第7話 魔法とは
アリアとクロノの母、リリーのスキル≪映写≫を一発で再現したアベル。 周囲に漂う魔力を通じて、初めて自力で見る世界。 クロノの≪複写≫のように、人間の視界を再現したものではないので、美しい風景やその鮮やかな色合いは見えないが、シルエット状に周囲の空間を感じ取れる。
……そんな空間の中に、一匹の獣が飛び込んできた。
「「!?」」
アベルと、同じく≪映写≫を使っていたリリーが同時にそれを察知する。
「ワン!」
一瞬遅れて、リオが察知。
ダッ、と駆け出すアベル。
「アベル君!?」
「あれ、アベル。 どうしたんです?」
疲労したクロノは気付かない。 こちらに向かってくる殺気を纏った獣の方向に、アベルが駆け出して行ったことに。
「大丈夫! ……試したいんだっ!」
この世界に転生して、初めて使いこなせた≪映写≫。 そしてさっき失敗した炎魔法。
何度も何度も転生を繰り返してきた自分にとって、炎の魔法を使いこなすなど造作もないと、そう思っていた。 だからこそ、失敗したのが悔しい。 だが今の俺ならできる。
そんな根拠のない自信がみなぎる……!
ザッ、と草の垣根を突き破る音とともに、
「プギェァーーーッ!!」
大きなイノシシが飛び出してきた。
(今度はいける! 自分は燃やさない炎……。 思い通りに炎を操るイメージ……!)
同時に、リリーの≪映写≫に、周囲の魔力が激流のごとくアベルに吸い込まれるのが写る。
「!?」
「魔法はもう、俺の一部だッ! 『ファイア』!」
――嗚呼、この前の手のひらの上の小さな炎のなんと可愛らしかったことよ。 その『ファイア』は、≪映写≫の瞳を眩ませるほどに膨大で。 もはやそれは「火柱」と呼ぶべき巨大な炎となって……一片の容赦もなく、飛び出してきたイノシシを丸焼きにした。
「はぁっ、はぁっ……、よっしゃ……っ、俺…魔法を……っ」
言い切る前に、俺はその場にバタリと倒れてしまった。
「アベル君!」「アベル!?」
◇◇◇◇◇
……目覚めた後、ケイルさんから、村長として出席していた葬式中に村中から見えるような火柱が上がったこと、あれは何だったんだと。 とにかく色々とお説教されたし、心配もされた。
あのイノシシが、狩りの途中で逃がしてしまったものだったらしく、こんがり仕留めてしまって若干感謝はされたが……驚きと呆れたような反応がほとんどであった。
「全く……先に言わなかったのは僕の責任ですが、イノシシが出たからって≪映写≫と同じ感覚で『ファイア』なんて放ったらそりゃ火柱が上がりますよ。 というかあれを制御し切って見せるなんて、ホントにアベルは何者なんですか……」
「すいません……」
魔法の発動に用いる魔力。
これは現実を歪めるだけのエネルギーを持ち、人々は想像を現実に実現するために魔力を用いて現実を歪める。 しかし、その想像にも規模の差がある。
例えば、手のひらサイズの火をおこすことと、自分の周囲の空間を犬の嗅覚より正確に認識することと。 どちらの規模が大きく、エネルギーを消費するかなど言うまでもないだろう。 このアベルというバカ者は、今までの異世界と同じつもりで、「ファイア!」などと、自分が制御できる炎を手のひらから放出するという姿を想像して魔力を流し込んだ。
“自分の周囲の空間を犬の嗅覚より正確に認識する”のと同レベルの魔力を、だ。
現実を歪める力が、想像という土台に乗りきらないほどに注ぎ込まれた。
想像をはるかに超え、
想定をはるかに超え、
そよ風が、暴風に。
水流が、激流に。
そして炎は巨大な火柱と化した。
◇◇◇◇◇
「魔法基礎、常識講座―っ!」
「いや、あの……」
「ワン!」
「ダメです! 逃がしません。 アベル、あなたには常識のじの字から教えないとダメですッ…!!」
「ワォン!」
「……なんだ、あれ」
「常識外れの魔法使いの卵と、変に教師魂に火のついた私の弟ですよ」
「……」
「いいですか? まずそもそも魔力とは……」
ちょっとした騒ぎを起こしてしまった俺は、だいぶ長い時間授業を受けることになったのだが……クロノの説明はわかりやすかった。
魔法とは、という説明から始まったそれは、いくつもの世界で魔法を使ってきた俺からすれば眠たくなるもので、
ぶっちゃけ最初が一番眠たかった。
……それと、俺が自然とやってしまった「ファイア」と声に出したことについて。 詠唱と呼ばれるこれは、今までの世界では特に何も考えずにやっていたが、この世界での魔法における「詠唱」は、魔法の基である「想像」が難しい魔法の行使や、想像するのが苦手な者のためにあるという。
前者は、例えば複数の現象を同時に引き起こしたりするものがある。
≪複写≫などはまさにそれで、視界を把握して、イメージ化して、複写先を把握して、複写先に合わせた形にして、ようやく魔力を通して複写開始。 魔法で再現するならばこれを瞬時に行う必要がある。 クロノの≪複写≫は、生まれ持ったものであるので、眠っていてもできるくらいに使いこなしているが、他人の場合はこれは容易ではない。
『君たち現代日本人が、2x2=?と聞かれ、瞬時に4と答えられるようなもので、キーワードに合わせて反射的に出せるように、完全に手順を記憶してしまう状態を想像してみると分かりやすいだろう』
後者は前者とも近いが、誰かの模倣をするときに使う。
これは、魔法の汎用化に役立てられている。 この世界では、親か、学校か……大抵どこかから魔法を教わるのだが、そこで学ぶいわゆる「誰もが教わる常識レベルの魔法」に「詠唱」が用いられる。
魔力の使い方を教わった後、「ファイア」と唱えて炎を出す先生を見て、自分に置き換えることで想像する。 想像するのが苦手な者や、初めて魔法を扱う者はこうして基本的な魔法を習得するのだ。
魔力の説明は難しかったが、俺は感覚的にすぐに理解できた。
今までの世界の魔法とは少し感じが違ったが、流動的な……水のような感覚だ。
激流が少量の水でも砂を削り取るように、
穏やかな多量の水が砂と混ざるように、
魔力にも量と勢い、圧力がある。
緩やかな勢いで多量の魔力を使うのは、治癒などの魔法が代表的で、
少量の魔力を一気に放出するのは、射撃などの攻撃魔法が代表的だという。
しかし、これだけ「扱い方」は解明されているのに、魔力そのものの正体はほとんど解明されていないらしい……
そして、魔法属性と、体内・体外の魔力についてだ。
魔法を扱うために使う魔力。 体内にある魔力と、体外にある魔力。
これは非常にシンプルだ。 呼吸と全く同じ。 呼吸や食事などから常に周囲の魔力を得、血中に流れている。
『空気中の酸素を吸って、二酸化炭素を排出。 肺の中の酸素を使って筋肉や脳を動かし、酸素がなければ脳も筋肉も動かない。 血中の酸素が急激になくなると倒れてしまうのと同じさ』
魔力は世界規模で循環しているという説が現状の最も有力な説だが、
空気中に大量に魔力があるため、さほど心配する必要がないとして、これもまた研究は進んでいない。
『君たちが呼吸をして、「世界の酸素がなくなってしまう!」などと心配することがないのと同じだ』
最後に、魔法属性について。
この世界の魔法は「想像」を基にしているために、魔法には大衆の似通った「想像」による偏りがある。 それが「魔法属性」。
『例えば君は、「魔法」と言われてどんなものを想像するだろうか? おそらくは「火」「水」「風」「土」といった、いわゆる四元素などが思い浮かぶのではないだろうか。 君たちの世界の人類が古代ギリシアの時代にそう考えたように、この世界にもそういった考えがあり、多くの魔法がそれらに連なって発展した。 故に、「属性」という名で系統の偏りをまとめているのだ』
この世界の属性は、基本属性と発展属性、そして特殊属性と、原点属性の四種に分けられる。
基本属性と発展属性はセットで1種と考えてもよい。
これは、「火」「水」「雷」「風」「土」の五属性。
それと「水」を除く四属性には発展属性と呼ばれるものが存在し、
火には炎、さらに爆。
雷には磁、さらに粒。
そして風と土には一つずつ、斬と、晶と呼ぶ発展属性がある。
基本属性はほぼすべての者が扱える属性で、言うなれば「想像しやすい」属性だ。 基本属性を発展させる発展属性も、ほとんどの人間が魔法学を学べばある程度習得できる。
また、属性には相性が存在する。
これも理由は同じく「想像」にある。
水が燃える姿を想像するのは難しいだろう?
故に水は火に強く、火は水に弱いのだ。
特殊属性は、その名の通り特殊な属性。
基本属性・発展属性にはない特殊なもので、使える者が限られる。
特殊属性は、基本属性以外の全属性を指すが、特殊属性の中でも使い手が多いものがある。
代表的なのは「氷」「毒」「草」。それと、「光」と、「闇」、それぞれ発展形の「聖」「魔」。
これらが特殊属性と呼ばれる理由もまた「想像」にある。
「氷」。つまり物が凍る様子を想像できるだろうか?
なかなかそれは難しいだろう。
だが特殊属性である「光」と「闇」に発展形が存在するのは、特殊属性の中でも扱えるものが多いから、という訳がある。 大変ややこしいが、物が凍るさまを想像できるものが少なく、光がものを照らすさまを想像できるものが多いのは理解できるだろう。
最後に、原点属性。
これは厳密には特殊属性に分類される、特殊属性の中でもさらに特殊な、扱えるものがほとんどいないという属性。
「時」、「魂」、「空」の三つ。
非情に概念的で、理解して想像するなどほとんど不可能であることはわかるだろう。
「時」を理解するなど、
「魂」を理解するなど、
「空」を理解するなど、
常人には不可能。
先人たちは、これらを世界を構成する原点……
「原点属性」と名付けた。
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