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第6話 会得、≪映写≫!

 

(……ん、目が覚めてしまったな……。 今は夜……だよな。 どれくらいの時間なのだろう……)



(話し声……二人の両親の声だ)



「それで、一応詳しく聞いておこうか。 リリー、彼に何を見た?」

「……」

「……お前が「≪映写≫を再現できる」なんて言うほどの魔力が、彼にあったんだろう?」



「彼から……神や、精霊の類の気配がしたの」



(なんだそれ!? 神? 精霊?)



「神に精霊、か。 敬虔な一聖職者くらいであってほしいが……そんなわけはなかろうな」

「貴族かとも思ったけど……もしそうなら、今頃探しが来ている。 身寄りがないのがおかしい」


「彼に≪映写≫を教えるといったのはなぜだ?」


「それは単純に、何も見えないのでは大変だろうと思って。 それに、あれだけの魔力があれば、きっとできると思ったの」

「うーむ……そうだな。 まぁ、お前が彼に邪悪さを感じなかったのなら、大丈夫だろう」



(……俺は一体、何者なんだ?)




 ◇◇◇◇◇




 この世界に転生してから、初めて迎える朝。

 今までは何とも思っていなかったが、寝ても覚めても真っ暗で何も見えないと、お日様の暖かさに、眩しさが、酷く恋しくなる。



「では今日は、魔法学の発展の歴史からお話しします!」

「クロノ~、そんなのつまんないわよー……」

「朝ごはん、ちゃんと食べてね? みんな。」

「「はーい。」」「ありがとうございます!」



 俺は今、昨日提案してもらったリリーさんのスキル≪映写≫を失った視力の代わりにするというのを実現するため、魔法を用いてのスキルの再現を教えてもらって……いや。 その前段階の、「魔法とは何か」から教えてもらっている。



「いいんですよ、僕が今ちょうど子供たちに教えている分野ですから。 退屈はさせません!」

「おねーちゃん歴史は苦手よー、先生……」

「はいはい。 で、まず魔法学のルーツとなったものから……」



 ……結局色々と説明してもらったが、確かにこの世界の歴史は面白かった。



 この世界での魔法学の発展は、それより前に存在していた“神術学”という、今でいう”スキル”の研究から始まった学問が大きく、その源流にいるという。



 そもそも魔法とは、スキルの研究から派生して生まれた、「スキルを誰でも使えるように」という、いわゆる汎用化の研究がルーツらしい。 汎用化の研究が進むにつれ、スキルはやがて魔法の得意不得意程度のものと考えられるほどに「スキル」を基に体系化された「魔法」が普及し、スキルも魔法も同じ「魔力」を使用して行使されることから、今では学校に通えない人や、通ったことがない人などは、自分の「スキル」についてを知らずに一生を終える者も多いという。


 幸か不幸か、数えきれないほどの異世界を渡ってきた俺は、この世界での「魔力」の感覚はあっという間につかむことができた。


 これまで渡ってきた世界のそのほとんどで、魔法やスキル、あるいは妖術、霊術といった超自然的現象・能力が存在し、それを使いこなしてきた。 慣れたものである。



「すごい! こんなにすぐ感覚をつかめるとは!」

「うーん。 アベルはさ、もしかして私と同じ魔法剣士だったんじゃない?」



 アリアにそう言われた。 案外そうかもしれない。



「それではまず、あー……」


「ん?」


「いや。 目が見えないので、最初に教える魔法を選ばなくちゃ……」


「そうなのか?」


「ええ。 魔力の感覚と、魔法発動の感覚は別物ですから。 目が見えないとなると、うーん……」


「ねえアベルくん。 手のひらから炎を出す自分、想像できる?」


「……え?」

「あー。 なるほど、そういうことですか母さん」


「どういうことですか先生」


「フフッ……ごめんなさい。 母さんは色々話の道筋を飛ばしちゃってますから。 ……説明しますね」



 なぜそんなことを聞いたのか。

 それは魔法発動の仕組みによるものだった。


 この世界での魔法の発動には、「想像すること」が必要不可欠らしい。 例えば、手のひらから炎を出す、というのを魔法で実現したければ、自分がそうなっている姿を想像し、その想像と現実との差を埋めるために魔力を用いて、現実を歪ませる……というのが、魔法発動の仕組み(メカニズム)だという。



 故に、炎が燃えるところを見たことがあれば、容易に炎を想像できるし、逆に見たこともない現象を正確に想像するのは難しい。 目の見えない君は、自分自身が炎を放つ姿を想像できるか? という質問の意図はこれである。



「……俺、たぶんどんな魔法でも使えると思います」



 炎だろうが、雷だろうが……俺は今まで数々の異世界で魔法を使ってきたのだ。 今更それくらい楽勝だろう。



「あらあら、すごい自信ね。 うふふっ」

「その意気です。 アベル!」



 しかし、彼らの言葉の一か所に、引っかかるところがあった。 炎を放つ「自分の姿」を想像できるか。 これだ。



「あの……炎は想像できると思うけど、自分自身の姿が分からなくて」

「あー、そうか。 自分の姿がわからないんですね。 でも、それなら僕の≪複写≫にお任せあれ!」


「ああ、頼む」


「では……≪複写≫」



 クロノの視界を≪複写≫してもらって見る、この世界に転生した自分。 初めて見る自分のその姿は、いつの間にかそばにいた狼犬リオの毛並みような暗い銀色のフサフサの髪に、濁った灰色の……光のない瞳の青年だった。



「若いな……」


「ワン!」


「あはは、自分で言いますかそれっ」

「なかなかの色男よねっ」


「確かに、むしろちょっと腹が立つレベルですね……」



 自分自身の姿に、我ながら少し見惚れていた。



「さて、物は試しです。 アベル、やってみてください!」

「ああ……じゃあまず、さっき言ってた炎を」



 ――想像する。

 前方に突き出した自分の手のひらから、炎が放たれる様子を。 そして、想像に魔力をのせていく……想像という土台に、魔力という土を盛るようなイメージ……



 ボッ、と音がして、手のひらに火が起きた。



「「「おーっ!」」」

「熱ッッッ!!!」




 …………




「ははは、あんまり恰好つかない感じになっちゃったな……」

「いえいえ、十分すごいですよ! 想像がよかったのか、それとも魔力をうまくのせられたのか。 どちらにせよ、素晴らしい才能です」

「いやあ……アリアは、自分の炎に焼かれないようにしながら戦っていたのか。 すごいね……」


「いや、そんなわけないでしょ!」



 自分が作り出した炎に自分で焼かれてしまうところだった。



「あははっ……アベル、今あなたは多分、自然の炎を想像しましたね?」


「ああ。 でもその言い方だと、自然じゃない炎があるのか?」


「そりゃあ、魔法ですから。 自分は焼けない炎を想像すればいいのです」

「あー……なるほど」



 先入観に囚われすぎていた。 そう、これは魔法なのだから……そういうことも可能だろう。



「うん、魔法のほうは十分使えそうねっ!」

「ええ。 ≪映写≫も、試してみましょう」


「……そういえば母さん、≪映写≫ほど複雑なスキルを教えるなんて、僕もやったことがないんですけど。 どうするんです?」


「そうね、≪映写≫や≪複写≫は魔法で再現するのが難しいものね。 でも、あなたの≪複写≫を使えば、それもずっと楽にできるんじゃない?」



 ……俺もクロノも、その意味が分からずポカンととしてしまった。



「ほら、クロノ、アベル君! 私とあなたたちと、三人つながるように手をつないで!」


「……あ、そういうことか!」

「どういうこと?」


「大丈夫です。 このまま待っていてください」


「さぁ、行くわよ? ≪映写≫!」



 すると、俺の感覚に、これまでのクロノの視界とは違った感覚が≪複写≫されてきた。



「これは……!」



 自分の周りに漂う魔力を、手に取るように感じられる。



「これは……、いや。 これが≪映写≫!?」

「そうよ、これが私のスキル。 ≪映写≫」

「≪映写≫の感覚を、僕を通してアベルに≪複写≫するとは……っ」



 すっ、と≪映写≫の感覚が途切れると同時に、クロノの側の手が離される。



「はぁ、はぁっ……」



 その場にクロノはしゃがみ込んでしまった。



「さすがに、ちょっと無茶だったかしら……」

「ええ……≪映写≫ほどの情報量を、同時に二人分≪複写≫ですから。 さすがに疲れます……」


「クロノ、リリーさん。 ありがとう! ……これなら、行ける気がする!」



 クロノの≪複写≫で、≪映写≫を俺に伝える。 言われてみれば理解はできるが、パッとこれを思いつくリリーさんもすごい。 おかげで、≪映写≫の感覚を掴めた。

 行ける気がする。 いや、絶対にいける!



「『映写』!」



 先ほどと同じ感覚。

 周囲を流れ漂う魔力、それらを通じて見えてくる……シルエット。 クロノと、リリーさん、アリアと、それに向こうで寝ているリオ。

 周囲を認識できる……!



「わかる、わかるよ! すごい!!」


「おーっ! 一発成功ね!」

「はぁ……はぁっ、よかった。 おめでとう、アベル!」


「お疲れ様、クロノ先生。 それにリリーさんも、ありがとう!」

「いえいえ、ふふっ」


「いやいや……まだ、です。 こんな才能の塊、教師として、そのまま放っておくわけには……はぁっ」

「すこし休みなさい、クロノ。 大丈夫よ、アベル君は逃げないわ。」



 ……うれしくて、感動して。



「ふふふっ……あははっ!!」



 小さな一歩かもしれなくても、俺はうれしかった。 嬉しくて、楽しくて、皆で笑った。

 だがそんな雰囲気は次の瞬間に、いきなりの実践……


 ……いや、”実戦”への突入によって、驚きと唖然へと変わるのだった。


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