れたんじゃないの」
「……ほんとすごいですね、その目」
「まあね。てかそれ君も同意してるってことだよね、僕の目に」
「――それは、木ノ崎さんが一番よくわかってますよね」
そうだ、あの光が目の前にある。
そしてそれは、始まりにすぎない。
「だって私――主人公ですから」
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