第二話 下は大火事
「――では、今後については今の話である程度把握できましたけど、今一度木ノ崎さんの中でのコンセプトといいますか、このユニットにおいて一番重要なのは何だと考えていますか?」
と鷺林が尋ねる。
「そりゃ『見ればわかる』でしょ。前も言ったけど」
「それは『視覚情報に特化』という認識でいいんでしょうか?」
「まーわかりやすく共有っていうならそうかもね。言葉じゃなくて視覚、体験、体感、共有、一体。ま、やっぱライブを一番に置きたいよね。みんな学生だから本数こなすのは難しいだろうけどさ、そもそもが五十沢さんから始まってるわけだからね、このユニットは」
「そうですか……いるものいらないものといいますか、やることやらないことはっきり決まってますよねおそらく。木ノ崎さんの中では」
「そうだね。まー普通の、一般的なアイドルと同じようにってつもりはないよ。バラエティはいらないよね。トークも基本はなしで。ライブのMCはやるけどさ。握手会だのチェキなんてもってのほか。会いにいけるアイドルとか言うけどさ、逆ね。もちろんライブで会いにいけるけど、あくまで見る。三人はステージの上、そこから降りはしない。そういう距離っていうかさ、『遠さ』ってのは一つのポイントかな」
「主流とはかなり真逆をいきますけど、セールス的にそれで問題ないとお考えで?」
「まあね。というよりさ、君は彼女ら見てどう思う? あの三人。特に五十沢さんと安積さんだけど、あの二人に本当に『降りてきて欲しい』って思う? そういうの想像できる?」
「そうですね……正直、合わないと思いますね。けれどもあの二人がどうしても距離、遠さを感じさせる以上、少しでもその距離を近づけてあげるというのも我々の仕事として必要なことだと思います」
「多少はね。ただそれはね、近づけるとか、会いにいけるとか触れるとか一緒に写真撮れるとか、ましてやバラエティやラジオやトークでの親しみとか、そういうのじゃないよね。あくまでファンの方で勝手に追わせるって話で。放っておいたってそうなるけどさ、その面を演出で強調してさ。ま、そういう話でいうと黒須野さんにそのへんの仲介みたいなのうまく担ってもらえればいいけどね。それと一応これユニットでっての話だから。個人としては別ね」
木ノ崎はそう言い永盛を見る。
「安積さんなんかはもうモデルやってるし、それは普通に続けるだろうし本人が望むなら何でも挑戦させていいし。もちろんある程度イメージから逸脱しないってのは当然だけど。そのへんは黒須野さんもね。彼女なんかは元からアイドル志望だからそのへん抵抗ないだろうし、色々やるでしょ。やりたいことは」
「そうですか……あの、五十沢さんは?」
と永盛が尋ねる。
「彼女はいいよ。やらないだろうし、興味ないだろうしね。あの子はパフォーマンスだけ見せれば十分じゃない。そもそも向いてなさすぎでしょそれ以外のもろもろ。あの感じだしさ」
「まぁ、それは確かにですけど……」
永盛は普段の五十沢の様子を思い出し、答える。
「だよね。まー特に言葉だけど、彼女は話すことには極力参加しなくてOK。ライブで軽く、まぁ音楽番組とかに出る機会があったらそこでも軽くでいいでしょ。ビジュアルはかなり特異だからそっちの仕事は来るだろうね。モデルとかもさ。動きが少ないからつまらないだろうしあんまやりたがらないかもしれないけど、そういう仕事は回してっていいんじゃないかな」
「わかりました。現時点で曲や衣装のイメージとかはあります?」
と鷺林が聞く。
「それはプロにお任せだね。プロなんだからちゃんと彼女たちに合うものを作ってくれるでしょ。そもそもそこから外れてるって人に頼むのが間違いなわけだし、それは僕らの責任だから。そこだけ気をつけて、あとは出来上がったものと各々対峙してじゃない? 僕も初めてだからそのへんはなんともだね。ま、全部発注前に気をつけりゃいいのよ。衣装に関しては、動くってのが大前提だからね。動けない服、激しい動きで破れるもんはNGでしょ。あとはまぁ、シンプルな方が合うんじゃない? 色は少なめ、大人しめで、線も少なめ。基本は三人同じものでさ。色分けとかもいらないし。まぁ、あえて言うならかわいいよりかっこいいじゃない?」
「了解です。ボーカルはどう考えてます?」
「それねー。まぁそもそもが五十沢さんがベースっていうのもあるけど、多少視覚寄ってるからね。下手じゃないけどはっきり上手いわけでもないし、現状唯一の弱点かなーってのはあるかもね。でもみんな才能あるし訓練すればかなり良くなるでしょ。ライブがメインである以上必須だし。今の段階だと黒須野さんが一番かもだからね。まぁそのへんは曲やダンスとの折り合いもあるし、あくまでメインはダンスだからね。とにかく練習あるのみでしょ。全部もっと上げてかないとだし、まだ始まったばっかりだしね」
「そうですね……ありがとうございます。とりあえず以上なので永盛さんどうぞ」
「あ、はい――そういえばですけど、プロフィールとか一切出さないって話でしたけど安積さんはすでにモデルとして活動してるので正体がバレると思うんですが」
「だろうね」
「え、いいんですかそれで?」
「いいでしょ別に。隠してるわけじゃないし、別に知られたくないとかでもないしね。ただとりあえず何も言わないってだけよ。誰かが気づいて拡散しようがそんなのどうでもいいじゃない。むしろ詮索で勝手に大いに盛り上がってよって感じでさ」
「そういうのですか……でもそうなると安積さんにかなり迷惑をかけてしまうのではないでしょうか」
「多少はね。丁度春休みの時期だから学校の方は大丈夫じゃない? LINEとかでならともかく直接言われることは少ないでしょ」
「それはそうですね……街中で、見知らぬ人に聞かれたらどう対処させます?」
「それは本人が決めることだよ」
「え? いや、それは流石に」
「いいじゃない。そういうのは自分の意志が一番よ。さっき言ったとおり別になにがなんでも隠し通さなきゃって話じゃないの。あくまで公式には黙ってますよーってだけでね。ただの演出。コントロールできない部分は気にしないし、はなからそれでどうこうなるようなものでもないわけじゃない。ま、とにかくその時になったら本人らに確認すればいいだけよ。嘘にせよ変装にせよ各々望むようにすればいいってさ。場合によってはなるべく僕らが車出せばいいだけだし」
「わかりました……あと、こういうの聞くのもどうかと思ったんですけど、一応伺っておきたいと思いまして。木ノ崎さんは三人の中で誰が一番重要だと考えてますか?」
「重要ねぇ……その前に二人はどう考えてるか聞いてもいい?」
「あ、はい。えっと」
永盛は鷺林と顔を見合わせる。
「では私から」と鷺林が軽く手を上げる。「私はやはり五十沢さんだと思いますね」
「へぇ。なんで?」
「やはりセンターだというのもありますけど、あらゆる点で彼女が中心だと思います。そもそも木ノ崎さんが彼女をスカウトしたとこから始まった、彼女を中心にメンバーを選びユニットを組んだ、ということを考えても木ノ崎さんにとっても彼女が中心なのではないでしょうか」
「君としてはどう思うの?」
「もちろん木ノ崎さんがスカウトしたからというだけではないです。見てわかりましたが、彼女は本当に本物です。誇張抜きに十年に一度出るか出ないかの才能でしょう。ダンスに関しては正真正銘の天才ですし、オーラ、容姿がかなり常人離れしていて際立ってますね。立ってるだけであれですから、ステージで踊ればカリスマ性はすさまじいと思います。時代、世代のアイコンになれるだけの存在だと思います。まだ始動したばかりですが、他のアイドルグループと全く異なる存在にしているのも彼女の存在が大きいと思います」
「なるほどねぇ……永盛さんは?」
「私は、もちろん多少贔屓目はありますけど、それを抜きにしても安積さんだと思います。彼女は最年長ですし、リーダーでもありますので」
「ふーん。詳しくどうぞ」
「はい。五十沢さんは、本当にすごいです。彼女が中心、彼女がいるからこそ対等になれる存在として安積さんを選んだのもわかります。けれども五十沢さんは、その、かなり危うい面も多いと思います。ああいう、本当に天才というか、天才ゆえにどこかズレてるような子は初めて見ましたけど、それは多くの人が関わるアイドルという仕事をやっていく上ではかなり危ない部分も多いと思うんですよ」
「はは、まあね。彼女は飽きたらすぐ辞めちゃうかもしれないし」
「いや、でしたら」
「だからこそ彼女が飽きないようなことをし続けるしかないのよ。変化、進化、多彩、闘争。飽きるにゃ早いぜって見せてやんなきゃ」
「はぁ……とにかくですね、そういう部分がある以上、彼女をコントロール、といいますか、全体をしっかり支える存在がかなり重要になると思います。現状それができるのは安積さんしかいませんから。彼女のリーダーとしての資質は正直まだわかりませんけど、彼女にははっきり芯がありますし、五十沢さんとは異なりますけど才能の塊です。オーラ、持っている素質の強さでは引けを取りません。そういう意味で対等、それ以上であれるのは安積さんだけですから」
「なるほどねぇ……ちなみにシギさんはどう?」
「俺も言っていいの?」
「二人の後だからいいでしょ。どうぞ」
「そりゃ黒須野しかねえだろ」
「だよね。やっぱ意見合うね僕ら」
「というより俺の場合は経験則だよ。ぶっちゃけこのユニットがどうなるかは黒須野次第だろ」
「うん、まー近いけど僕の見方はちょっと違うかな。そもそもね、黒須野さんがいないと飛ばないのよ、このユニット。五十沢さんが上、安積さんが真ん中、黒須野さんが下だからね」
「――どういう意味でしょうか」
と鷺林が聞く。
「うんとね……描いたほうがわかりやすいか」
木ノ崎はそう言い、立ち上がるとホワイトボードの前に行き何やら絵を描く。
「どう? わかる?」
「……ロケット、でしょうか」
「おしい。まぁほぼ一緒だけどね。ミサイルよミサイル。まーロケットってことはそこまで酷い絵じゃなかったってことだね」
「というか選択肢なさすぎんだろそんな絵。下手すぎて逆にわかるわ」
と鴫山が茶化す。
「シンプルが一番ってことよ。まーミサイルなんだけどね、五十沢さんが一番上。ここ。核弾頭」
と木ノ崎は言い、ミサイルの先端、尖った部分を指す。
「核弾頭ってお前」
「もののたとえよ。要するに弾頭。火薬。爆弾。ミサイルがどれくらい爆発するか、壊せるか、その威力ってのは弾頭の火薬で決まるでしょ。まぁよく知らないけど。五十沢さんはこれよ。爆発させるのは彼女。で、次」
木ノ崎はその下、真ん中部分を指す。
「安積さんがここ。真ん中っていうか、まぁ全体? 外装っていうかさ、まぁボディよ。これが曲がってたり凹凸があったりしたらさ、ちゃんと真っすぐ飛ばないでしょ。飛距離も落ちるし、精度も悪くなる。そもそも頑丈じゃないと衝撃に耐えられず爆発、空中分解。ついで言うとパッと見の外観のかっこよさもボディがほぼ全てだよね。で、最後。一番下」
木ノ崎はそう言い、一番下のギザギザした部分を指す。
「エンジン。ファイヤー。炎よ。そもそもこいつが点火しないとミサイルはミサイルじゃない。飛びやしない。ただの置き物。飛ぶかどうかは炎次第。どこまで飛べるかも炎次第。どれだけ速いかも炎次第。飛べるか否かは、全部ここ次第」
木ノ崎はそう言い、ニッと笑う。
「彼女は炎だよ。彼女自身が炎だし、上の二人の尻に火をつける。それができなきゃ、彼女がここにいる意味ないよね」
その笑みは、ほとんどそこにいない黒須野への挑発であった。




