白の天使
「ただいまーーー。」
ビャクヤと少年はおばばの家とは反対側の街外れにある大きな平屋の扉を開いた。
ここは「白の天使」と呼ばれる孤児院。
早くして親を亡くした子供たちが身を寄せていた。
2人はそのまま玄関を抜けて大きなリビングに入った。
「おかえりなさーーーい。」
すると声を聞いた子供たちがリビングの奥からビャクヤに向かって駆け寄ってきた。
駆け寄ってきた子供たちの頭を撫でていると、少し遅れて1人の青年が近づいてきた。
青年と言ってもこの部屋の中にいる子供たちの中では、の話である。
実際はビャクヤと同じか少し下くらいに見えた。
「ビャクヤさん、お疲れ様です。」
「シュンか、変わりなかったか?」
シュンと呼ばれた青年は軽く頷いた。
「こちらは特には。
ビャクヤさんの方は?」
シュンからの問い掛けにともに帰ってきた少年は気まずそうな顔をしている。
その顔をちらりと見るとビャクヤはこう答えた。
「・・・こっちも問題ない。」
その言葉を聞いた少年は安堵の表情で奥に入っていった。
「あら、遅かったのね。
もう夕食は済ませてしまったわよ。」
奥から少年とすれ違うように一人の女性が出てきた。
そのたたずまいは子供たちに囲まれ一人だけ大人びた30代に見える。
服は質素なものだが何故か凛とした立ち振る舞いに感じさせた。
「母さん、ただいま。」
ビャクヤが母さんと呼んだ女性はそのままビャクヤに近づくとビャクヤを抱き寄せた。
ビャクヤもそのまま母親に抱かれたまま目を閉じた。
時間にして数十秒だっただろうか。
母親は微笑みながら身体を離した。
「今日もあなたが無事でよかったわ。
夕飯何も食べてないのでしょう?
何か余り物で作るわね。」
そう告げると再び母親は部屋の奥に消えていった。
ビャクヤはリビングの中央に置かれたソファに腰を掛け、深いため息を1つついた。
「お疲れですか?」
シュンが後ろに立ち声をかけた。
「まぁ、な。
生活のこともあるし、それ以外にも常に問題は山積みだ。」
普段のビャクヤであれば周りにこのような弱音とも取れる愚痴を漏らすことはない。
それはシュンへの信頼の裏返しとも言えた。
「何か、手伝いましょうか?」
シュンはビャクヤが抱えている問題を深く聞こうとはせず、その上で手伝えることがあれば手伝うと言ったスタンスで話していた。
この絶妙な距離感がビャクヤには心地よかった。
「今は大丈夫だ。
何かあればその時は頼むよ。」
ビャクヤの言葉にシュンは静かに頷いた。
「では僕はそろそろ休みます。
ビャクヤさんも無理はなさらないように。」
「あぁ、お休み。」
ビャクヤの言葉を聞いたシュンはその場を離れ自分の部屋に戻っていった。
「さて、明日からどう動くか・・・。」
ビャクヤが呟いた時、奥から母親がご飯を持って現れた。
「こんなものしかなかったけどいいかしら?」
母親はソファの前のテーブルにご飯とみそ汁と漬物と焼き魚を置くとビャクヤの隣に座った。
ご飯とみそ汁からは湯気が出ていたが、焼き魚は既に冷めていた。
「十分だよ。
母さん、ありがとう。」
母親はにこにことしながら隣でビャクヤを見ていた。
「そんなに見られてると食べづらいんだけど。。。」
ビャクヤは母親に言ったが母親は一切気にせずビャクヤを見つめ続けていた。
これは何を言っても聞いてくれないやつだと悟ったビャクヤは仕方なしにそのままご飯を頬張り始めた。
周りでは子供たちがくすくすと笑いながら見ている。
「おい、お前らは早く寝ろ!」
ビャクヤの一喝に子供たちは一目散にそれぞれの部屋へと戻って行ったのだった。




